魔王メーカー

壱元

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第四章

第四十話

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 鎧と剣を装備した「骸骨兵スケルタル・ウォーリアー」がゆっくりと起き上がり、四方八方から一斉に迫り来る。
一瞬ラーラと視線を交わした後に走り出し、敵たちの隙間を通り抜けながら剣を振るう。
直後、背後からはバチバチという音が聞こえ、閃光が暗闇を斬り裂いた。
バラバラと音を立てて敵たちが崩れ去る。
「ふう」
私は息を吐きながら静かに納刀した。
「ラーラ様」
「なんですか?」
「思ったんですけど」
「はい」
私は呼吸を整えて、言った。
「あまりに簡単すぎませんか…?」
「…奇遇ですね。私もおんなじことを考えていたところです」
まだ一時間も経っていない筈なのに、もう4階層中3階層まで辿り着いてしまった。
しかも二人とも無傷だ。どころか敵の攻撃が掠ったことすらない。
「揃いも揃って動きが遅すぎる…。話を聞いて厄介だと思ってた『弓兵』もまだ三体しか見てませんよ」
「しかも弓を引くのに時間が掛かりすぎて簡単に私の『闇』魔法で対処できちゃうし…」
ふと地面に落ちている骸骨兵の剣を拾い上げ、軽く前腕の肌に当てて引いてみる。
…思った通りだ。全く切れない。
「刃まで落としてありますよ。もうどうしようもないですね」
「いや、この感じ…もしかしたら時間が掛かって自然にこうなったのかもしれません。研ぐ人も居なさそうですし」
「どうなんでしょう…」
手が加わったから斬れなくなったのか、加わらなかったから斬れなくなったのか、それとも敢えて斬れなくなるよう加えなかったのか。
このダンジョンに限ってはどれもありえそうだ。
 さらに先に進むとなんと看板があり、それに従っていくと冒険者専用のトイレまであったが、酷い状態で使う気になれなかった。
「管理しすぎているのか、しなさ過ぎているのか」
骸骨兵三体の首を飛ばしながら私はラーラに話し掛けた。
「ラーラ様はどっちだと思いますか?」
「うーん…」
右手から放つ「雷」魔法で敵の軍勢を一掃しながらラーラは答えた。
「私は『管理しなさすぎ派』ですかね。さっきのトイレも元々はここがダンジョンになる前に利用者に使われていたものを冒険者用ってことにしているだけかもしれません。この場所だって人工物である以上何か目的があって造られたんでしょうし」
なるほど、確かに今はダンジョンになってしまっているとはいえ、最初から「ダンジョンにする」ことを目的に建造を進めたとは常識的に考えにくい。
でも、もしかしたらこの場所はその「常識」を逸脱した数少ない例外なのではないか。
王都郊外という好立地、「お楽しみダンジョン」、出没するのは「骸骨兵」のみという特徴…
そこには何者かの意図が読み取れる気がした。
「話は変わりますが」
ラーラが後ろを振り返りながら言った。
「みんなは本当に来ているんでしょうか? 見える範囲には居ないようですが」
「あれ?」
私も一抹の不安に駆られて後ろを振り向いた。
その瞬間、何者かの気配をーー「骸骨」共とは明らかに異質な気配を死角に感じた。
咄嗟に剣を振り回すと、相手はそれを盾で受け止めた。
すぐさま放たれた反撃をなんとか躱し、距離を取る。
「おいおい、危ねえじゃねえか嬢ちゃん」
重装備の戦士はこちらを見てゲラゲラと笑った。
私達は既に囲まれていたのだ。
その数は10人以上…!
その全てが冒険者らしかった。
「…あなた方は何者ですか?」
私と背中合わせの位置に立つラーラは穏やかながらも、確かな警戒心のこもった声で問いかけた。
「聞いてなかったのぉ?」
群衆の中にいた、金属の鞭を持つ女戦士が嘲笑する。
「このダンジョンを楽しんでるのはあんたらだけじゃないの」
…思い出した。「夜明けの旅団わたしたち」の他に三つのパーティが潜ると昨日聞かされていたな。
でも、あいつの言ったことはラーラの質問への答えとしては不十分だ。
「変わって私が皆さんに質問したい。皆さんは私達二人をこういうふうに取り囲んでいますが、どういったご用件ですか?」
「わからないか?」
私の問いに銀のプレートの付いたネックレスを首からかけた魔法使いが答えた。
「俺たちは同じ『貴金属同盟』の尊き友人である『夜明けの旅団』が今まさに進んでいる『邪道』をただしに来たんだ」
「『邪道』?」
私の発言を群衆が笑う。
「お国に喧嘩吹っ掛けて、あっさり捕まって…まあ考えてたとおりだが、やっぱりただの馬鹿なガキだったな。こんな連中を引き連れるなんて、アイツらも本当にイカレちまってんだな」




 同時刻、「骸骨兵の迷宮」第2階層終盤にて。
「これはどういうつもりだい、カレミード?」
マギクが問いかけている相手は複数の冒険者に囲まれて立っている、「金」級と「銀」級両方のネックレスを首から下げている中年の男性魔法使い。
「どういうつもりだって? それはこっちの台詞だよマギク君。君たちこそ賞金首を連れてこんなところに来るなんてどうしたんだい? 『おともだちごっこ』の相手ならもっと慎重に選ぶべきじゃないかなあ? 君たちは一応『金級』なんだからさ…」
男の目が鋭く光る。
「なるほどな。てめえの目的は大体分かった」
ウロがその目を睨み返しながら言う。
「自力じゃ賞金首が捕まえられねえから、オレたちから奪おうって訳だな」
その言葉を聞いた途端、男は目を吊り上げ、歯をむき出した。
「犯罪者どもが...! お前らは何も分かっちゃいない! 俺のさじ加減一つでお前らは『貴金属同盟』除籍だ! それだけじゃない、賞金首を仲間として引き連れていたんだから冒険者としても失格になるし、どころか『首を狙われる側』にだって転じかねない! ハッ! 愚か者どもめ、これでようやく少しは自分の立場を理解したか?」
「なるほどね」
マギクは言った。
「確かに僕たちのやっていることは立派な違反行為だ。でもかつて放任主義の『冒険者協会』が世界に1000人も居ない『金級』冒険者を重い腰を上げてまでわざわざ減らす真似をするかな? それに、逆恨みで襲撃されたらいくら協会といえどそれなりに面倒な筈だよ。あと、忘れているかもしれないけど『貴金属同盟』の資金の半分は僕たちが出してる。それに、『金級』から『銀級』に堕ちた者の言い分と”現役の”『金級』の意見とじゃ…どちらが信頼されるかな?」
彼の発言がカレミードをさらに激高させた。
「調子に乗れるのも今の内だけだ、同盟の裏切者どもめ! お前たち、やってしまえ!」
15人の「銀級」冒険者は武器を構え、「夜明けの旅団」に一斉に襲い掛かった。
そして同時にグレア、ラーラの二人に対しても11人の刺客たちが攻撃を開始していた。
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