15 / 31
・断章⑧【アメリカ合衆国、ワシントン州レインボーヒル】
しおりを挟む
「お前は完全に包囲されている!武装を解除して投稿しなさい!」
アメリカ合衆国、ワシントン州レインボーヒル。
警官隊が一つの建物を包囲して叫んでいた。全員対超人アサルトライフルで武装しているが、その表情には恐怖があった。
「奴は一体……」
相手は、超人だ。揉め事を起こして暴れ出し……多勢の警察による山狩り部隊を壊滅状態に陥れた。
「あいつが手加減をしたか?」
それに対して、警官の横にふらりと現れた男がそう呟いた。
あいつが本気で暴れていれば、こんな程度では済まないと。
「あなたは?」
「部下を受け取りに来た」
「部下ですと?」
その男の言葉に、警官ははっとしてその男を見た。その姿は、アメリカでは知らぬ者など居ない。
「俺はキャプテンUSA。奴……ファストブラッドは俺が育てた」
アメリカでも最も過激と評されるヒーローだ。だが、今その表情には、彼を知る者ならば長い付き合いのソルジャーステイツ以外だれでも驚くだろう深い沈痛の色があった。
「育てた?」
「お前らが全員殺されなかったのが不思議だ。選んで、訓練して、ベトナムで戦わせたのは俺だ。俺が選び、鍛え、共にベトナムで戦った。あの男はゲリラ戦にかけては、右に出る者はないプロだ」
その言葉には有無を言わせぬ説得力があった。山野で暴れたあの超人は、殆ど姿すら見せずに狩りに来た相手を逆に狩った。
「俺は貴様等からファストブラッドを守りに来たわけじゃない。貴様等をファストブラッドから守る為に来たんだ。貴様等の力になろう」
「わ、分かった……」
故に、そしてまたキャプテンUSAの武名を知る故に、警官隊はキャプテンUSAの指示に従った。
「ファストブラッド!!」
そして、キャプテンUSAは建物の中に入り、叫んだ。
「よく聞け、武器を捨てろ、状況を考えろ! 完全に包囲されて、逃げ道は無い!外を見ろ! 武装した警官200人がM1600対超人アサルトライフルでお前を狙ってるんだ。お前一人で戦争を引き起こして……ヒーローも来る。今止めないとお前は殺されるか、スーパーヴィランとして狩られる事になる。ここはベトナムじゃないぞ! アメリカだ! 戦争は終わった、終わったんだ!」
かつての上官の前に、元ヒーロー、ファストブラッドは姿を現した。奪った銃を持ち、ボロボロのコスチューム、泥まみれ、ギラギラとした瞳。
「勝手に決めるな! 何も終わっちゃいない! 戦争は続いてるんだ! 俺の戦争は俺の中で今でも!」
泣くようにファストブラッドは吼えた。吼え叫んだ。
「あんたの話に乗せられて勝つ為に必死に戦ったが、結局は勝てなかった、負けたがる奴等がいたからだ!やっと帰ってくれば、空港で俺達を出迎えたのは、唾を吐きかけながら、聞くに堪えない言葉を吐くデモ隊だ! 腐った卵やレンガまで浴びせてきやがった!あいつらにそんな資格あんのか!」
戦場は地獄だったが、真の崩壊は国内世論からだった。故に、帰ってもまた地獄だったと。
「今はもう、過去のことだ」
「あんたにはそうだろうがな! 俺にはちっとも良くなってない! 少なくともベトナムには一緒に戦う味方が居たが! ここじゃ一人で、世間の爪弾きだ!」
それには、どうしてもキャプテンUSAの言葉も濁る。
「スーパーヒーロー部隊の最後の一人が、こんな所で死ぬのか!? 恥曝しな真似はするな!」
それでも、死ぬなと留めようとするキャプテンUSAだが。
「戦場では武装ヘリも飛ばした、戦車も操縦した!1 00万ドルの兵器も任された! それが国では、駐車係の仕事すら無いんだ!あぁあーっぁあっ!」
絶叫し、ファストブラッドは武器を投げ出した。だがそれは戦うのを止めたというよりは、錯乱の体で。
「あ゛ーっ!ぅーっ……惨めすぎる……帰ってきたのが……間違いだ……俺も死にゃよかったんだ、皆何処へ行ったんだ……みんな死んだ……! 大勢戦友がいたのに……いい奴等だった……誰も守れなかった……もう、七年にもなるのに……毎晩夢に見る……俺は仲間の千切れた足を探したけど何処探しても無い……どこにもない……! ……追い払えないんだ……うう、うううう、う……」
泣き喚きながら突っ伏す嘗ての部下に、キャプテンUSAは。
「俺を殴れ」
全てを聞いて、しばしの沈黙の後。ミスターUSAのその言葉に、ファストブラッドははっと顔を上げた。
「俺を殴れ!」
ミスターUSAは、満座に響けとばかりに大音声で叫んだ。
「俺はUSAだ! 俺を殴れ! USAを殴れ!」
己に出来る事はそれしかない。アメリカの名を冠する男として、殴られるに値する事を眼前の男にしてしまったアメリカを守る者として、アメリカの代表として怒りと無念を受け止めるのだと宣言した。
「……」
包囲した者達が息を呑む中。
「ッ、ウォアアアアアアア~ッ!」
SMAAASH!
ファストブラッドの拳がミスターUSAの頬を捉えた。
「そのくらいじゃねえだろう!」
「オオオオオオオッ!」
ZBASH!
大木のような太首と石臼のような頑丈な顎でそれを受け止め、ミスターUSAは叫んだ。ファストブラッドは吼えた。吼えて、悲憤の象徴としての拳を叩き付けた。
「もっと来いっ!」
口角から滲んだ血を散らしてミスターUSAは叫んだ。
「AAAAAAAAGH!」
叫びながら、泣きながら、泣き止むまでファストブラッドは拳を振るい続けた。
ミスターUSAは、それを全て受け止めた。
事件は終わった。
アメリカ合衆国、ワシントン州レインボーヒル。
警官隊が一つの建物を包囲して叫んでいた。全員対超人アサルトライフルで武装しているが、その表情には恐怖があった。
「奴は一体……」
相手は、超人だ。揉め事を起こして暴れ出し……多勢の警察による山狩り部隊を壊滅状態に陥れた。
「あいつが手加減をしたか?」
それに対して、警官の横にふらりと現れた男がそう呟いた。
あいつが本気で暴れていれば、こんな程度では済まないと。
「あなたは?」
「部下を受け取りに来た」
「部下ですと?」
その男の言葉に、警官ははっとしてその男を見た。その姿は、アメリカでは知らぬ者など居ない。
「俺はキャプテンUSA。奴……ファストブラッドは俺が育てた」
アメリカでも最も過激と評されるヒーローだ。だが、今その表情には、彼を知る者ならば長い付き合いのソルジャーステイツ以外だれでも驚くだろう深い沈痛の色があった。
「育てた?」
「お前らが全員殺されなかったのが不思議だ。選んで、訓練して、ベトナムで戦わせたのは俺だ。俺が選び、鍛え、共にベトナムで戦った。あの男はゲリラ戦にかけては、右に出る者はないプロだ」
その言葉には有無を言わせぬ説得力があった。山野で暴れたあの超人は、殆ど姿すら見せずに狩りに来た相手を逆に狩った。
「俺は貴様等からファストブラッドを守りに来たわけじゃない。貴様等をファストブラッドから守る為に来たんだ。貴様等の力になろう」
「わ、分かった……」
故に、そしてまたキャプテンUSAの武名を知る故に、警官隊はキャプテンUSAの指示に従った。
「ファストブラッド!!」
そして、キャプテンUSAは建物の中に入り、叫んだ。
「よく聞け、武器を捨てろ、状況を考えろ! 完全に包囲されて、逃げ道は無い!外を見ろ! 武装した警官200人がM1600対超人アサルトライフルでお前を狙ってるんだ。お前一人で戦争を引き起こして……ヒーローも来る。今止めないとお前は殺されるか、スーパーヴィランとして狩られる事になる。ここはベトナムじゃないぞ! アメリカだ! 戦争は終わった、終わったんだ!」
かつての上官の前に、元ヒーロー、ファストブラッドは姿を現した。奪った銃を持ち、ボロボロのコスチューム、泥まみれ、ギラギラとした瞳。
「勝手に決めるな! 何も終わっちゃいない! 戦争は続いてるんだ! 俺の戦争は俺の中で今でも!」
泣くようにファストブラッドは吼えた。吼え叫んだ。
「あんたの話に乗せられて勝つ為に必死に戦ったが、結局は勝てなかった、負けたがる奴等がいたからだ!やっと帰ってくれば、空港で俺達を出迎えたのは、唾を吐きかけながら、聞くに堪えない言葉を吐くデモ隊だ! 腐った卵やレンガまで浴びせてきやがった!あいつらにそんな資格あんのか!」
戦場は地獄だったが、真の崩壊は国内世論からだった。故に、帰ってもまた地獄だったと。
「今はもう、過去のことだ」
「あんたにはそうだろうがな! 俺にはちっとも良くなってない! 少なくともベトナムには一緒に戦う味方が居たが! ここじゃ一人で、世間の爪弾きだ!」
それには、どうしてもキャプテンUSAの言葉も濁る。
「スーパーヒーロー部隊の最後の一人が、こんな所で死ぬのか!? 恥曝しな真似はするな!」
それでも、死ぬなと留めようとするキャプテンUSAだが。
「戦場では武装ヘリも飛ばした、戦車も操縦した!1 00万ドルの兵器も任された! それが国では、駐車係の仕事すら無いんだ!あぁあーっぁあっ!」
絶叫し、ファストブラッドは武器を投げ出した。だがそれは戦うのを止めたというよりは、錯乱の体で。
「あ゛ーっ!ぅーっ……惨めすぎる……帰ってきたのが……間違いだ……俺も死にゃよかったんだ、皆何処へ行ったんだ……みんな死んだ……! 大勢戦友がいたのに……いい奴等だった……誰も守れなかった……もう、七年にもなるのに……毎晩夢に見る……俺は仲間の千切れた足を探したけど何処探しても無い……どこにもない……! ……追い払えないんだ……うう、うううう、う……」
泣き喚きながら突っ伏す嘗ての部下に、キャプテンUSAは。
「俺を殴れ」
全てを聞いて、しばしの沈黙の後。ミスターUSAのその言葉に、ファストブラッドははっと顔を上げた。
「俺を殴れ!」
ミスターUSAは、満座に響けとばかりに大音声で叫んだ。
「俺はUSAだ! 俺を殴れ! USAを殴れ!」
己に出来る事はそれしかない。アメリカの名を冠する男として、殴られるに値する事を眼前の男にしてしまったアメリカを守る者として、アメリカの代表として怒りと無念を受け止めるのだと宣言した。
「……」
包囲した者達が息を呑む中。
「ッ、ウォアアアアアアア~ッ!」
SMAAASH!
ファストブラッドの拳がミスターUSAの頬を捉えた。
「そのくらいじゃねえだろう!」
「オオオオオオオッ!」
ZBASH!
大木のような太首と石臼のような頑丈な顎でそれを受け止め、ミスターUSAは叫んだ。ファストブラッドは吼えた。吼えて、悲憤の象徴としての拳を叩き付けた。
「もっと来いっ!」
口角から滲んだ血を散らしてミスターUSAは叫んだ。
「AAAAAAAAGH!」
叫びながら、泣きながら、泣き止むまでファストブラッドは拳を振るい続けた。
ミスターUSAは、それを全て受け止めた。
事件は終わった。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる