英雄の世紀

博元 裕央

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・断章①【1945年5月14日、伯林】

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「は は は は は は は は は は ! !」
「くうっ……独裁者め!」

 東西ヒーロー連合空襲によりベルリンは真っ赤に燃えていたが、尚激しく抵抗を続けていた。

 中でも独逸総統帝国ドイチェスフューラーライヒそのものと言うべき総統【調停者ミットラー】の奮戦は凄まじく、漆黒の宇宙ボディスーツと透明なフルフェイスヘルメットスペーステクタイトという古典スペースオペラめいた装束の金髪美少年が鎚矛を振るう度にソビエト連邦がユーラシア中からかき集めた魔女や妖怪、宗教弾圧を逃れんと教会が差し出した英霊ボガトィリの聖遺物で武装した聖職者等の幽妖超人オカルト、辺境から見出された超能力者サイオン達が消し飛んでいく。

 KABOOOM!!
「ザーイカーッ!?」

 そしてまた、連合国側ヒーローに悲鳴が上がる。

 【調停者ミットラー】にとっては身体能力は言ってしまえば余技に過ぎない。そのテレパシー能力で【調停者ミットラー】は戦場全ての自軍兵士と繋がっている。彼が鎚矛を指揮棒めいて一振りさせた瞬間、ベルリンに複数存在する高射砲塔が旋回して火を噴いた。独逸兵の一人が発見した、隠れ潜んで【調停者ミットラー】を狙撃せんと狙っていたソ連狙撃超人ザーイカの情報を高射砲塔の砲兵に転送、兵士を己の目、砲塔を己の腕の如く使って消し飛ばしたのだ。

「テスラーの人形! もう一先ず後は君だけだぞ!」

 ヒューマンライト、ウォーデングリフ・タワーを思わせる笠のように広がった兜が特徴的な機械の鎧を纏う人造人間。嘗ての火星人襲来時に防衛兵器として天才ニコライ・テスラーに製作されるも起動せず、後に暴走するもアメイジングマンに止められる事でその仲間となった最初期のアメリカン・スーパーヒーローに対し、【調停者ミットラー】は言い放つ。事実、【調停者ミットラー】に接敵・襲撃・交戦を行っているのは最早ヒューマンライト唯一人。交戦可能位置に付ける事が出来た他の超人兵士達は、全て【調停者ミットラー】に倒されてしまっていた。

「そうだとしても、正義として勝つだけだ!」

 ヒューマンライトは猛然と電撃を放って攻撃した。アメイジングマン達は太平洋で戦っている。ソ連軍は壊滅的打撃を受けつつある。ベルリンに強襲空挺降下した他のアメリカン・スーパーヒーロー達は、ここまでの戦いで戦車超人ヴァイスマンを倒したとはいえゲルマンニンジャ【総統の影ブロンデベステ】トリスタン・オイゲン、黒仮面の魔術師ヴェヴェルスブルグ、そして何より空戦超人ガルデンマンが操縦し上空から襲撃しくる人型機械兵器ルデルG37と戦うのに必死だ。恐るべきルデルG37の力をもってすれば、早期決戦に勝利せねば逆に殲滅されかねない。ドーバー横断作戦とパ・ド・カレー上陸作戦が行き詰まった今、己がここで【調停者ミットラー】を倒さねば勝てないと必死に戦うヒューマンライト!

「勝てないよ! 君は! ボクに!」
「ぐあっ、ごはあっ!?」

 しかし砕け散った鉄骨や兵器の残骸を避雷針めいて使って【調停者ミットラー】は回避すると、再び指揮杖めいて鎚矛を振るって砲撃を将来。怯んだ所に間合いを詰めて鎚矛を一閃。ヒューマンライトを吹き飛ばし建造途中の聖杯大聖堂丸屋根に叩き付け、決然宣言した。

「何故なら、ボクこそは人の夢だからだっ!」
「人の夢……だと!?」

 装甲に罅を入れられ、全身から火花を散らしながらヒューマンライトは呻いた。混乱する。戦前の平和を砕いて、それが人の夢だと?

「憎い奴を叩きたい、悲しい、恨みを晴らしたい、やり返したい、誰かが幸せになれば誰かは不幸になるという事を忘れた奴等に思い知らせたい、勝ちたい、栄えたい、誇りたい、仰ぐに値する信じるに値するものを持ちたい、誇りを持ちたい、生きる意味が欲しい、その為なら死んでもいい、皆がそう思っている。それが人類の脳構造的習性なんだ。ボクは人の心を操っているんじゃない。人の願いを聞き入れているんだ。皆の願いを束ね背負い叶える為に戦っているんだ! ボクが、皆を救うんだ!」
「それは人の律すべき欲望だ、願いなんかじゃ、ぐわああああっ!?」
 BLATATATATATATA!

 その場に落ちていた重機関銃を、己こそが人の理に沿い人の世を担う側であるからだ、皆の為に負けられない英雄なのだと浪々語りつつ連射しながら【調停者ミットラー】は近づいていく。ヒューマンライトの心を読み、そこに食らえば放電攻撃に問題が発生するという位置に弾丸を集中させながら。

「君は何の為に作られた? 火星人から人類を防衛する為だ。本懐を果たしていない、もう果たせない君が言うのも滑稽だが、だから人間同士の争いや感情なんて下らないと? だが言おう。君、火星人と戦って人を生かすという事は、それはつまり人類には火星人を殺してでも生き延びる値打ちがあると信じるが故だろう。命とはそういうものだ。愛という名の優先順位、絆という名の派閥、どれを生かしどれを殺すか。君もその取捨選択を、生殺与奪をしに来たのだろう! 君達の言う正義も公正も自然法も、結局の所その天秤に乗せる分銅を巡って相争うものでしかない。この星は狭く有限で、殺さなくても人は死ぬ。未来を作るには、未来を与えたいもの以外を切り落とすしかないんだ!」
「っ……!!」
 GASYAN……SYBA!ZDDN!
 GASYAN!SYBA!ZDDN!
 SYBA!ZDDN!

 咄嗟に電磁防壁を展開するヒューマンライトに、【調停者ミットラー】は言葉と共に重機関銃を放り捨てるとパンツァーファウストを掴み上げ、打ち込んだ。ヒューマンライトが爆炎に包まれて消えた。更に拾ってもう一発。更に拾ってもう一発!

 電磁バリアと装甲を破壊されながら爆炎の中、ヒューマンライトは呻いた。所詮アメリカンヒーローの正義も全体主義の戦争も、取捨選択し生殺与奪をする行為に変わりは無いという言葉を噛み締め食い縛る。

「ああ、そうだ。俺は目覚めるべき時に目覚める事も、戦うべき時に戦う事も出来なかった、助けられた側のポンコツだ。だがな……」

 だがと言う。立ち上がる。食いちぎろうとする。その言葉を。

父さんテスラー博士無限のエネルギー地球自転磁気発電無線送信機構による世界平和を成し遂げる事は出来なかった。その代わりに俺を作った……ならば俺は戦う事しか、取捨選択しか、生殺与奪しか出来なくても。俺達の正しさや法が不完全でも、お前達から可能性を守る為に戦う! 助けられた身として助ける為に!」

 ヒューマンライトが立ち上がった。人の世の光たらんと、今がそうだとしても、今を肯定したお前ではなく、より良き明日が訪れる可能性が勝たねばならんのだ、例え今の戦士でしかないこの己の命を燃やし尽くしたとしても。

 機械の鎧と機械の体が燃え上がるのも構わず最後の電力を集束する。

 二つの、人の願いの為に作られた人造の魂がぶつかり合う。光を信じる唯一つの至純なる魂の輝きに、数多の魂の器は目映げに目を細め。


 そして、戦いの末。光を信じる思いヒューマンライトの眩さに。数多の魂の器ミットラーは道を譲る。それは、彼自身が光を欲する人々の集合だったからこその必然だったからかもしれない。かくして独裁と欧州における戦争は終わった。だが、それは、人が光を純粋に求め合一した時代の終わりでもあったのだ。

 戦後、己の今をこそ正しいと信じる者達の冷戦が始まる。
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