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第4章 栗色の髪の女
第70話 友人と片思い
しおりを挟む「もしかして……耳、片方、聞こえてないの?」
至近距離で放たれたその言葉に、あかりは目を見開いた。ただただ飛鳥をみつめたまま、なにも言えず、身体が硬直する。
「あ、ごめん! もしかして、違った?」
すると、その沈黙に不安を感じたのは、もちろん飛鳥の方で、思わず口に出してしまったことを、軽く後悔する。
「ごめん、もし違ったなら──」
「ぁ、いえ……違ってません。ごめんなさい……気づいてくれる人、ほとんどいないので……ちょっとビックリしてしまって……」
「……」
「あなたの言った通りです。私、右耳が全く聞こえなくて、左耳だけで生活してるんです。だから、音がどこから聞こえてくるのか、その方向性がつかめなくて……」
そういって、少し困ったように笑ったあかりに、飛鳥は、先程の行動の不自然さについて、改めて納得する。
人と距離が近いのは、聞こえる方の耳を無意識に近づけていたからで、先程の自分の質問に「変わりましょうか?」とこたえたのも、車の音に邪魔されて「遠い」を「重い」と聞き間違えたから。
そして、歩道の車道側にわざわざ移動したのは、聞こえる方の耳を、飛鳥の方に向けるためだろう。
(本屋や、さっきの住宅街で、ちゃんと会話できてたのは、周りが静かだったからか……)
あかりを見下ろし思考を巡らせていると、今度はあかりが遠慮がちに、飛鳥の手にそっと手を沿えてきた。
「あの、自転車がきたのに気づかなくてごめんなさい。もう、大丈夫ですから……」
「ぁ……」
その言葉で、まだあかりの腕を掴んだままだったと気付いた飛鳥は、言われるままに、その手を離す。
「すごいですね?」
「え?」
「いや、すごい洞察力だなって。人のこと、よく見てるんですね?」
そう言って、まるで「感心しました」とでもいうように、再びふわりと柔らかな笑みを見せたあかりに、飛鳥は目を細めた。
きっと、気づく人は、ほとんどいないのだろう。
それもそのはずだ。なぜなら彼女は、ちゃんと会話はできているのだから──
「ねぇ……」
ゴオオオォォォォォーー!!!!!
「え??」
だが、その後、再び言葉を投げようとした瞬間、大きなトラックが激しい音を立てて通りかかって、飛鳥はその音に、諦めにもにた感情を抱くと
「あの……とりあえず、場所変えていいかな?」
「?」
と、聞こえているのか分からない、あかりに向かって、寂しく提案したのだった。
***
「華、また明日ね~」
「うん、また明日ー!」
放課後の桜聖高校にて──華たちは下校の時刻を迎えていた。
華の友人である中村葉月は、先日バレー部に入部届けを出したようで、今から部活をしに体育館に向かうそうだ。
そんな中、華は、放課後の少し慌ただしい教室内で、もうすぐ蓮が迎えに来るだろうと、教科書を学校指定の鞄の中に詰めこみなかまら、帰宅の準備をしていた。
「華ー」
するとそこに、タイミングよく教室の入口から、蓮が声をかけてきた。華はそれに気づくと、準備を終えた鞄を手にして蓮の元へと急ぐ。
こうして、蓮の元に駆け寄る華の姿は、まるで恋人を待っていた彼女のようにも見えなくもないが、念のためいうが、彼らはただの「双子の姉弟」である。
「早かったね!」
「あぁ、あのさ華、俺今日、榊と一緒にバスケ部の見学しに行くことになった」
「あ、この前言ってたやつ?」
「うん。お前一人で帰れる?」
「あ、はいはい! 問題なく!」
「本当に大丈夫か?お前、いつもボサッとしてるか」
「レン!いくぞー!!」
「!?」
瞬間、蓮はガシッと肩を組まれた。華への忠告も虚しく、その言葉を遮るように声をかけてきたのは、蓮の友人の榊航太。
航太は、蓮と肩を組むと、まるで少年のような笑顔をむけ、華に問いかける。
「神木。今日、蓮借りるな」
「うん、どうぞ~」
「てか、神木は部活やんねーの?」
「私?……うーん。私はまた帰宅部かな?」
「そっか、もったいねーな。神木、運動神経いいし、テニスとかバレーとか上手そうじゃん!」
「そうかな?」
「よく、変なミスするぞ、こいつ」
「こら、蓮!?あんたはまたそうやって!」
「ホントのことだろ。それより華、気を付けて帰れよ」
「はいはい! 蓮も、しっかり見学してきなさいよ! それじゃ、榊君も頑張ってね!」
「おお!」
華は、笑顔で手を振り、蓮と航太の横を通りぬけると「じゃぁ、お先に~♪」といって走っていった。
そして、そんな華の後ろ姿をみつめながら
「神木って、可愛いよな……」
航太がボソリと呟く。
「はぁ??」
「だって神木、スゲーいい子じゃん……明るくて素直だし、おまけに可愛いし」
「は? お前なに言ってんの?」
「あ、だから……その……つまりは、蓮が許してくれたら、俺、彼氏に立候補するんだけどな……って」
「……」
──ん?
瞬間、蓮は瞠目する。
言葉が上手く飲み込めない。
彼氏に立候補? ということは、つまり榊が華を
「はぁ?! お前、華のこと好きだったの!?」
「ま、まぁ……っ」
「うそだろ!? いつから!?」
「中二のころから……」
「マジかよ!? こんな近くにケダモノがいたなんて!」
「ケダモノ言うな!! それとも、やっぱり双子だと……片っぽに彼氏とかできたら、複雑なもんなの?」
「……そ、それは、別に、いつかそんな日がくるのは、分かってることだし」
「へー……その辺は案外ドライなんだな、蓮は」
「ドライと……いうか……」
いつまでも、自分や兄が守ってやれるわけではないし、華だって、兄だって、いつかはみんな大人になって、それぞれ、別の道を歩いていくわけで──
「むしろ……華を守ってくれそうな、しっかりした彼氏がいてくれたら、いいとは思うよ。単純に」
「じゃぁ、俺が彼氏になってもいいってことだよな!」
「誰がお前のことって言った!? マジか!? 本気で好きなの!?」
「……うん、ごめん。いつ言うかずっと考えてたんだけど、高校入ったらもういいかなと」
「よくねーよ! 墓場まで持ってけよ!」
「なんで墓場まで、恋心埋めにいかなきゃなんねーんだよ! むしろ高校上がるまで待ってやったんだぞ、ありがたく思え!」
「思えるか!!」
「おいこら、お前らぁ! なに廊下で騒いでんだ!」
すると、廊下で騒くバカ二人に、たまたま通りかかった藤本先生が眉をしかめて注意をしてきた。
蓮と航太は、突如現れた藤本先生に、とりあえず逃げるかと、バスケ部が部活をしている体育館へと退散する。
一方、その頃、華はというと──
「えーお兄さん、料理もできるの!」
「いいな~うちのお兄ちゃんなんて、カップ麺しか作れないよー!」
「男の料理って、なんかちょっと憧れるよね~」
(……どうしよう。帰れない)
玄関の下駄箱前で女の子たちに呼び止められ、見事に捕まっていたのだった。
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