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第4章 栗色の髪の女
第69話 懐かしさと音
しおりを挟む「貸して。俺が持つよ」
そう言って、手を差し出しせば、あかりは再び飛鳥の方へと視線を向けた。だが、あかりはその飛鳥の言葉に
「いえ、結構です」
と、これまたニコリと否定の言葉を返して、その言葉には、さすがの飛鳥もカチンときたらしい。こめかみに怒りマークが浮かぶ。
「あのさ! さっきから結構結構って、それしか言えないの!? 男が持つって言ってるんだから素直に従いなよ!」
「だって、あなた何か企んでそうですし」
「あれ? 俺、そんなに、人が悪そうに見える?」
「散々、嫌がらせしといて、よく言えますね。それに私、”いつもニコニコしてる誰にでも優しい男”には気を付けろと母にいわれてるんです」
「へー、君の母親は、俺か、俺の親父になんか恨みでもあるのかな? 大体、手震わせながら何言ってんの? 痩せ我慢せずに、素直に俺の言うこと聞いてればいいのに? 本当、君可愛くないね?」
「痩せ我慢なんてしてません。それにあなたに可愛いだなんて思われても迷惑です!」
どうやら、本屋でからかい過ぎてしまったのか、淡々と出てくる否定の言葉に『よくもまぁ、ここまで嫌われたもんだ』と、飛鳥は自分の行いを少しだけ反省した。
だが、あかりをみれば、やはり重いのだろう。腕を微かに震わせて、いかにも辛そうだった。
(……絶対重いよな、あれ)
大根とカボチャ、それにさっき本屋で買った文芸書。このまま威嚇されっぱなしでは、きっとこの女は、素直に頼ることはないだろう。
そう思った飛鳥は、今度はあかりの警戒を解こうと、優しく語りかけ始めた。
「別に何もたくらんでないし、家までついて行くわけじゃないよ。さすがにそれ重すぎるし、途中まで俺が持てば、少しは楽になるだろ?」
「……そ、そうですけどっ」
「ほら、貸して」
そういって、また手を差しすと、あかりもついに観念したのか、少しだけ考えたあと、申し訳なさそうに手にした袋を飛鳥に差し出してきた。
「あの、さっき右に曲がるって……」
「いいよ、別に。急いでないし」
「あの……ありがとうございます!」
「……」
袋を受け取ると、あかりは、またふわりと笑って、お礼の言葉を述べてきて、その姿を見て、飛鳥は、なんだか無性に懐かしい気持ちになった。
心から温かくなるような
泣きたくなるような
そんな──
(あれ……なんだろう、この感じ……?)
***
それから、二人並んでしばらく歩くと、住宅街を抜け、その先にあった国道沿いの道路にでた。
さっきの住宅街とは違い、歩道の右手側は、思ったよりも車の往来が激しい道路だった。飛鳥は、多少ムカツク女とはいえ、あかりは女性なので、念のため危なくないよう、さりげなく歩道の車道側に移動する。
「家まで、どのくらいかかるの?」
書店を後にしてから、30分は歩く。そのため、彼女の自宅はなかなか遠い所にあるのかも知れないと思い、飛鳥はふと気になり、あかりに問いかけた。
「…………」
「?」
だが、先程まで普通に会話をしていたはずなのに、あかりは急に何の反応も示さなくなった。
「ねぇ、聞いてる?」
「……え? ぁ、の……なにか?」
「?……いや」
少し申し訳なさそうに聞き返してきた姿に、飛鳥は眉を顰める。
確かあの日も、こんな感じだった。
あかりと初めてあった日、あの時も車が多くなり出した時間帯で、少し騒がしい歩道での会話。
「家、遠いね?」
すると飛鳥は、その時のことを思いだし、少しだけ声の音量をあげ、再び問いかける。だが……
「………あ、変わりましょうか?」
「は?」
ん? 変わる!?
(……あれ? 俺、今なに言った? "変わる"って何を? 家を? いやいや、おかしいだろ)
突如、噛み合わなくなった会話。
しかも、それだけならまだしも、あかりはわざわざ、危険な車道側に移動しようとすらしていた。
そう、なぜかこの女。
ことごとく、飛鳥の善意を踏みにじってくる!!
「あの、もう大丈夫です。ありがとうございました!」
「……」
すると、二人の立ち位置がすっかり入れ替わった頃。あかりが、改めてお礼を言ってきて、飛鳥はなんとも言えない表情を浮かべた。
この笑顔をみる限り、彼女に悪意があるようには見えない。だが、なんとも腑に落ちない。
──チリン、チリーン!
「?」
瞬間、どこからかベルの音が聞こえきた。飛鳥が後方を確認すれば、こちらに向かって自転車が走ってくるのが見えた。
ベルの音は「よけてくれ」という合図だろう。
そう思って、飛鳥が再び自分の横にいるあかりの方に目を向けると、どうやらその音は、あかりには聞こえなかったのか、自転車に気づく様子はなく。
「───ッ!」
瞬間、飛鳥は慌ててあかりの腕を掴むと、そのまま勢いよく自分の方へと引き寄せた。
長い栗色の髪がふわりと揺れて、あかりはそのまま飛鳥の胸に抱き込まれると、同時に目を見開く。
キキ─────ッ!!!?
けたたましいブレーキの音。
鋭い音をたてて、二人のすぐ背後まで来た自転車は、一瞬だけスピードを緩めるたあと、そのまま停まることなく二人の横を通り抜けていった。
(ッ……あっぶな)
思わず抱き寄せてしまったが、とりあえず怪我がなくて良かったと去っていった自転車を見送くると、飛鳥は自分の胸元で固まっているあかりに再び目をむける。
「全く、ちゃんと聞こえてんの!? もう少し気をつけて」
「……ッ」
瞬間、あかりがビクリと肩を弾ませた。飛鳥のその言葉に、小さく唇をかみしめると、あかりは少し泣きそうな声で返事を返してきた。
「……ぁの……ごめん……なさい……っ」
(あ……)
悲しそうに瞳を揺らす、その彼女の姿は、なぜかとても、傷ついているように見えた。
すると、あかりを傷つけたのが、今の自分の"言動"のせいだと気づいたからか、なにかがストンと落ちるように、彼女の一連の行動に納得した飛鳥は、その後離れようとした、あかりの腕を掴む。
「もしかして、君……」
「え?」
そっと引き寄せて、近くなったその距離で、改めて問いかければ、驚き見上げてきたあかりと再び目が合った。
すると飛鳥は
「もしかして君……耳、片方、聞こえてないの?」
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