198 / 289
第19章 聖夜の猛攻
覚悟
しおりを挟む(……もしかして、レオに付けられた跡、見られちゃうんじゃ)
顔に出さずとも、結月は内心焦っていた。
入浴時に手伝いなどされたら、確実に肌を晒すことになる。そして、そうなれば、レオの痕跡をメイドたちに見られてしまう。
(やっぱり、つけちゃダメっていうべきだったかしら?)
その跡が一つなら、まだ誤魔化せるかもしれない。だが、結月は、今自分の身体に、いくつ跡が残っているのかを、全く把握していなかった。
レオがつけた印を目にする度に、あの夜のことを思い出して、顔が赤らんでしまう。だから、あまり直視できなかったのだが、やはりつけられた場所くらい把握しておくべきだったか?
それ故に、軽く後悔もしたが、元からは指一本触れさせぬ覚悟できたのだ。今更、狼狽えることではない。
「ありがとうございます。でも、お手伝いは必要ありません」
すると、凛とした態度は崩さぬまま、結月はメイドに微笑みかけた。感謝を述べつつ、しっかり断れば、メイドは、少々困り果てながら
「ですが、結月様は、冬弥様の奥方になられる方で、私共にとっては、ご主人様も同然です」
「あら。もう、そこまで私を受け入れてくださってるなんて、とても光栄です。でも、夫以外の方に素肌を晒す気はないの。どうか、分かってくださらない?」
自分の立場は、よく理解していた。
だからこそ、貞淑な妻として振る舞えば、メイドは納得したのか、あっさり引き下がった。
だが、そんな結月の発言に、冬弥は驚いていた。
まさか、自分以外に肌を晒す気がないなんて、そんなことを言うとは思わなかったから。
(アイツ……どうやら、腹を括って来たみたいだな)
今日の態度を見れば、そういうことだろう。
少し前まで、手を握ることすら避けていたのに、今は、お互いの親が何を求めているか、しっかり理解しているらしい。
利口な女だ。この先、この世界で生きていくなら、自分が今、どう振る舞うべきか、しっかり把握してる。
現に、両親との会食の際も、結月は奥ゆかしく冬弥の隣に控えていた。婿養子という立場でありながら、冬弥を夫として気遣い、奉る姿は、まさに妻の鏡だ。
(これなら、薬を盛る必要はないかもな)
ふと、兄から『手懐けられない時に、使え』と、睡眠薬を渡されていたのを思い出した。
就寝前のナイトティーに混入すれば、眠っているうちに、ことを進めるだろうと。
だが、結月が、抱かれる覚悟できているなら、もうそんなものも、もう必要ないかもしれない。
今日ここで、子供を身篭るつもりで来ているなら、むしろ薬なんか盛らない方がいい。
「それでは、冬弥様、結月様。私は、これで」
「待て」
その後、メイドが一礼して立ち去る瞬間、冬弥が呼び止めた。数歩メイドの元の歩み寄り、少し声を落とし話しかける。
「さっきは9時頃といったが、訂正する。入浴はこちらのタイミング入る。俺が指示したら準備しろ。それと、今から明け方まで、この部屋には、誰も近づけさせるな」
「え?」
「言ってる意味、わかるよな?」
「は、はい! 畏まりました! おおせのままに……!」
冬弥の言葉に、メイドは頬を赤くし部屋から出ていくと、その瞬間、室内はシンと静まり返った。
ここからは、二人きり。
冬弥は改めて、結月を見つめた。
クリスマスツリーの横に佇む結月は、とても美しかった。
清楚にまとめあげられた髪に、品のあるオフホワイトのワンピース。そして、その下に隠された肢体は、男を誘うような魅力にあふれていた。
人払いはさせた。
明け方まで、この部屋には誰も訪れない。
そして、あの日、自分を拒絶した女が、やっと、自分だけのものになる。
覚悟を決めてきた結月は、このあと、従順に俺を受け入れるのだろう。
淫ら声を発しながら、誰にも触れさせたことのないその身体を、俺にだけ許すのだろう。
そう思えば、ひどく心が高揚した。
「結月さん」
「──冬弥さん」
すると、冬弥が呼びかけた瞬間、結月も、また声を重ねた。妙に落ち着きをはらった様子で、こちらを見つめる結月は、メイドたちに運ばせていた自分の荷物の前まで歩み寄り
「冬弥さん。私、バイオリンを持ってきたんです。よかったら、お聞き下さらない?」
そういって、ふわりと微笑む。
そういえば、バイオリンを持ってきていたのを、来訪の際に目にした。どうやらそれは、自分に聞かせるためだったらしい。
冬弥は、その言葉に、ニコリと微笑むと
「もちろん。聞かせてくれ」
愛らしい婚約者の頼みをすぐさま聞きいれ、冬弥は、我が物顔でソファーに腰かけた。
夜はまだ始まったばかり。
何も焦る必要はない。
なぜなら、ここには結月の味方は、一人もいないのだ。あのムカつく執事ですら。
なら、このあとは、じっくり楽しめるだろう。
婚約者との、官能的な夜を――…
0
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる