魔王メーカー

壱元

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第五章

第ニ話 前編

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 グレアたちは半日程馬を走らせ、今日の目的地の町までの折り返し地点に到着した。
「少し休憩しましょうか、グレア様」
「そうしましょう」
馬たちに芝を食べさせながら、その騎手達もその横でパンを頬張る。
のんびり呑気な昼下がり。
しかしその時、遠くから蹄と車輪の音が響いてきた。
見ると、今朝の白いメルヘン馬車だ。
グレアは胸騒ぎがした。
「このまま通り過ぎて行ってくれるとありがたいんですが」
馬車が迫る。騎手と目が合う。
刹那、馬車は明らかに速度を落とし、とうとうグレア達のすぐ近くに停車した。
二人は急いでパンをしまい、武器を手に取る。
騎手が下馬し、扉が開いて車内からも人がぞろぞろと出て来る。
その全てが若い女性で顔立ちや身だしなみも整っている。
ただ一人、一際豪華な装いをした貴婦人だけは初老なようだった。
「私達に何か御用ですか?」
押し殺しきれない警戒心を漂わせるグレアの問いに、貴婦人は笑って答えた。
「そう怖がらないで、子猫ちゃんたち。私達はただお話をしに来たのよ」
貴婦人が自己紹介する。
「私は『銀級』冒険者のカルーナ。みんなからは『人形師』と呼ばれているわ。貴女たちも冒険者なら、聞いたことがあるかもしれないわね」
二人は顔を見合わせ、「知っていますか」「さあ」と囁き合った。
「その『人形師』さんが私達に何の御用ですか?」
グレアの問いに、カルーナはさらに口角を上げた。
「気になるのね! よくぞ聞いてくれました! 私は提案したかったのよ。ねぇ可愛い子猫ちゃんたち、私の『お人形』にならないかしら?」
「…なんでしょう、それは」
ラーラが半ばその意味を察し、嫌悪しながら問う。
カルーナが周囲の侍女たちを両手で示しながら答える。
「ここに居るでしょう? 私の可愛い可愛い『お人形』たち…。貴女達は本当に可愛い。そのさらさらの髪、大粒の宝石みたいな瞳、雪のように透き通る肌、その小さくて幼い体…貴女のその角もなんてチャーミングなんでしょう! ドーリスで見た時から思わずついてきてしまったの。ねえ、たった二人で冒険なんて危ないわ。貴女たちのような可愛い子たちが傷ついたり、変な男に捕まるのは見たくないし、そんなのあんまりにももったいないわ。だから私の所にいらっしゃい。絶対の幸せを約束するわ」
おいで、と手招きすると、グレア達と同世代の少女がカルーナのもとに近付き、腕を絡ませたかと思うと、さらには唇同士をくっつけ、なんと唾液を泡立てながら舌まで絡ませ始めた。
その異様な光景を前に二人は衝撃と嫌悪感で目を丸くする。
口元のねばねばを他の「人形」に拭わせながら、カルーナは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「ね? 私達は愛し愛されているの。私は催眠魔法が得意なの。私の『お人形』になれば、怖いとか、悲しいとか、イライラするとかそんな感情は全く感じなくなって、全て私への愛になる。私もそんな『お人形』が愛おしくて堪らない。永遠に愛し合いながら幸せの中で旅をして生きていけるのよ。…命を掛けて二人で寂しくて怖い旅をするのと、みんなで助け合いながら幸せと愛の中で旅をするのと、どっちが良いのか、お利口さんな貴女たちならお判りよね?」
「はい」
グレアは返答した。
「お断りします。偽物の幸せなんて、私達には必要ない」
途端に「人形師」の顔から笑みが消える。
「そう、じゃあ仕方ないわ」
手を振り下ろすと、「人形」たちが一斉に襲い来る。
グレアは剣を、そしてラーラは「闇」属性強化の紫色の魔法石が先端に付いた杖を構えた。
瞬く間に黒と白、闇と光の斬撃が交差し、半数の首が飛ぶ。
しかし直後、ラーラの魔法が突如発動しなくなる。
「『沈黙シレンシ』です!」
「了解!」
グレアがその発動者を即座に特定し、「駿馬」を使う。
しかしその間に剣士が割って入り、グレアの剣撃を受け止める。
先程の騎手だ。
しかし今のグレアにとって正面からの打ち合いは勝ちも同然。
リレラに仕込まれた「吹雪」の構えを取る。
しかし「理識」が捉えたのは横からの思わぬ一撃。
もう一人の騎手による一撃を躱し、魔力を込めた横蹴りでもう一人にぶつける。
敵は仲間の身体を受け止めると、その手を取って支え、二人そろって再度戦闘態勢を取った。
そして迷いなくグレアに向かっていく。
まるで互いの隙を補うかのように斬撃を放ち続ける。
グレアはそれを全て剣で受け止め、刀身の温度が十分に上がってから一撃で二本の剣をへし曲げ、続く一撃で二本の首を刎ねた。
状況把握の為に周囲を見渡した時、全身の力が不自然に抜け、戦意が和らいでいくのを感じた。
魔力の出所はカルーナ。
(催眠魔法か…!)
次の瞬間、同じく魔法に苦しみ、地面に座り込んだラーラに敵が迫る。
グレアは重い体を無理やり動かし、金槌を持つ敵の手を突き刺した。
敵は痛みと熱に叫びながら武器を落とし、そのままグレアに切り捨てられた。
敵を撃破したグレアの背後に、魔法石の埋め込まれた短刀を手にした敵が迫る。
ラーラが全身の力を振り絞り、座ったまま地面に落ちていた剣を投げ付ける。
緩く、弱々しい軌道を描いたそれは簡単に回避されるが、グレアに気付きと時間をもたらし、敵の腹部に突きを見舞うことを許した。
これほどまで催眠に抗えるのは彼女たちには確かな意思があったからである。
二人の脳裏には先程の熱烈な口づけの様子が鮮明に投影されていた。
(ラーラにあんなことさせたくない)
(グレア様があんなことしているのは見たくない)
そんな二人のもとに、ちょうど先程の口づけの少女がやって来る。
「人形師」の「お気に入り」にして最大戦力だ。
「顔以外ならいくら傷つけてもいいわ。やっておしまい」
少女は両手に装備した鉤爪の先を地面に引きずりながらゆっくりと歩いてきたかと思うと、一気に加速してグレアに接近し、瞬く間に三度斬り裂く。
その全てが防御を搔い潜り、新調した鎧がなければはらわたまで達していた程の「深い」一撃。
「八星流」「無形の型」:「鉄薔薇の舞踏」、演舞開始。
距離を取ったグレアに少女はドレス姿でくるくると舞いながら近付き、間合いに入った途端に獣の動きに転ずる。
華麗ながら同時に残虐でもある斬撃の数々。
今度は全て防御できたが、最後の一撃で剣を大きく横に弾かれてしまう。
隙を見逃さないのが良き剣士の特徴。少女はタタンと地面を強く蹴り、直ちに再接近する。
その刹那、グレアの肘から、この戦闘で初めて彼女が見せる魔法でもある「深淵刀ドスポールアサーレ」が吹き出し、少女の端正な顔面を真っ二つにした。
「ふう」
(ラーラに攻撃が向かっていたら危なかった。さて、あとは「沈黙」の発動者とあの気持ち悪いババアだけ)
そう思ったグレアの「理識」眼に「黒いもの」が映る。
咄嗟に上半身を反らして喉を狙った「星滅刀ステレアジアサーレ」を回避する。
「…そういうことか」
グレアは理解した。
ラーラが攻撃の対象にならなかったのは偶然でも、敵の過失でもない。意図されたものだったのだ。
ゆらゆらと立ち上がるラーラの顔には既に表情がなかった。
「対峙するのはジャサー城での採用試験の時以来ですね。『秘密のラーラ』」
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