お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第19章 聖夜の猛攻

冬弥の部屋

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 餅津木家にて──冬弥の両親との会食を終えた結月は、"離れ"にある冬弥の部屋に向かっていた。

 晩餐をすませた大広間から、少し歩くと、その先には長い回廊があり、その廊下を真っ直ぐに進んだ先に、六角形の小ぶりな建物があった。

 先程いた大きな建物の2階には、冬弥の両親の寝室があるらしいが、どうやら冬弥の部屋は、あの建物から遠く離れたこの建物にあるらしい。

 妾の子として生まれたせいか、はたまた義理の母と部屋を離されているせいか、同じ敷地内とはいえ、両親と離れて過ごす冬弥の姿に、少なからず同情してしまう。

 その姿は、両親に嫌われ屋敷に一人置き去りにされた自分と、とても似ているように見えたから。

「結月さん、さっきは、すまなかったね」

 すると、部屋にむかいながら、冬弥が申し訳なさそうに話しかけてきた。すまなかったとは、先程の両親の会話の事だろう。

「いいえ。ご両親は、あまり仲が宜しくはないのですか?」

「まぁ、そうだな。親父がめかけなんて作らなきゃ、ちょっとはマシだったろうが」

「…………」

「あぁ、言ってなかったけど、俺の母親は、さっきの人じゃない。あれは血の繋がってない義理の母親だ」

「そう……なんですね」

 冬弥が妾の子だということは、執事が仕入れた情報で既に知っていた。だが、結月はあくまでも初めて聞いた体で話をあわせる。

「本当のお母様は、どうされたのですか?」

「出ていったよ、俺を置いて。まぁ、居ずらかったんだろうな。あんなにグチグチ言われりゃ」

 それは、あの義理の母のことを言っているのだろう。口ぶりからするに、冬弥の母親をいびり倒して、あの正妻が追い出したのかもしれない。

(なんだか、可哀想な人ね……)

 妾の子として生まれ、母親には置き去りにされ、更には、その母親を嫌う義母の元で暮らしている。

 その窮屈な状況は、たとえ裕福でも、幸せとは言いがたいような気がした。

 もしかしたら、冬弥にとって阿須加家との縁談は、この窮屈な屋敷を出るための最良の手段だったのかもしれない。阿須加家に婿入りすれば、次期当主として、一番いい形で両親の元を離れられるから。

「結月さん」
「……!」

 瞬間、長い回廊を抜けた先で、冬弥が立ち止まった。建物の中の一角。結月の部屋と同じくらいの大きな両開きの扉の前に立つと、待ち構えていたメイドがその扉を開いた瞬間、冬弥が結月を中へと誘い入れた。

 きっとここが、冬弥の部屋なのだろう。
 それを理解し、結月は小さく息を飲んだ。

 この先、自分は、この部屋で冬弥と二人きりになる。逃げ場などどこにもなく、婚約者と一夜を共にすることになる。

 だが、覚悟はして来た。
 今更、怖気づいたりはしない。

「失礼します」

 柔らかに笑って、結月は中へと入った。

 広い部屋だ。落ち着いた雰囲気のモダンな部屋。家具や装飾品も優美で品があり、ソファーやテーブルも一級品だった。

 やはり父が選んだだけあり、餅津木家に、今どれほどの力と財力があるかは、息子の部屋を見ただけで、すぐに分かる。

 だが、その広い部屋の奥、これみよがしに鎮座したベッドが目に入った瞬間、結月はおもむろに眉をひそめた。

 当然といえば当然だが、ベッドは一つしかなかった。広く優雅なキングサイズのベッド。そのため大人二人が横になっても、十分な余裕がある。だが、やはり、心の奥には微かな翳《かげ》りが生まれる。

 先日、結月は誰もいない屋敷の中で、レオと契りを交わした。

 豪奢なベッドの中で二人で身を寄せ、一晩中、愛された、あの甘美な夜の出来事は、結月の肉体にも精神にも刻まれ、一生忘れることはないだろう。

 だが、一つ間違えば、あの夜と同じ行為を、今度は、好きでもない男と行わなければならなくなる。

 そしてそれは、何としても避けなくてはならない。

「結月さん」
「……っ」

 瞬間、冬弥が結月に手を伸ばしてきた。まるで、肩を抱き寄せようとでもするように、冬弥の手が、結月の背後に回る。

 すると、結月は、肩に触れられる寸前、スルリとそれを交わし

「まぁ、立派なクリスマスツリーですね!」

 立派なもみの木と、色とりどりの電飾。賑やかに点灯するクリスマスツリーの前まで進むと、結月は無邪気に微笑んだ。

 ベッドに組み敷かれる以前に、冬弥には指一本触れさせないと、結月はレオと約束していた。

 あんなにも過保護なレオのことだ。きっと今頃心配で胃を痛めてるかもしれない。それに、万が一のけとがあれば、レオは冬弥を……いや、餅津木家ごと滅ぼしかねない。

 となれば、なんとしても、レオを悲しませないようにしなくては。

「お部屋にツリーがあるなんて、素敵ですね」

「あぁ、結月さんが喜ぶと思ってね」

「まぁ、私のために? とても嬉しいです」

 結月が、嬉しそうに笑えば、冬弥は珍しく頬を赤らめた。婚約者同士、いい雰囲気を醸し出しているかもしれない。
 するとそこに、部屋の前にいたメイドが、唐突に声をかけてきた。

「冬弥様。入浴の御準備は、いかが致しましょうか?」

「あぁ、もう少し結月さんと話をしたいから、9時頃準備してくれ」

「はい。畏まりました。では、またお時間になりましたら参ります。結月さま。ご入浴の際は、私《わたくし》たちが、お手伝いをさせていただきますので、その際は、なんなりとご命令ください」

「え?」

 瞬間、結月は困惑した。

 入浴のお手伝い──それはつまり、脱いだり着たり体を洗ったりを手伝うと言うことで。だが、そうなれば

(っ……もしかして、レオに付けられた跡、見られちゃうんじゃ)

 身体には、レオが付けたキスマークの跡が、まだしっかりと残っていた。だが、そんな姿を、餅津木家のメイドたちに見られてしまったら──?


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