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第四章
第四十一話 後編
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三人の剣士が二方向から一度に襲い来る。
剣豪の振り下ろした刃はグレアが防御の為に立てた剣の間をすり抜け、そのままその下にあった「何か」とぶつかって跳ね返った。
白く輝く小さなものがバラバラと落ちる。
グレアは破砕された「それ」を「隼斬り」の要領で振り回しその欠片で視覚を奪うと、僅かに出来た隙を逃さずもう片方の手で敵兵の首を落とした。
先に敵が見せた居合の一撃。
その太刀筋から「蒼風流」の一技法であること、そしてそのからくり自体は比較的単純であることが見て取れた。
従って同じく「蒼風流」の使い手たる自分にとって全くもって模倣不可だという訳ではない、と彼女は考えたのだ。
無論その質は敵のそれと大きく乖離するものの、それでもたった一瞬の自衛には十分だった。
彼女は裏が鏡になっている特注の鞘を腰のベルトから素早く抜き、刀身に次ぐ第二の防御手段にしたのだ。
遅れて飛んでくる「中火球」。
グレアは剣豪の重たい屍を持ち上げて盾にした後、地面に投げながら接近し、防御体勢を取らせるまでもなく魔法使い二人も撃破した。
もう「沈黙」は強いられない。自由の身になった「魔王の卵」は勝利の確信に充ち満ちた眼差しを動かした。
奥に魔法使い二人が残っている。
彼女は次の標的を定め、剣と魔力を携えて走り出した。
刹那、彼女は違和感を覚えた。
グレアは、天井に向かって“落下”していたのだ。
「くっ…」
咄嗟に宙返りしてなんとか背中を天井に向ける体勢になりながら、背中側に「風射」を発射する。
直後、左脇腹が弾け飛ぶ。
そこには岩の剣、「崖剣」が生えていた。
「ああああああああああああッッッーーーーーー!!」
激痛に叫ぶグレアの目の前に、今度は床が迫る。
石に叩きつけられ、動けなくなった。
「おっと、動いたから外してしまった。今度は攻撃せず、『沈黙』を掛けていよう。お前は思う存分暴れるがいい」
「感謝いたします。教祖様」
グレアは視線を上げ、その虚ろな目を丸くした。
同年代の魔女、その横に立っていた男には見覚えがあった。
「ホー…バ…?」
伯爵城に勤務していた時に解散させた「キリカナム教団」教祖だと思われる男の顔がそこにはあった。
ホーバが面白そうに笑う。
「なんだ、知っているのか。お前と直接的な関わりはなかった筈だが」
「そうですね」
その時、グレアの横へと「黒い狼」が歩いてやって来る。
先程まで敵兵の生首を鷲掴みにしていたその両手は、盟友を傷つけられた怒りに震えていた。
「貴男は“私が”仕留めます」
姿形は変わっていれど、遂に再びまみえた宿敵の姿に男の心は沸き立った。
「すまないな、ジュリ。今は『害獣駆除』に専念する。『沈黙』はこっちに掛けるぞ」
男は天を仰いだ。
「これも運命である。ああ…『善神』よ、今日という日を心より感謝する!」
「グレア様」
「黒い獣」はゆっくりと敵の方へ歩き出しながら言った。
「私のことはいいので、回復に専念してください」
返事は聞こえなかったが、黄金の光が魔力と共に溢れだした。
ラーラは安心し、一呼吸置いてからその力強い脚で走り出した。
きっかけは精神的支柱であったリーダーの死。
「金級」パーティ:「鳥籠」は人間関係の不和が原因となって解散した。
他のメンバーが個人能力を認められ「金級」冒険者として他のパーティに編入する中、カレミードは協会から実力不足であるとみなされ、「銀級」に認定された。
理由は明確だ。
カレミードの武器は中・遠距離から初級「水」属性魔法:「水矢」を用いて人類魔法史上稀なほど正確な射撃が出来ること。裏を返せば、彼に「正確性」以外に特筆すべき点はない。
残念ながら「金級」とするにはいささか魅力が足りなかったのだ。
「金級」の特権はあらゆる場面で強力である。
特権に依存していたカレミードは零落後すぐさま大量の借金に追われ、それが契機となって妻子にも逃げられてしまった。
一人になった家で名誉と称号挽回の為に頭を悩まさせていた彼のもとを訪ねて来たのは黒フードに青白い肌の人物。
一見病弱で地味な容姿の娘は現在進行形で裏社会に轟いている「旬な」ビッグネーム:「七色の魔獣使い」、サナと名乗った。
サナはとある知人の紹介でここに来たと言った。
その目的は配下の魔獣を討伐した「夜明けの旅団」を探し出すこと。
国内の数多ある「冒険者同盟」の中でも結束力が強く比較的「クリーン」な「貴金属同盟」において賞金首、その中でもかなりの「大物」と関係を持とうとする冒険者は決して多くない。
「なるほど、筋は通っている。それで、報酬はなんだ?」
「報酬? 違うな。あたしたちは協力関係になるんだぜ。あたしは知人から教えてもらえる連中の位置情報をお前に知らせる。それからうちの子たちから取った装備制作に使えそうな研究データを渡す。あと活動資金も。お前はそれを使って奴らを捕まえて来る『実行犯』ってことだ」
カレミードは(元)「金級」や「銀級」というネームヴァリューを宣伝、自らと似た境遇の冒険者を集めて総員26人から成る「レイド」を編成し、「夜明けの旅団」各メンバーの能力を対策した特注装備を制作した。
会敵予定の王都:ケンデシュバールで合流したあるパーティは同じくケンダル王国の賞金首であった「キリカナム教団」教祖:ホーバをその連れと共に拘束し、引き連れていた。
王都に来てからサナの連絡が遅れ、「夜明けの旅団」の正確な居場所は長らく不明だったが、宿のロビーで食事中のホーバが偶然屋内に入って来るグレアを発見したことを皮切りとして、遂に計画が組まれることになった。
ジュリと呼ばれた「キリカナム教団」信徒が両手に魔力を込め、ラーラに「死天」を向ける。
天地逆転。しかし、しなやかな筋肉で構成された肉体を持つ「黒い狼」は素早く身を翻し、肉球に似た器官の付いた足で音もなく“天井に”着地すると、何事もなかったかのようにすぐに走り出した。
敵との距離がみるみるうちに縮まっていく。
ラーラは十分に接近してから地面を強く蹴り、敵に飛び掛かった。
だが空中に飛び出したその時、重力が反転する。
着地自体は危なげなく成功したが敵たちはその間に距離を取り、同時に次の一撃の準備をしていた。
放たれた「中火球」は分裂し、高速で飛来する無数の「小火球」と化した。
ラーラは両足に力を込め、余裕を持って回避体勢を取れていた。
でもそれ以上に重要なことを感じ取ったのだ。
「グレア様!」
バラけた火球の一部は地面に臥したままなグレアの方へ。
ラーラはその前に立ちはだかったが、さらにその前へとグレアは飛び出した。
飛んでくる火球を剣術で捌く。
「お陰様で、見ての通り動けるようになりました。さあ、行きますよラーラ様!」
「はい!」
二人は同時に走り出した。
「回復能力持ちとは盲点だった。…だが面白い! 二対二でもいいか、ジュリ!」
ホーバが両手に魔力を込め直す。
「沈黙」が解除された一瞬。
ラーラはホーバの放つ大質量の魔力を大華輪の姿で発現させる「闇」魔法、「黒百合《バラリーレス》」を同じ魔法で相殺すると、方向転換してジュリの方へと走っていった。
ジュリは突然のことに戸惑いながらも、「穹砲」と元々教団由来であった「鎌鼬」とを掛け合わせた発射速度に優れる魔法を迎撃手段として選択した。
しかし攻撃の間際、「駿馬」を用い一瞬にしてホーバの攻撃を躱しつつ視界の端に突入してきたグレアの手から、瞬く間に「光槍」が飛び出す。
「キリカナム教団」唯一の信徒は黒色の砂塵となって崩れ落ちた。
「さて」
飛んでくる「闇」魔法をまたも相殺しながらラーラは敵を見据えた。
「とっとと終わらせて合流しましょう、グレア様」
「ですね」
グレアが「光槍」を、ラーラが「黒百合」をその手から放つ。
だが光と闇は交わったまま敵が高く上げた膝の中へと吸い込まれていった。
そこにはまさに「鏡鱗」に似た物質があった。
「やれやれ、せっかく出来た思想共有者だったのに。魔法の才だって十分だった…」
ホーバが首を横に振りながら悲しげに呟いた。
「連中は今頃あの世だ。もし恋しいのなら、喜んで望みを叶えてやろう」
ホーバの全身に灰色の物体が集まり、杖を携え魂と魔力で出来た「霊体」を形成する。
「『醒魂歌』…。防御手段としては単純だし強力そうですが…」
ラーラには考えがあった。
「本当に悪趣味ですね。戦って散った仲間の魂で自分だけ身を守るなんて」
ラーラも同様に「醒魂歌」を発動する。
「死んだ方も裏切り者よりは敵の側に付く方がまだマシと考えるのではないでしょうか」
途端にホーバにまとわりついていた魂たちはラーラの方に巻き取られ、本体が露わになる。
歴戦のラーラの魔力は既にホーバのそれを大きく上回っていた。同一の魔法を同時に発動すれば、魔力で勝る方に自ずと結果は現れる。
姿を現したホーバに対し、グレアが素早く近付いて斬撃を見舞う。
敵はそれを腕で受けながら同時に「接木」で再生し、そのまま至近距離から「穹砲」を放とうとした。
刹那、ホーバは顔面に膝蹴りを受け、顎の骨がぐちゃぐちゃに砕けるのを感じながら力なく地面に倒れた。
「霊体の中に居る時は判断力が落ちちゃいますからね。すぐ解除するに決まっているでしょう? こんな欠陥魔術」
ラーラはその拳を力強く握りしめた。
「よくもあの人を傷つけてくれましたね。異端者は異端者らしく、地獄で悔い改めてください」
頭蓋骨が砕ける音が階層全体に響いた。
剣豪の振り下ろした刃はグレアが防御の為に立てた剣の間をすり抜け、そのままその下にあった「何か」とぶつかって跳ね返った。
白く輝く小さなものがバラバラと落ちる。
グレアは破砕された「それ」を「隼斬り」の要領で振り回しその欠片で視覚を奪うと、僅かに出来た隙を逃さずもう片方の手で敵兵の首を落とした。
先に敵が見せた居合の一撃。
その太刀筋から「蒼風流」の一技法であること、そしてそのからくり自体は比較的単純であることが見て取れた。
従って同じく「蒼風流」の使い手たる自分にとって全くもって模倣不可だという訳ではない、と彼女は考えたのだ。
無論その質は敵のそれと大きく乖離するものの、それでもたった一瞬の自衛には十分だった。
彼女は裏が鏡になっている特注の鞘を腰のベルトから素早く抜き、刀身に次ぐ第二の防御手段にしたのだ。
遅れて飛んでくる「中火球」。
グレアは剣豪の重たい屍を持ち上げて盾にした後、地面に投げながら接近し、防御体勢を取らせるまでもなく魔法使い二人も撃破した。
もう「沈黙」は強いられない。自由の身になった「魔王の卵」は勝利の確信に充ち満ちた眼差しを動かした。
奥に魔法使い二人が残っている。
彼女は次の標的を定め、剣と魔力を携えて走り出した。
刹那、彼女は違和感を覚えた。
グレアは、天井に向かって“落下”していたのだ。
「くっ…」
咄嗟に宙返りしてなんとか背中を天井に向ける体勢になりながら、背中側に「風射」を発射する。
直後、左脇腹が弾け飛ぶ。
そこには岩の剣、「崖剣」が生えていた。
「ああああああああああああッッッーーーーーー!!」
激痛に叫ぶグレアの目の前に、今度は床が迫る。
石に叩きつけられ、動けなくなった。
「おっと、動いたから外してしまった。今度は攻撃せず、『沈黙』を掛けていよう。お前は思う存分暴れるがいい」
「感謝いたします。教祖様」
グレアは視線を上げ、その虚ろな目を丸くした。
同年代の魔女、その横に立っていた男には見覚えがあった。
「ホー…バ…?」
伯爵城に勤務していた時に解散させた「キリカナム教団」教祖だと思われる男の顔がそこにはあった。
ホーバが面白そうに笑う。
「なんだ、知っているのか。お前と直接的な関わりはなかった筈だが」
「そうですね」
その時、グレアの横へと「黒い狼」が歩いてやって来る。
先程まで敵兵の生首を鷲掴みにしていたその両手は、盟友を傷つけられた怒りに震えていた。
「貴男は“私が”仕留めます」
姿形は変わっていれど、遂に再びまみえた宿敵の姿に男の心は沸き立った。
「すまないな、ジュリ。今は『害獣駆除』に専念する。『沈黙』はこっちに掛けるぞ」
男は天を仰いだ。
「これも運命である。ああ…『善神』よ、今日という日を心より感謝する!」
「グレア様」
「黒い獣」はゆっくりと敵の方へ歩き出しながら言った。
「私のことはいいので、回復に専念してください」
返事は聞こえなかったが、黄金の光が魔力と共に溢れだした。
ラーラは安心し、一呼吸置いてからその力強い脚で走り出した。
きっかけは精神的支柱であったリーダーの死。
「金級」パーティ:「鳥籠」は人間関係の不和が原因となって解散した。
他のメンバーが個人能力を認められ「金級」冒険者として他のパーティに編入する中、カレミードは協会から実力不足であるとみなされ、「銀級」に認定された。
理由は明確だ。
カレミードの武器は中・遠距離から初級「水」属性魔法:「水矢」を用いて人類魔法史上稀なほど正確な射撃が出来ること。裏を返せば、彼に「正確性」以外に特筆すべき点はない。
残念ながら「金級」とするにはいささか魅力が足りなかったのだ。
「金級」の特権はあらゆる場面で強力である。
特権に依存していたカレミードは零落後すぐさま大量の借金に追われ、それが契機となって妻子にも逃げられてしまった。
一人になった家で名誉と称号挽回の為に頭を悩まさせていた彼のもとを訪ねて来たのは黒フードに青白い肌の人物。
一見病弱で地味な容姿の娘は現在進行形で裏社会に轟いている「旬な」ビッグネーム:「七色の魔獣使い」、サナと名乗った。
サナはとある知人の紹介でここに来たと言った。
その目的は配下の魔獣を討伐した「夜明けの旅団」を探し出すこと。
国内の数多ある「冒険者同盟」の中でも結束力が強く比較的「クリーン」な「貴金属同盟」において賞金首、その中でもかなりの「大物」と関係を持とうとする冒険者は決して多くない。
「なるほど、筋は通っている。それで、報酬はなんだ?」
「報酬? 違うな。あたしたちは協力関係になるんだぜ。あたしは知人から教えてもらえる連中の位置情報をお前に知らせる。それからうちの子たちから取った装備制作に使えそうな研究データを渡す。あと活動資金も。お前はそれを使って奴らを捕まえて来る『実行犯』ってことだ」
カレミードは(元)「金級」や「銀級」というネームヴァリューを宣伝、自らと似た境遇の冒険者を集めて総員26人から成る「レイド」を編成し、「夜明けの旅団」各メンバーの能力を対策した特注装備を制作した。
会敵予定の王都:ケンデシュバールで合流したあるパーティは同じくケンダル王国の賞金首であった「キリカナム教団」教祖:ホーバをその連れと共に拘束し、引き連れていた。
王都に来てからサナの連絡が遅れ、「夜明けの旅団」の正確な居場所は長らく不明だったが、宿のロビーで食事中のホーバが偶然屋内に入って来るグレアを発見したことを皮切りとして、遂に計画が組まれることになった。
ジュリと呼ばれた「キリカナム教団」信徒が両手に魔力を込め、ラーラに「死天」を向ける。
天地逆転。しかし、しなやかな筋肉で構成された肉体を持つ「黒い狼」は素早く身を翻し、肉球に似た器官の付いた足で音もなく“天井に”着地すると、何事もなかったかのようにすぐに走り出した。
敵との距離がみるみるうちに縮まっていく。
ラーラは十分に接近してから地面を強く蹴り、敵に飛び掛かった。
だが空中に飛び出したその時、重力が反転する。
着地自体は危なげなく成功したが敵たちはその間に距離を取り、同時に次の一撃の準備をしていた。
放たれた「中火球」は分裂し、高速で飛来する無数の「小火球」と化した。
ラーラは両足に力を込め、余裕を持って回避体勢を取れていた。
でもそれ以上に重要なことを感じ取ったのだ。
「グレア様!」
バラけた火球の一部は地面に臥したままなグレアの方へ。
ラーラはその前に立ちはだかったが、さらにその前へとグレアは飛び出した。
飛んでくる火球を剣術で捌く。
「お陰様で、見ての通り動けるようになりました。さあ、行きますよラーラ様!」
「はい!」
二人は同時に走り出した。
「回復能力持ちとは盲点だった。…だが面白い! 二対二でもいいか、ジュリ!」
ホーバが両手に魔力を込め直す。
「沈黙」が解除された一瞬。
ラーラはホーバの放つ大質量の魔力を大華輪の姿で発現させる「闇」魔法、「黒百合《バラリーレス》」を同じ魔法で相殺すると、方向転換してジュリの方へと走っていった。
ジュリは突然のことに戸惑いながらも、「穹砲」と元々教団由来であった「鎌鼬」とを掛け合わせた発射速度に優れる魔法を迎撃手段として選択した。
しかし攻撃の間際、「駿馬」を用い一瞬にしてホーバの攻撃を躱しつつ視界の端に突入してきたグレアの手から、瞬く間に「光槍」が飛び出す。
「キリカナム教団」唯一の信徒は黒色の砂塵となって崩れ落ちた。
「さて」
飛んでくる「闇」魔法をまたも相殺しながらラーラは敵を見据えた。
「とっとと終わらせて合流しましょう、グレア様」
「ですね」
グレアが「光槍」を、ラーラが「黒百合」をその手から放つ。
だが光と闇は交わったまま敵が高く上げた膝の中へと吸い込まれていった。
そこにはまさに「鏡鱗」に似た物質があった。
「やれやれ、せっかく出来た思想共有者だったのに。魔法の才だって十分だった…」
ホーバが首を横に振りながら悲しげに呟いた。
「連中は今頃あの世だ。もし恋しいのなら、喜んで望みを叶えてやろう」
ホーバの全身に灰色の物体が集まり、杖を携え魂と魔力で出来た「霊体」を形成する。
「『醒魂歌』…。防御手段としては単純だし強力そうですが…」
ラーラには考えがあった。
「本当に悪趣味ですね。戦って散った仲間の魂で自分だけ身を守るなんて」
ラーラも同様に「醒魂歌」を発動する。
「死んだ方も裏切り者よりは敵の側に付く方がまだマシと考えるのではないでしょうか」
途端にホーバにまとわりついていた魂たちはラーラの方に巻き取られ、本体が露わになる。
歴戦のラーラの魔力は既にホーバのそれを大きく上回っていた。同一の魔法を同時に発動すれば、魔力で勝る方に自ずと結果は現れる。
姿を現したホーバに対し、グレアが素早く近付いて斬撃を見舞う。
敵はそれを腕で受けながら同時に「接木」で再生し、そのまま至近距離から「穹砲」を放とうとした。
刹那、ホーバは顔面に膝蹴りを受け、顎の骨がぐちゃぐちゃに砕けるのを感じながら力なく地面に倒れた。
「霊体の中に居る時は判断力が落ちちゃいますからね。すぐ解除するに決まっているでしょう? こんな欠陥魔術」
ラーラはその拳を力強く握りしめた。
「よくもあの人を傷つけてくれましたね。異端者は異端者らしく、地獄で悔い改めてください」
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