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第四章
第三十八話
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時に野生の魔物と対峙し、時にリレラに稽古をつけてもらい、時にマギクと一緒にログラマトの本を読み進めながら一週間が経ち、遂に王都:ケンデシュバールに到着した。
城門前に来た時、マギクに革袋を手渡された。
「冒険者も多いからね。大通りを歩く時なんかは問題ないけど、室内ではいつでも被れるようにしておいて欲しいんだ」
「わかりました…」
そうか、パーティメンバーの一員になったので忘れていたが、私とラーラが世間一般的には賞金首である事実に変わりはない。もし気付かれようものなら、「謀反人」を引き連れるみんなにも危害が及ぶかもしれない。
特に首都ともなると人が多いのだろう。用心しなくては。
しかし…いざ首都にやって来ると、心のどこかでみんなによって王に引き渡されるのではないかと思っている自分が居る。
革袋を被るからそう感じてしまったのかもしれない。
そういえばべレムジアの一件での報奨金の宝箱への登録の時も私だけが拒否されて、未だそのまま話題にも上らない。
…駄目だ。悪いことばかり考えてしまっている。
でも私はみんなを信じているんだ。
門をくぐりながら心の整理をした。
王都は人が多いなんてものではなかった。
どこへ行っても人、人、人…
大通りこそ人が多くて注目されないように気を付けないと、と思っていたが、あまりに人が多すぎるとむしろ何もしなくても自動的にその中に紛れることが出来るのだと悟った。
それに、ここにいる人々は数が多すぎるからか互いにあまり興味がないようにも感じられる。
興味があって外に出てみたが、あまりの人の多さに気疲れして早めに宿に戻って来た。
ロビーに入るとき、
「あ」
忘れかけていた革袋を慌てて装着する。
ここはまだ常識的な人口密度だからだ。
しかしその時、ロビーにあるテーブルで食事をしている、同じく革袋を被った男の人が手を止めてこちらを見ているのに気付いた。
顔を見られてしまったかと思って、足早にその場を後にして部屋へ戻った。
ドアを閉め、寝ているラーラの横に腰かける。
「おう、戻って来おったか」
突然、背中越しに声を掛けられびっくりした。
振り向くと、そこにはベッドに寝転がったジールバードが居た。
「なんだ、ジールバード様居たんですね…てっきりみんなと一緒に王様のところへ行ったのかと」
マギク、リレラ、ウロは国王を介して支払われるべレムジアでの報酬金の「もう半分」を受け取りに行っている。
「そのつもりだったんだが、気が変わってな。お前こそなんで予定より早く戻って来たんだ?」
「人が多くて疲れちゃって…。人間がこんなに高密度に集まってるのを見たのは本当に初めてで。正直、騒がしいし息苦しいし」
「だと思ったぜ。安心しろ、田舎出身の奴はみんな最初はそんなもんだ。俺もそうだった」
「ジールバード様も田舎のご出身なんですね。どちらですか?」
「北東のレミクトラント公国の北のサバテという山でな。分かるか?」
「国の名前は聞いたことあります。それにサバテ山って、私の出身もサバテ山っていう名前だったんですよ」
「大陸じゃよくある名前だからな。『サバテ』は『汎人語』で『小さい』って意味だろう? 簡単だからよく使われる」
「なるほど」
そんな話は初めて聞いた。考えてみれば、今までジールバードとこういうふうにちゃんと話したことはなかった。
「そっちの『サバテ山』もちゃんと小さかったんですか?」
「いいや、それが国で三番目に高え山ときた」
「え、名前と魔逆じゃないですか!」
「ああ、全くだぜ。しかも魔物だらけだった。ガキの時分に住んでた村の周りにゃ、いつだって二、三頭の魔物がたむろしてた。しかも大体キャスケットシェルやらマッシブウルフやら血塗牛やら大型や中型ばかりだ。そいつらが朝から晩までずっとのさばってたもんだから、村人はいつだってビクビクだった」
「どれも危険な種類じゃないですか! それは大変でしたね…」
キャスケットシェルは棺桶のような分厚く前後に長い甲羅を持ち、噛み付いてくるリクガメの魔物で、体長は3mを超える。血塗牛は巨大な鋭い角を持っていて高速で突進してくる魔物で、これも大型。マッシブウルフについては詳しく知らないが、他に挙げられた魔物と同様に多分大型で気性も荒いのだろう。
「そんな過酷な環境で、よく日常生活を送れましたね」
「実は俺たちの村には猟師の伝統があったんだ。村の連中の半分が猟師をやっていて、どんな魔物がやって来ても仕留めることが出来た。どころか魔物を麓に売りに行ってそれなりに儲けたり、魔物を捌いて飯にしたり、いいようにさせてもらった」
「へぇー! 魔物って食べられるんですね」
「種類によってはな。火を通しても消えない毒を持ってる奴とか、あと当然『死霊』とか『精霊』の類は駄目だがな。知ってるか、キャスケットシェルの甲羅からは結構いい出汁が出るんだぜ」
「ちょっと食べてみたいかも…」
「興味が出て来たか? 機会があったら喜んで作ってやろう」
「やっぱりジールバード様も捌けるんですね」
「ああ。俺も猟師だったもんでな。俺の村の猟師は、手前の獲物は殺してから葬るまで全てを担うのがしきたりだった。その過程には食うことだけじゃなくて売ることも含まれていた。マギクと出会ったのもそれがきっかけだ。今から…もう2年も経ったか。毛皮を売りに町に降りて来た時、一人の少年から声を掛けられた。『貴方の噂は聞いている。その射撃の腕を貸してもらえないか。食べていく為に狩るか、人助けの為に狩るか、目的が多少違っているにすぎない』と」
「やっぱり高名な狩人だったんですか?」
「いいや、年の功で村の中では一番だったが、それを知っているのはほぼ村の連中だけだった。『噂』とは言ったが、本当にただ町をぶらついているようじゃ耳には入りっこない。だから興味が湧いて、腹を決めた。もう十分生きたしどうせ引退するつもりだったもんで、残り少ない命くらいは珍しいことに使うのも悪くないなんて思ってもいたしな」
「それで『夜明けの旅団』の一員になったと…」
メンバーひとりひとりに加入した理由があり、それ以前の人生がある。
だが、私は一つだけ言いたかった。
「でも、だからって無茶して早死にすることだけは絶対にしないでください。ジールバード様は私達の大事な仲間です。精神的にも戦力でもみんな貴方に助けられているんですよ」
ジールバードは何も言わずにこちらを横目で見ていたが、余裕げに口角を上げた。
「お前さんに心配されるほどやわじゃねえさ。むしろお前さんが分かっておくべきだな。このパーティの大黒柱はマギクだ。俺たちはマギクが居るからここにいる。もしマギクが冒険者を辞めることがあれば、それは『夜明けの旅団』が解散することと同義だ」
「そんなに…」
「ああ。これは誇張じゃないぞ。お前さんもそのうち知るだろうさ」
その時、ドアがノックされた。
扉が開き、マギクたちの顔が見えた。
城門前に来た時、マギクに革袋を手渡された。
「冒険者も多いからね。大通りを歩く時なんかは問題ないけど、室内ではいつでも被れるようにしておいて欲しいんだ」
「わかりました…」
そうか、パーティメンバーの一員になったので忘れていたが、私とラーラが世間一般的には賞金首である事実に変わりはない。もし気付かれようものなら、「謀反人」を引き連れるみんなにも危害が及ぶかもしれない。
特に首都ともなると人が多いのだろう。用心しなくては。
しかし…いざ首都にやって来ると、心のどこかでみんなによって王に引き渡されるのではないかと思っている自分が居る。
革袋を被るからそう感じてしまったのかもしれない。
そういえばべレムジアの一件での報奨金の宝箱への登録の時も私だけが拒否されて、未だそのまま話題にも上らない。
…駄目だ。悪いことばかり考えてしまっている。
でも私はみんなを信じているんだ。
門をくぐりながら心の整理をした。
王都は人が多いなんてものではなかった。
どこへ行っても人、人、人…
大通りこそ人が多くて注目されないように気を付けないと、と思っていたが、あまりに人が多すぎるとむしろ何もしなくても自動的にその中に紛れることが出来るのだと悟った。
それに、ここにいる人々は数が多すぎるからか互いにあまり興味がないようにも感じられる。
興味があって外に出てみたが、あまりの人の多さに気疲れして早めに宿に戻って来た。
ロビーに入るとき、
「あ」
忘れかけていた革袋を慌てて装着する。
ここはまだ常識的な人口密度だからだ。
しかしその時、ロビーにあるテーブルで食事をしている、同じく革袋を被った男の人が手を止めてこちらを見ているのに気付いた。
顔を見られてしまったかと思って、足早にその場を後にして部屋へ戻った。
ドアを閉め、寝ているラーラの横に腰かける。
「おう、戻って来おったか」
突然、背中越しに声を掛けられびっくりした。
振り向くと、そこにはベッドに寝転がったジールバードが居た。
「なんだ、ジールバード様居たんですね…てっきりみんなと一緒に王様のところへ行ったのかと」
マギク、リレラ、ウロは国王を介して支払われるべレムジアでの報酬金の「もう半分」を受け取りに行っている。
「そのつもりだったんだが、気が変わってな。お前こそなんで予定より早く戻って来たんだ?」
「人が多くて疲れちゃって…。人間がこんなに高密度に集まってるのを見たのは本当に初めてで。正直、騒がしいし息苦しいし」
「だと思ったぜ。安心しろ、田舎出身の奴はみんな最初はそんなもんだ。俺もそうだった」
「ジールバード様も田舎のご出身なんですね。どちらですか?」
「北東のレミクトラント公国の北のサバテという山でな。分かるか?」
「国の名前は聞いたことあります。それにサバテ山って、私の出身もサバテ山っていう名前だったんですよ」
「大陸じゃよくある名前だからな。『サバテ』は『汎人語』で『小さい』って意味だろう? 簡単だからよく使われる」
「なるほど」
そんな話は初めて聞いた。考えてみれば、今までジールバードとこういうふうにちゃんと話したことはなかった。
「そっちの『サバテ山』もちゃんと小さかったんですか?」
「いいや、それが国で三番目に高え山ときた」
「え、名前と魔逆じゃないですか!」
「ああ、全くだぜ。しかも魔物だらけだった。ガキの時分に住んでた村の周りにゃ、いつだって二、三頭の魔物がたむろしてた。しかも大体キャスケットシェルやらマッシブウルフやら血塗牛やら大型や中型ばかりだ。そいつらが朝から晩までずっとのさばってたもんだから、村人はいつだってビクビクだった」
「どれも危険な種類じゃないですか! それは大変でしたね…」
キャスケットシェルは棺桶のような分厚く前後に長い甲羅を持ち、噛み付いてくるリクガメの魔物で、体長は3mを超える。血塗牛は巨大な鋭い角を持っていて高速で突進してくる魔物で、これも大型。マッシブウルフについては詳しく知らないが、他に挙げられた魔物と同様に多分大型で気性も荒いのだろう。
「そんな過酷な環境で、よく日常生活を送れましたね」
「実は俺たちの村には猟師の伝統があったんだ。村の連中の半分が猟師をやっていて、どんな魔物がやって来ても仕留めることが出来た。どころか魔物を麓に売りに行ってそれなりに儲けたり、魔物を捌いて飯にしたり、いいようにさせてもらった」
「へぇー! 魔物って食べられるんですね」
「種類によってはな。火を通しても消えない毒を持ってる奴とか、あと当然『死霊』とか『精霊』の類は駄目だがな。知ってるか、キャスケットシェルの甲羅からは結構いい出汁が出るんだぜ」
「ちょっと食べてみたいかも…」
「興味が出て来たか? 機会があったら喜んで作ってやろう」
「やっぱりジールバード様も捌けるんですね」
「ああ。俺も猟師だったもんでな。俺の村の猟師は、手前の獲物は殺してから葬るまで全てを担うのがしきたりだった。その過程には食うことだけじゃなくて売ることも含まれていた。マギクと出会ったのもそれがきっかけだ。今から…もう2年も経ったか。毛皮を売りに町に降りて来た時、一人の少年から声を掛けられた。『貴方の噂は聞いている。その射撃の腕を貸してもらえないか。食べていく為に狩るか、人助けの為に狩るか、目的が多少違っているにすぎない』と」
「やっぱり高名な狩人だったんですか?」
「いいや、年の功で村の中では一番だったが、それを知っているのはほぼ村の連中だけだった。『噂』とは言ったが、本当にただ町をぶらついているようじゃ耳には入りっこない。だから興味が湧いて、腹を決めた。もう十分生きたしどうせ引退するつもりだったもんで、残り少ない命くらいは珍しいことに使うのも悪くないなんて思ってもいたしな」
「それで『夜明けの旅団』の一員になったと…」
メンバーひとりひとりに加入した理由があり、それ以前の人生がある。
だが、私は一つだけ言いたかった。
「でも、だからって無茶して早死にすることだけは絶対にしないでください。ジールバード様は私達の大事な仲間です。精神的にも戦力でもみんな貴方に助けられているんですよ」
ジールバードは何も言わずにこちらを横目で見ていたが、余裕げに口角を上げた。
「お前さんに心配されるほどやわじゃねえさ。むしろお前さんが分かっておくべきだな。このパーティの大黒柱はマギクだ。俺たちはマギクが居るからここにいる。もしマギクが冒険者を辞めることがあれば、それは『夜明けの旅団』が解散することと同義だ」
「そんなに…」
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