英雄の世紀

博元 裕央

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・断章⑦【ベトナム戦争、テト攻勢前夜】

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「「「AAAAAAAAAGH!?」」」
「レスポンシブルフレンド!? クレス!? ヒューマンナパーム!?」

 ベトナム戦争中、密林の中。

 音も無く作動したトラップに、三人のアメリカン・ヒーローの命が刈り取られた。人の悪意を察知するテレパス能力を持つレスポンシブルフレンドも、自動するトラップは察知できぬ。怒りをヘラクレスめいた筋肉へと変えるクレスも、熱い思いで自らを炎と化すファンタジックスリーのヒューマンナパームも、意志を集中する前に攻撃されてはその能力を発揮しようも無かった。

「アバッ!?」
「貴様ぁっ!」

 動揺し叫んだ二代目アマゾネスもまた刃によるとしか目にも留まらぬ程の速度と隠密性による奇襲攻撃で即死。倒れる二代目アマゾネスの影に潜む奇襲を行った敵に咄嗟にファンタジックスリーのゴムマンが名前の通り伸びる拳を放つも、その何者かは二代目アマゾネスの死体を盾にして防ぐと跳躍し近くの木の枝に飛び移り名乗った。

「我等の独立を阻む悪しきジャスティスな侵略者ヒーロー共よ。我が名はレッドナポレオン。貴様等には」
 BLATATATATATA!
「「AAAAAAAGH!?」」

 だがその名乗りすら罠の一種だった。名乗りを思わず聞く構えに入ったアメリカン・ヒーロー達に、ベトナム超人レッドナポレオンを囮に接近したベトコン達が一斉に発砲。残り4人の内、格闘超人プラトンマンと狙撃超人ディアレンジャーが負傷!

「き、汚いぞっ!」

 衝撃を無効化するゴムの体を持つゴムマンと頑丈な体を持つコンクリートマンが真逆の発言途中の銃撃に怒りを露にしながら負傷した仲間を庇うが。

「無差別爆撃や虐殺や枯れ葉剤は汚くないとでも? 朝鮮半島の幽妖超人オカルト萇山虎チャンサンボンを報酬で呼び寄せ、我々への協力を疑った村を喰わせて回ったのは?」

 レッドナポレオンは泣き言を一刀両断しながら改めて枝上に姿を現す、名の通り赤い瞳、軍服の上にナポレオンめいた二角帽にアラビアのロレンスじみた中東風外套、口元覆う鉄仮面と中世亜細亜風の手甲脚甲、赤い瞳と黒塗りの鉄仮面・手甲脚甲以外は帽子も外套も全て密林に潜む迷彩色。どう考えても隠し持てる長さでは無い筈の竹槍をどこからともなく出して構える。だが、姿を現したこと自体罠では? まして、唯の竹槍である筈もあるまい? そう思うヒーロー達の混乱と猜疑心すらレッドナポレオンの武器なのだ!

「行くぞ! 私以外もな!」
「AAAAAAAAAGH!?」
「お主等の心頭を滅却してやろうぞ、炎でな!」

 その意識の罠による攻撃! 更に密林から炎が立ち上りゴムマンを焼き尽くす。焼身座禅で炎の化身となった僧侶超人兵士ボー・タットだ!

 BLATATATATATA!!

「畜生ーっ!」

 ベトコンの銃撃とボー・タットの炎に、コンクリートマンが立ちはだかり防ぐ。その間にレッドナポレオンにディアレンジャーとプラトンマンが立ち向かうが。

「ふんっ!」
「ぐっ……!」

 ディアレンジャーの狙撃銃にレッドナポレオンが竹槍を投擲。それ自体特殊薬液で硬化させられている外見との落差による奇襲効果を目論んだ強化竹槍は超人の膂力による速度を得て狙撃銃を粉砕。

 それと同時にレッドナポレオンは跳んだ。格闘戦を特異とするプラトンマンすら意表を突かれる、水面から飛び出した鰐の顎が襲うが如く、跳び蹴りの両足が交わそうとしたプラトンマンの首を挟み、絡みつく。

 越武道ボビナム跳蹴足鋏ドンチャン。鍛え抜かれた超人の脚力で行われたそれは、同じ超人である筈のプラトンマンの首骨を容赦なくへし折った。

 明後日の方向に首を曲げて崩れ落ちるプラトンマンを背景に、武器を失ったディアレンジャーの前に降り立つと、威圧的な恐怖そのものの如き声で告げた。

「貴様等の首を旧正月テトの飾り物にしてくれる」

 ―――――――――

シンチャオどうも、我々の自主独立を認めない植民地主義的な侵略者ヒーローの皆さん! レッドナポレオンです!」

 彼等アメリカンヒーローの首は宣言通り、テト攻勢においてレッドナポレオンの腰に下げられアメリカ大使館の前に並べられ、全米を失禁させ、ベトナム・カンボジア戦争後にアメリカとの国交が回復するまでの間、ヒーローの首を象った提灯が旧正月の飾り物となる風習を生み出す事になる。
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