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第四章
第三十九話
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べレムジアの魔法宝箱の中身が二倍に増えていた。
「これで正真正銘、遊んで暮らせるって訳だね」
マギクが笑って言う。
「今夜、改めてこれまでの旅の無事と依頼の成功を祝おうか」
その一声に皆が口をそろえて応え、そのまま夜通し祝宴が開かれた。
翌日、昼食中にジールバードがふと言った。
「昨日のことだが、こいつらに『ダンジョン』を攻略させないか? 経験を積ませる方法がないって言ってただろう? あと実力を見る場所も必要だと」
朝にたまたま見かけてな、と彼がコートの胸元から取り出して広げて見せたのは、どうやら王都周辺にある迷宮の地図だった。
「『骸骨兵の迷宮』…?」
マギクが手を止めてその名前を読み上げる。
「ああ。所謂『お楽しみダンジョン』って奴だな」
「『お楽しみダンジョン』…?」
私は首を傾げた。
「おっと、そもそも『ダンジョン』っていうのが何か分かってるか?」
ウロがそれに気付いて話を振ってくれた。
「ごめんなさい、恥ずかしながら初耳です」
「元々冒険者じゃなかったんだ。無理もねえわな。『ダンジョン』ってのは簡単に言えば魔物の住処になってる洞窟とか地下迷宮で、奥に財宝とかがあって、攻略するのに意味がある場所のことだ。ダンジョンは冒険者協会の認可を受けて登録される。そんでもってムズさによって等級の制限がある所が多くて、受付で許可された冒険者しか入れねえ。『お楽しみダンジョン』ってのは業界用語だ。整備されてるから、わりかし安全に攻略できる。制限も緩い。しかも、この『骸骨兵の迷宮』ってのは…」
「そうだ」とジールバード。
「実体があるタイプの『死霊』が多くて、倒してもほうっときゃ元に戻る。悪趣味だが『お遊び』なら壊れねえオモチャは最適だろう?」
「壊れない…って?」
私が口にした疑問に答えてくれたのはマギクだった。
「実体がある『死霊』は、死体に魔力が流れたり…或いは流されたりして無理やり動いているもののことを言うんだけど、中には完全に骨だけになっても動く場合がある。しかし、僕たちの身体を動かしているのは筋肉と腱だよね? 骨だけの場合、魔力が無理矢理関節を繋ぎ止めて、無理矢理動かしている。だから魔力という強力な物質がその状態を維持できる範囲でならどれくらい破損しても問題がないんだ。その結果、倒された『骸骨兵』は多くの場合時間がたてば元の姿のまま再び立ち上がる。『骸骨兵の迷宮』はその性質を利用して『何度でも楽しめる』ように設計されているって訳さ」
「なるほど…。悪趣味って言ってたのも頷けます」
ただ、話を聞いている感じでは私が過去に戦った「剣士霊」のように死者の魂がその身体を動かしている訳ではないようだ。
悪趣味でもそれだけは救いだ。
「さて、このジールバードの提案にみんなは賛成かな?」
マギクの問いに真っ先に答えたのはリレラだった。
「あたしは賛成だよ! グレアがどう戦うか見てみたいんだ。剣術を教える時もそれが分かってた方がいいし」
リレラには最近は単に稽古をつけてもらうだけじゃなく、剣術の基礎について直接指導しても貰っている。
バセリアに勝るとも劣らない師だ。
続いてウロも賛成すると、
「お前ら本人の意見は?」
とこちらを向いた。
パーティの一員となる以上、能力は共有しておいた方がいい。
それに正直なところ、魔法を使いたくて最近はうずうずしていたのだ。
「お願いします」
私は答えた。
「私を鍛えさせてください」
「でしたら、私も賛成するしかありませんね」
隣から声が聞こえ、私も含め全員の視線がそこに集まった。
いつの間にか目覚めていたラーラが静かに微笑んでいた。
ダンジョン攻略は明日の13時頃開始だ。最奥部までは2時間ほどかかる見込みで、他のメンバーは後方から私達に付いて来ることになる。ただし干渉を最小限にする為距離は出来る限り離しておく。
また、私達の他に三つのパーティも潜る予定らしい。
長時間の攻略に備えて鞄を新調し、そこに水筒と携帯食、救急用具を詰め込んだ。
迎えた当日。受付を済ませ、案内されて向かった先には、地下へと続く小さな階段があった。
「後から行くからな」
「はい」
ウロの言葉に返事する。
「ハッ! 緊張してんのか?」
「久しぶりの実戦ですから…」
「お前らなら大丈夫に決まってんだろ。このダンジョンは『銅級』2人でも攻略できんだから。変に身構えないで楽しむつもりで行け。まあ、もちろん油断大敵ではあるけどな」
そうか、ここは「お楽しみダンジョン」。楽しまなきゃ損だ。
それに、私達は四人の「銀級」パーティを二人で壊滅させたことだってあるのだ。
「そうですね。これくらいパパッと攻略してきます!」
手を振って一旦別れ、薄暗い階段を降りていく。
「ラーラ様、寝ないでくださいね」
私が冗談交じりに言うと、
「ご心配には及びませんよ」
と余裕げに彼女は返答した。
「こうなることは予想していましたから、最近は多めに寝て調整しておいたくらいです」
「予想って…あっ」
思い返せば、提案者はジールバード。
私の胸は改めて自信と勝利への確信に満ち溢れた。
隣に居るのは既に「魔王」への道を着実に歩み始めている人物なのだから。
「これで正真正銘、遊んで暮らせるって訳だね」
マギクが笑って言う。
「今夜、改めてこれまでの旅の無事と依頼の成功を祝おうか」
その一声に皆が口をそろえて応え、そのまま夜通し祝宴が開かれた。
翌日、昼食中にジールバードがふと言った。
「昨日のことだが、こいつらに『ダンジョン』を攻略させないか? 経験を積ませる方法がないって言ってただろう? あと実力を見る場所も必要だと」
朝にたまたま見かけてな、と彼がコートの胸元から取り出して広げて見せたのは、どうやら王都周辺にある迷宮の地図だった。
「『骸骨兵の迷宮』…?」
マギクが手を止めてその名前を読み上げる。
「ああ。所謂『お楽しみダンジョン』って奴だな」
「『お楽しみダンジョン』…?」
私は首を傾げた。
「おっと、そもそも『ダンジョン』っていうのが何か分かってるか?」
ウロがそれに気付いて話を振ってくれた。
「ごめんなさい、恥ずかしながら初耳です」
「元々冒険者じゃなかったんだ。無理もねえわな。『ダンジョン』ってのは簡単に言えば魔物の住処になってる洞窟とか地下迷宮で、奥に財宝とかがあって、攻略するのに意味がある場所のことだ。ダンジョンは冒険者協会の認可を受けて登録される。そんでもってムズさによって等級の制限がある所が多くて、受付で許可された冒険者しか入れねえ。『お楽しみダンジョン』ってのは業界用語だ。整備されてるから、わりかし安全に攻略できる。制限も緩い。しかも、この『骸骨兵の迷宮』ってのは…」
「そうだ」とジールバード。
「実体があるタイプの『死霊』が多くて、倒してもほうっときゃ元に戻る。悪趣味だが『お遊び』なら壊れねえオモチャは最適だろう?」
「壊れない…って?」
私が口にした疑問に答えてくれたのはマギクだった。
「実体がある『死霊』は、死体に魔力が流れたり…或いは流されたりして無理やり動いているもののことを言うんだけど、中には完全に骨だけになっても動く場合がある。しかし、僕たちの身体を動かしているのは筋肉と腱だよね? 骨だけの場合、魔力が無理矢理関節を繋ぎ止めて、無理矢理動かしている。だから魔力という強力な物質がその状態を維持できる範囲でならどれくらい破損しても問題がないんだ。その結果、倒された『骸骨兵』は多くの場合時間がたてば元の姿のまま再び立ち上がる。『骸骨兵の迷宮』はその性質を利用して『何度でも楽しめる』ように設計されているって訳さ」
「なるほど…。悪趣味って言ってたのも頷けます」
ただ、話を聞いている感じでは私が過去に戦った「剣士霊」のように死者の魂がその身体を動かしている訳ではないようだ。
悪趣味でもそれだけは救いだ。
「さて、このジールバードの提案にみんなは賛成かな?」
マギクの問いに真っ先に答えたのはリレラだった。
「あたしは賛成だよ! グレアがどう戦うか見てみたいんだ。剣術を教える時もそれが分かってた方がいいし」
リレラには最近は単に稽古をつけてもらうだけじゃなく、剣術の基礎について直接指導しても貰っている。
バセリアに勝るとも劣らない師だ。
続いてウロも賛成すると、
「お前ら本人の意見は?」
とこちらを向いた。
パーティの一員となる以上、能力は共有しておいた方がいい。
それに正直なところ、魔法を使いたくて最近はうずうずしていたのだ。
「お願いします」
私は答えた。
「私を鍛えさせてください」
「でしたら、私も賛成するしかありませんね」
隣から声が聞こえ、私も含め全員の視線がそこに集まった。
いつの間にか目覚めていたラーラが静かに微笑んでいた。
ダンジョン攻略は明日の13時頃開始だ。最奥部までは2時間ほどかかる見込みで、他のメンバーは後方から私達に付いて来ることになる。ただし干渉を最小限にする為距離は出来る限り離しておく。
また、私達の他に三つのパーティも潜る予定らしい。
長時間の攻略に備えて鞄を新調し、そこに水筒と携帯食、救急用具を詰め込んだ。
迎えた当日。受付を済ませ、案内されて向かった先には、地下へと続く小さな階段があった。
「後から行くからな」
「はい」
ウロの言葉に返事する。
「ハッ! 緊張してんのか?」
「久しぶりの実戦ですから…」
「お前らなら大丈夫に決まってんだろ。このダンジョンは『銅級』2人でも攻略できんだから。変に身構えないで楽しむつもりで行け。まあ、もちろん油断大敵ではあるけどな」
そうか、ここは「お楽しみダンジョン」。楽しまなきゃ損だ。
それに、私達は四人の「銀級」パーティを二人で壊滅させたことだってあるのだ。
「そうですね。これくらいパパッと攻略してきます!」
手を振って一旦別れ、薄暗い階段を降りていく。
「ラーラ様、寝ないでくださいね」
私が冗談交じりに言うと、
「ご心配には及びませんよ」
と余裕げに彼女は返答した。
「こうなることは予想していましたから、最近は多めに寝て調整しておいたくらいです」
「予想って…あっ」
思い返せば、提案者はジールバード。
私の胸は改めて自信と勝利への確信に満ち溢れた。
隣に居るのは既に「魔王」への道を着実に歩み始めている人物なのだから。
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