神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
79 / 554
第4章 栗色の髪の女

第70話 友人と片思い

しおりを挟む

「もしかして……耳、片方、聞こえてないの?」

 至近距離で放たれたその言葉に、あかりは目を見開いた。ただただ飛鳥をみつめたまま、なにも言えず、身体が硬直する。

「あ、ごめん! もしかして、違った?」

 すると、その沈黙に不安を感じたのは、もちろん飛鳥の方で、思わず口に出してしまったことを、軽く後悔する。

「ごめん、もし違ったなら──」

「ぁ、いえ……違ってません。ごめんなさい……気づいてくれる人、ほとんどいないので……ちょっとビックリしてしまって……」

「……」

「あなたの言った通りです。私、、左耳だけで生活してるんです。だから、音がどこから聞こえてくるのか、その方向性がつかめなくて……」

 そういって、少し困ったように笑ったあかりに、飛鳥は、先程の行動の不自然さについて、改めて納得する。

 人と距離が近いのは、聞こえる方の耳を無意識に近づけていたからで、先程の自分の質問に「変わりましょうか?」とこたえたのも、車の音に邪魔されて「遠い」を「重い」と聞き間違えたから。

 そして、歩道の車道側にわざわざ移動したのは、聞こえる方の耳を、飛鳥の方に向けるためだろう。

(本屋や、さっきの住宅街で、ちゃんと会話できてたのは、周りが静かだったからか……)

 あかりを見下ろし思考を巡らせていると、今度はあかりが遠慮がちに、飛鳥の手にそっと手を沿えてきた。

「あの、自転車がきたのに気づかなくてごめんなさい。もう、大丈夫ですから……」

「ぁ……」

 その言葉で、まだあかりの腕を掴んだままだったと気付いた飛鳥は、言われるままに、その手を離す。

「すごいですね?」

「え?」

「いや、すごい洞察力だなって。人のこと、よく見てるんですね?」

 そう言って、まるで「感心しました」とでもいうように、再びふわりと柔らかな笑みを見せたあかりに、飛鳥は目を細めた。

 きっと、気づく人は、ほとんどいないのだろう。

 それもそのはずだ。なぜなら彼女は、ちゃんと会話はできているのだから──

「ねぇ……」

 ゴオオオォォォォォーー!!!!!

「え??」

 だが、その後、再び言葉を投げようとした瞬間、大きなトラックが激しい音を立てて通りかかって、飛鳥はその音に、諦めにもにた感情を抱くと

「あの……とりあえず、場所変えていいかな?」
「?」

 と、聞こえているのか分からない、あかりに向かって、寂しく提案したのだった。




 ***


「華、また明日ね~」

「うん、また明日ー!」

 放課後の桜聖高校にて──華たちは下校の時刻を迎えていた。

 華の友人である中村葉月は、先日バレー部に入部届けを出したようで、今から部活をしに体育館に向かうそうだ。

 そんな中、華は、放課後の少し慌ただしい教室内で、もうすぐ蓮が迎えに来るだろうと、教科書を学校指定の鞄の中に詰めこみなかまら、帰宅の準備をしていた。

「華ー」

 するとそこに、タイミングよく教室の入口から、蓮が声をかけてきた。華はそれに気づくと、準備を終えた鞄を手にして蓮の元へと急ぐ。

 こうして、蓮の元に駆け寄る華の姿は、まるで恋人を待っていた彼女のようにも見えなくもないが、念のためいうが、彼らはただの「双子の姉弟」である。

「早かったね!」

「あぁ、あのさ華、俺今日、榊と一緒にバスケ部の見学しに行くことになった」

「あ、この前言ってたやつ?」

「うん。お前一人で帰れる?」

「あ、はいはい! 問題なく!」

「本当に大丈夫か?お前、いつもボサッとしてるか」

「レン!いくぞー!!」

「!?」

 瞬間、蓮はガシッと肩を組まれた。華への忠告も虚しく、その言葉を遮るように声をかけてきたのは、蓮の友人の榊航太。

 航太は、蓮と肩を組むと、まるで少年のような笑顔をむけ、華に問いかける。

「神木。今日、蓮借りるな」

「うん、どうぞ~」

「てか、神木は部活やんねーの?」

「私?……うーん。私はまた帰宅部かな?」

「そっか、もったいねーな。神木、運動神経いいし、テニスとかバレーとか上手そうじゃん!」

「そうかな?」

「よく、変なミスするぞ、こいつ」

「こら、蓮!?あんたはまたそうやって!」

「ホントのことだろ。それより華、気を付けて帰れよ」

「はいはい! 蓮も、しっかり見学してきなさいよ! それじゃ、榊君も頑張ってね!」

「おお!」

 華は、笑顔で手を振り、蓮と航太の横を通りぬけると「じゃぁ、お先に~♪」といって走っていった。

 そして、そんな華の後ろ姿をみつめながら

「神木って、可愛いよな……」

 航太がボソリと呟く。

「はぁ??」

「だって神木、スゲーいい子じゃん……明るくて素直だし、おまけに可愛いし」

「は? お前なに言ってんの?」

「あ、だから……その……つまりは、蓮が許してくれたら、俺、彼氏にするんだけどな……って」

「……」

 ──ん?

 瞬間、蓮は瞠目する。
 言葉が上手く飲み込めない。

 彼氏に立候補? ということは、つまり榊が華を

「はぁ?! お前、華のこと好きだったの!?」

「ま、まぁ……っ」

「うそだろ!? いつから!?」

「中二のころから……」

「マジかよ!? こんな近くにケダモノがいたなんて!」

「ケダモノ言うな!! それとも、やっぱり双子だと……片っぽに彼氏とかできたら、複雑なもんなの?」

「……そ、それは、別に、いつかそんな日がくるのは、分かってることだし」

「へー……その辺は案外ドライなんだな、蓮は」

「ドライと……いうか……」

 いつまでも、自分や兄が守ってやれるわけではないし、華だって、兄だって、いつかはみんな大人になって、それぞれ、別の道を歩いていくわけで──

「むしろ……華を守ってくれそうな、しっかりした彼氏がいてくれたら、いいとは思うよ。単純に」

「じゃぁ、俺が彼氏になってもいいってことだよな!」

「誰がお前のことって言った!? マジか!? 本気で好きなの!?」

「……うん、ごめん。いつ言うかずっと考えてたんだけど、高校入ったらもういいかなと」

「よくねーよ! 墓場まで持ってけよ!」

「なんで墓場まで、恋心埋めにいかなきゃなんねーんだよ! むしろ高校上がるまで待ってやったんだぞ、ありがたく思え!」

「思えるか!!」

「おいこら、お前らぁ! なに廊下で騒いでんだ!」

 すると、廊下で騒くバカ二人に、たまたま通りかかった藤本先生が眉をしかめて注意をしてきた。

 蓮と航太は、突如現れた藤本先生に、とりあえず逃げるかと、バスケ部が部活をしている体育館へと退散する。

 一方、その頃、華はというと──

「えーお兄さん、料理もできるの!」

「いいな~うちのお兄ちゃんなんて、カップ麺しか作れないよー!」

「男の料理って、なんかちょっと憧れるよね~」

(……どうしよう。帰れない)

 玄関の下駄箱前で女の子たちに呼び止められ、見事に捕まっていたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...