神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第9章 【過去編】偏愛と崩壊のカタルシス

第123話 偏愛と崩壊のカタルシス⑥

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「ねぇ……これ、いる?」

 道路沿いの歩道で、一人座り込んでいた俺に、その人は声をかけてきた。

 泣きながら後ろを振り向けば、そこには女の人がたっていて、俺は、その人を呆然と見上げた。

 胸元辺りまで伸びた髪は、ミルクティーみたいな、とても明るい色をしていた。紺色のジャケットに赤いチェックのスカートは、どこかの学校の制服なのだろう。

 ブレザーを着たその姿は、一般的に女子高生といわれる年代の人だった。

 だけど、そのお姉さんが差し出してきたものを目にして、俺は体を強ばらせた。

 涙でいっぱいになった目で、改めて確認すると、その手には、さっき俺が放り投げたペットボトルが握られていた。

 俺はその人が、あの時コンビニで声をかけてきたお姉さんだと気づいて、青ざめる。

 警察に連れていかれるのかな?
 それとも、お母さんを呼ばれるのかな?

 いろんなことが頭を駆け巡って、涙が止まらずに溢れてくると、俺はしゃくりあげるような声をあげた。

「ひっ……ぅ、ごめ……な…さぃ…っ」

「そんなに怖がんないでよ。ほしかたんじゃないの? これ」

 すると、お姉さんは、ちょっと困ったような顔をして、その場にしゃがみこんだ。

 そっと俺の顔を覗きこんで、優しく微笑む姿を見て、また涙が溢れてきた。

「おれ……っ、けいさつ……に、つかまる、の?」

「え? 警察?」

 俺がそういえば、お姉さんは、きょとんと目を丸くて、驚いていた。

「警察に捕まるような悪ガキなの、君」

「だって、おれ、それ持っていこうとして……だから……っ」

 悪いことをしたら、お巡りさんに捕まるのだと、子供ながらに理解していた

 ひくひくと震えながら泣く俺を見て、お姉さんは、手にしたペットボトルを見て「あー」と納得したような声を上げると、その後、また優しく笑った。

「あはは、なんだこれのこと~? 万引きするつもりだった? でも、取ってないし。それに、これは、私が買ってきたやつだから警察には捕まらないよ!」

「でも……っ」

「でも、じゃないの! 本当に大丈夫だから。はい、喉乾いてるんでしょ?」

 そういうと、お姉さんは、ペットボトルの蓋を開け、またそれを俺の前に差し出してきた。

 お姉さんは、その後も、ずっと笑っていて、怒られないことを確信して安心したのか、俺はその後おそるおそるペットボトルを受けとると、意を決して喉に流し込む。

「ねぇ、君いくつ?」

「4歳……」

「はぁ!? 4歳!?」

 瞬間、年齢を聞いて声を張り上げたお姉さんに、俺は再びビクリと肩を弾ませた。

「あ、ごめん。4歳とか……幼稚園児がこんなところに一人でいるとかヤバイじゃん! お母さんか、お父さんは? はぐれちゃったの?」

「……」

 小さな子供が一人で、こんな車通りが盛んな歩道にいたことに、お姉さんは真剣な顔をして、俺を見つめてきた。

「お母さん、一緒に探しにいこうか?」

「──や、やだ! いきたくないッ!」

 思わず、顔をあげ、そういった。

「俺ッ……帰りたく……な……ッ」

 とっさに放った言葉は、紛れもない本心だった。

 もう、あんな家帰りたくない。

 すると、お姉さんは、その後暫く黙り込んだ後──

「あ、膝とか手とか、擦りむいてるじゃん!」

 そう言って、俺の右膝を指さした。

 それは、窓から飛び降りた時にできた傷だった。みれば、血が滲んでいて、久しぶりに出来た傷は、ジクジクと鈍い痛みを発していた。

「立てる?」
「え?」

 お姉さんは、そういって、俺に手を差し出してきた。

「こんなところにいたら危ないし、この先に公園があるから、あっちいこっか? その怪我、消毒してあげる」

「…………」

 知らない人に、ついて行ってはいけない。

 そう、厳しく躾られていたはずなのに、俺は不思議とその手をとると、公園まで着いていくことにした。
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