魔王メーカー

壱元

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第四章

第四十一話 前編

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 向かってきた大柄な重装兵士を「駿馬」を利用した剣撃で弾き飛ばし、横から現れた剣士による斬撃を受け流し柄で鳩尾を突いて怯ませる。
グレアがそのような白兵戦を繰り広げている一方、ラーラは魔法や矢を避けたり「闇」魔法で打ち消しつつ弱い電撃魔法によって敵を次々無力化していた。
「殺さない方がいいですよね?」
生まれた一瞬の隙を使い、珍しくラーラの方から相方に質問が飛ばされた。
グレアも攻撃を避けながら、何とか暇を見つけて答えた。
「そうですね。相手も冒険者だから…」
だが回答を言い終わる前のグレアの視界に広がったのは、棘付きの鉄球。
辛うじて成功した回避、抉れた頬から吹き出す血潮、攻撃者の据わった視線…
感じたのは確固たる「殺意」。
刹那、グレアは理解した。
今目の前に居る者は自分たちの首を本気で狙っているのだと。
例え肉片になるまで切り刻んでも、それが「伯爵殺し」であると識別できるならば、王の御前に持っていくつもりであると。
相手は殺る気だ。こちらもそうならなければ、「呑まれて」しまう。
グレアは今フレイルを飛ばしてきた青い鎧の戦士に魔力を向けると、兜の内側
に「深淵刀ドスポールアサーレ」を発生させ、即死させた。
さらに奥に居た魔法使い数人を「死天メメンエスク」で頭から天井に「落下」させて無力化した。
「前言撤回です」
動揺する襲撃者たちを横目にグレアは言った。
「目には目を。殺意には殺意を」
その言葉を聞き、ラーラはニヤリと笑った。
「その方がよさそうですね」
次の瞬間、襲い掛かって来る武闘家の首、その後ろの弓兵二人と魔法使い一人の首を「星滅刀ステレアジアサーレ」の黒い一閃で立て続けに刎ねると、女戦士の振り回す金属の鞭の先端を闇で呑み込んで消滅させ。
そしてラーラ自ら距離を詰めつつ「闇」も前方へと移動させて戦士本体まで消滅させた。
だがさらに他の冒険者に向けて魔法を放とうとした時、異変が起こった。
突如として魔力が放出できなくなったのだ。
ラーラの優秀な頭脳を以てすれば、行く手を阻んでいる「それ」が「魔法を禁止する魔法」:「沈黙シレンシ」に因るものであることを理解するのに時間は掛からなかった。
しかしその術者を発見するまでに要した約1秒は「銀級」の戦士たちが肉薄するのには十分な時間だった。
(しまった…!)
咄嗟に身を躱すが不十分だった。
振るわれた刃が左の頬と肩を僅かに切り取った。
攻撃は止まらず、苦痛に歪んだラーラの顔に追撃が迫る。
 その頃もう一人の「魔王の卵」も魔法を駆使して敵を次々殲滅し、あと4人を残す所となっていた。
だが、やはり敵の魔法使いに魔法攻撃を仕掛けようとした瞬間、逆に「沈黙」を受けた。
隙を見逃さなかった「連合軍」一番の剣豪が「駿馬」を使って飛び出し、蒼色の閃光と共に神速の居合切りを放つ。
「蒼風流」中級技法の一つ、「飛燕」である。
大抵の剣士であれば真っ二つになっているところだ。しかしグレアは剣を弾かれ、手から離しそうになりながらではあるが、辛くも防御を間に合わせた。
最近強度を増してきた「炎刃」による剣術稽古。リレラが放つ剣技の中には「飛燕」に殆ど匹敵する速度のものもあったのだ。
(奇跡的に間に合った。だけど…!)
抜かれた剣は天高く伸び、瞬く間に返されて振り下ろされる。
グレアは思い切って背中から地面にバタンと倒れることで攻撃を回避すると、魔力を纏わせて加速させた脚により、回避不可能の足払いを喰らわせた。
敵の剣士は地面に倒れ、その間にグレアは立ち上がりつつ距離を取ったが、その間際に脛を浅く斬られ苦悶の表情を浮かべる。
しかし呼吸を整える間もなく「中火球ミドシア」が「沈黙」を使用しているのとは別の魔法使いによって放たれる。
その回避によって奪われた時間を利用して先程の剣士が接近し、またも素早く剣を振り下ろす。



 同時刻、マギクたちもまた刺客相手に苦戦を強いられていた。
リレラが敵の防御の隙を狙って素早い斬撃を見舞う。
敵がそれを独特な形状の剣で半端な体勢になりながらも受けると、衝撃によって刀身内の機械が反応し、溝の間から粉末を噴出する。
(しまった!)
リレラは急いで口を押さえ目を細めながら距離を取るが、涙で視界は完全にぼやけ、鼻水で呼吸は妨げられ、さらに思わず咳き込んでしまう。
敵は追撃を繰り出してくる。
それに対応しようとした時、横からも顔を防塵の特殊な器具で覆った女が飛び出し、リレラの首に短刀を突き立てる。
他方、ジールバードは暗殺術の使い手二人を相手に、全身を切り刻まれながらサブウェポンの鉤爪のみで応戦していた。
ダンジョンの空間的制約に加え、背中のライフルに手を伸ばす僅かな時間さえ与えぬ怒涛の近距離連撃が「星狩り」の名を無意味なものに陥れていた。
そこから数十メートルほど離れた場所ではウロとマギクが数人の魔法使いに「沈黙」を絶え間なく掛けられながら「白巌流」の大男の攻撃を躱していた。
マギク目掛けて続く一撃をウロが三日月型の盾で受け止める。
この盾は攻撃者の精神を惑わす魔法を放つ高級魔具だが、「魔法の放出を妨げる魔法」、「沈黙」によってもはやその本領を発揮することは出来ず、せいぜいそこら辺の平々凡々な量産型の金属盾と同等にまで落ちぶれてしまっているのだ。
だが、より悲惨なのは純粋な魔法使いたる「奇跡のマギク」だ。
一切の攻撃手段を封印され、文字通り逃げ惑うことしか出来なくなっている。
「クソが!」
ウロが大男に魔法の剣で反撃の「隼斬り」を見舞う。
その瞬間、世界最硬たるミスリル鉱石によって作られた大盾が飛び出し、攻撃を防ぎながらウロとマギクをまとめて後方へと吹き飛ばす。
「よくやったぞ!」
「正義のならずもの集団」の頭領:カレミードが走り、杖の先端に魔力を込める。
盾、剣、鎧の合間を通す「水矢シャルロー」。
カレミードが「金級」に成れた理由であり、同時に現在「銀級」相当の評価しか受け取れていない理由でもある、その低威力ながら正確無比な一撃が回避の為に上半身を大きく反らしたマギクの手首を撃ち抜き、切断する。
「があッ!!!」
激痛に叫喚するマギクの姿に愉悦を覚え、カレミードは笑う。
「こっちはお前たちの手札を全て把握しているんだ。正攻法でやっても勝てなければこうするまでだろう?」
(それにしても運が良かったな)
彼は回想していた。
(まさかあの「七色の魔獣使い」の訪問を受けるとは)
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