お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜

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第19章 聖夜の猛攻

覚悟

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(……もしかして、レオに付けられた跡、見られちゃうんじゃ)

 顔に出さずとも、結月は内心焦っていた。

 入浴時に手伝いなどされたら、確実に肌を晒すことになる。そして、そうなれば、レオの痕跡をメイドたちに見られてしまう。

(やっぱり、つけちゃダメっていうべきだったかしら?)

 その跡が一つなら、まだ誤魔化せるかもしれない。だが、結月は、今自分の身体に、いくつ跡が残っているのかを、全く把握していなかった。

 レオがつけた印を目にする度に、あの夜のことを思い出して、顔が赤らんでしまう。だから、あまり直視できなかったのだが、やはりつけられた場所くらい把握しておくべきだったか?

 それ故に、軽く後悔もしたが、元からは指一本触れさせぬ覚悟できたのだ。今更、狼狽うろたえることではない。

「ありがとうございます。でも、お手伝いは必要ありません」

 すると、凛とした態度は崩さぬまま、結月はメイドに微笑みかけた。感謝を述べつつ、しっかり断れば、メイドは、少々困り果てながら

「ですが、結月様は、冬弥様の奥方になられる方で、私共にとっては、ご主人様も同然です」

「あら。もう、そこまで私を受け入れてくださってるなんて、とても光栄です。でも、夫以外の方に素肌を晒す気はないの。どうか、分かってくださらない?」

 自分の立場は、よく理解していた。

 だからこそ、貞淑な妻として振る舞えば、メイドは納得したのか、あっさり引き下がった。

 だが、そんな結月の発言に、冬弥は驚いていた。

 まさか、自分以外に肌を晒す気がないなんて、そんなことを言うとは思わなかったから。

(アイツ……どうやら、腹をくくって来たみたいだな)

 今日の態度を見れば、そういうことだろう。

 少し前まで、手を握ることすら避けていたのに、今は、お互いの親が何を求めているか、しっかり理解しているらしい。

 利口な女だ。この先、この世界で生きていくなら、自分が今、どう振る舞うべきか、しっかり把握してる。 

 現に、両親との会食の際も、結月は奥ゆかしく冬弥の隣に控えていた。婿養子という立場でありながら、冬弥を夫として気遣い、たてまつる姿は、まさに妻の鏡だ。

(これなら、を盛る必要はないかもな)

 ふと、兄から『手懐けられない時に、使え』と、睡眠薬を渡されていたのを思い出した。
 就寝前のナイトティーに混入すれば、眠っているうちに、ことを進めるだろうと。

 だが、結月が、抱かれる覚悟できているなら、もうそんなものも、もう必要ないかもしれない。

 今日ここで、子供を身篭るつもりで来ているなら、むしろ薬なんか盛らない方がいい。

「それでは、冬弥様、結月様。私は、これで」

「待て」

 その後、メイドが一礼して立ち去る瞬間、冬弥が呼び止めた。数歩メイドの元の歩み寄り、少し声を落とし話しかける。

「さっきは9時頃といったが、訂正する。入浴はこちらのタイミング入る。俺が指示したら準備しろ。それと、今から明け方まで、この部屋には、誰も近づけさせるな」

「え?」

「言ってる意味、わかるよな?」

「は、はい! 畏まりました! おおせのままに……!」

 冬弥の言葉に、メイドは頬を赤くし部屋から出ていくと、その瞬間、室内はシンと静まり返った。

 ここからは、二人きり。
 冬弥は改めて、結月を見つめた。

 クリスマスツリーの横に佇む結月は、とても美しかった。

 清楚にまとめあげられた髪に、品のあるオフホワイトのワンピース。そして、その下に隠された肢体は、男を誘うような魅力にあふれていた。

 人払いはさせた。
 明け方まで、この部屋には誰も訪れない。

 そして、あの日、自分を拒絶した女が、やっと、自分だけのものになる。

 覚悟を決めてきた結月は、このあと、従順に俺を受け入れるのだろう。

 淫ら声を発しながら、誰にも触れさせたことのないその身体を、俺にだけ許すのだろう。

 そう思えば、ひどく心が高揚した。

「結月さん」
「──冬弥さん」

 すると、冬弥が呼びかけた瞬間、結月も、また声を重ねた。妙に落ち着きをはらった様子で、こちらを見つめる結月は、メイドたちに運ばせていた自分の荷物の前まで歩み寄り

「冬弥さん。私、バイオリンを持ってきたんです。よかったら、お聞き下さらない?」

 そういって、ふわりと微笑む。

 そういえば、バイオリンを持ってきていたのを、来訪の際に目にした。どうやらそれは、自分に聞かせるためだったらしい。

 冬弥は、その言葉に、ニコリと微笑むと

「もちろん。聞かせてくれ」

 愛らしい婚約者の頼みをすぐさま聞きいれ、冬弥は、我が物顔でソファーに腰かけた。

 夜はまだ始まったばかり。
 何も焦る必要はない。

 なぜなら、ここには結月の味方は、一人もいないのだ。あのムカつく執事ですら。
 
 なら、このあとは、じっくり楽しめるだろう。
 婚約者恋人との、官能的な夜を――…



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