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第20章 復讐の先
復讐者とお嬢様
しおりを挟む「私──あなたのお父様のこと、知ってるの」
ドクンと、大きく心臓が波打つ。
あまりの出来事に返事すらできず、レオの頭の中では、結月の言葉が、何度も反芻《はんすう》する。
(……知ってるって)
一体、どういうことなのか。その答えに辿りつけずにいると、結月は穏やかに、だが、どこか悲しげな声で話し始めた。
「ごめんなさい……私、ずっと知っていたの。レオのお父様のことも、あなたが復讐のために、私の側にいたこということも──」
✣
✣
✣
『ねぇ、聞いた? 旦那様のホテルの従業員が、事故死したんですって』
それは、8年前。まだレオと出会う前の話。
2月の寒い季節、子猫たちを拾って、しばらくたった頃、私は、メイドたちの噂を、たまたま耳にした。
それは、父が経営するホテルの社員が、川に落ちて事故死したという話で、従業員が亡くなったという事実に、私は酷く驚いていた。
亡くなったのは、望月 玲二さんという男性らしく。コンシェルジュとして働く彼は、とても有能な人だったらしい。
だけど、仕事上は有能でも、家では、小学生の息子を置き去りにして飲み歩くような人だったらしく、世間では、酷い父親だと噂されていた。
『嫌よねぇ、従業員が亡くなるなんて。旦那様たち、どうなさるのかしら?』
『どうなさるって、勤務外のことだし、ホテル側には、なんの責任もないじゃない』
『そうだけど……実はここだけの話、ホテルの従業員たちは、自殺したんじゃないかって騒いでるらしいのよ』
『え、そうなの!?』
『その望月さんて人、かなり男前だったみたいでね。旦那様たちに強要されて、際どい接待をさせられてたらしいって』
『うそっ。それが本当なら、残された男の子が可哀想じゃない!』
望月と言う男が、子供を置いて飲み歩くような酷い父親だという噂は、もう町中に広まっていた。
だけど、その酷い父親像とは別に、阿須加家の中では『自殺ではないか』という噂が密やかに流れていた。
だけど、その噂を、屋敷の外に口外する者はいない。もし、そんな話をしていたと阿須加家に知られたら、タダでは済まないから。
あのメイドたちだって、私が父に告げ口すれば、すぐに解雇されてしまうだろう。だから私は、何も聞かなかったことにして、やり過ごした。
『お嬢様、こちらにいらしたのですね! そろそろピアノのレッスンのお時間ですよ』
メイドたちの元を離れた後、メイドの白木さんに声をかけられた。
もうすぐピアノのレッスンが始まる。私は、白木さんと一緒に廊下を歩きながら、ふと思ったことを問いかけた。
『ねぇ、白木さん。私が、お父様の会社を継ぐことは出来ないの?』
ハッキリとそう言えば、白木さんは少し驚いた顔をして
『まぁ……まだ幼齢でありながら、そのようなことをお考えだったのですか?』
『だって、お父様たちのホテルは、従業員への扱いが酷いと耳にするわ。それに、自殺した人まででたかもしれないって……もし、私が上の立場に立てるなら、そんな体制、全て変えてしまうのに』
まだ小学四年生の勇ましい告白。白木さんは、それを聞いて、優しく微笑みながらも、また悲しそうに目を細めた。
『お嬢様、辛辣なことを申し上げますが、お嬢様が、旦那様の会社を継ぐことはごさいません。跡目は、お嬢様の夫になる方にと、旦那様は、お考えのようですので』
『じゃぁ、私には何も出来ないの?』
『恐らくは』
恐らく──そう濁しながらも、ハッキリと『無理だ』と言われたのが分かって、私はひどく落胆した。
両親の悪辣さに気づきながらも、私に出来ることは何もなかった。
私のこの家での役目は、跡取りとなる男児を産むことだけ。きっと婚約者と結婚したあとは、その夫の後ろで、お飾りの妻をやるだけで、きっと経営には一切関われない。
なら、苦しんでいる人たちの話を聞いても、見て見ぬフリをするしかないのだろう。
だけど、そんな自分は、すごく嫌だと思った。
(私もいつか、お父様たちのようになってしまうのかしら……っ)
人のことを物としか思わない、悲しい大人になってしまうの?
できるなら、そうはなりたくなかった。
苦しんでる者を、見殺しにするような人間にはなりたくなかった。
だけど、力のある者に、人は屈してしまう生き物で、たくさんの本を読んで学んだのは、力のある者には、力で対抗するしかないと言うこと。
弱い者がいくら声を上げても、強い者は見向きもしない。だからこそ、渡り合うには、それと同等の力が必要になる。
だけど、そんな力、簡単には手に入らない。
そして、大人たちは、みんなそれをわかっているからこそ、阿須加家に逆らわないのだと。
(……ずっと変わらないのね、大人になっても)
世界は、変わらないのだと思った。
大人になっても、ずっと変わらずに、私は、お父様たちの言いなりになるだけ。
そのせいか、心は次第に、諦める方向へと向かっていた。
抗うのは無駄だと。
私に勝てるはずないと。
なら、このまま心を殺して生きていくのが、一番だと。
だけど、そんな時だった。
私が、レオと出会ったのは──…
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