神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

文字の大きさ
254 / 554
第17章 華の憂鬱

第238話 「好き」と『好き』

しおりを挟む

 その後、飛鳥が帰って暫くたったあと、あかりはアパートに帰りついた。

 少し薄暗い中、アパートの階段を上り、あかりは、そのまま自分の家へと進む。

「あかりちゃん!」
「?」

 するとその瞬間、背後から声をかけられた。

 誰だろうと、あかりが振り向けば、どうやら仕事帰りなのか、隣に住む大野が、スーツ姿で話しかけてきた。

「こんばんは! 今、帰り?」

「あ、はい」

 声をかけられ、あかりはいつも通り、にこやかに言葉を返す。すると、それから、少しだけ会話をしたあと

「そう言えばさ。最近、神木くんとは、上手くいってるの?」

「え?」

 冗談混じりに。だが、思わぬことを問いかけられ、あかりは目を丸くする。

 そう、大野は今、あかりと飛鳥がと思っていた。

 つまり『上手くいってるの?』とは『恋人』として上手くいってるのかを問いているのだろう。

(そう言えば……大野さん、まだ私のこと諦めてないって、神木さん言ってたっけ)

 夏祭りの日、飛鳥がそう言っていたのを思い出し、あかりは表情を曇らせた。

 もし、その話が本当なら、こうして話をするのも、少し怖いとすら感じてしまう。

「最近、神木くんが来てるの見ないけど、もしかして別れたとか?」

「え? ぁ、いえ、別れてませんので、ご心配なく!」

 すると、更なる大野の言葉に、あかりは慌てて返した。

 前に、飛鳥に忠告されたとおり、あくまでも付き合っているつもりで話すが、大野は、そんなあかりに、更に詰め寄ると

「でもさ~。正直、神木くんみたいな子と付き合うのって大変じゃない?」

「え? 大変?」

「だってほら! あの顔なら、かなりモテるでしょ? 夏祭りの時も、女の子たくさんはべらせて遊んでたしさー」

 それはまるで、仲違いでもさせようとしているのか?
 大野は、次々と、飛鳥に対して不安をあおるようなことを吹き込んでくる。

「それに、大学で内緒にしてるのも変じゃない? 本当にあかりちゃんのため? 正直、フリーだと思われてるなら、浮気しようと思えば、いつでも出来そうだしさ。あかりちゃん、騙されてたりしてない? もし浮気されたり、困ったことがあったら、俺いつでも相談に」

「そう言うのやめてくれませんか?」

「え?」

 だが、その後、あかりから、ひどく冷たい声が返ってきて、大野は目を見開く。

「あ、あかりちゃん?」

「私のことを心配してくれるのは、ありがたいですが、そうやって見た目や憶測だけで、勝手に彼のこと判断しないでください。神……飛鳥さんは、そういう人じゃありませんから」

「……っ」

 どこか不機嫌そうに眉をひそめるあかり。それを見て、大野は言葉をつまらせる。

 そして、さすがにまずいと思ったらしい。
 あたふたと弁解しはじめた。

「あ、あの! ごめんね! 俺はただ、あかりちゃんが心配で! でも、そうだよね! 彼氏の悪口なんて、聞きたくはないよね!」

「………」

 その後、謝り倒す大野。
 だが、あかりは、大野をみつめながら、ふと自分の感情ふりかえる。

 なぜだろう。

 神木さんのことを悪く言われて、なんだかすごく頭にきた。

 確かに見た目は派手だし、凄くモテる人だと思う。

 だけど、本当に女の子をはべらせて遊んでいるような人なら、あの日、自分を抱きしめたくらいで、あんなに顔を赤くして動揺することはないと思った。

 でも……

(……なに、ムキになってるの?)

 はっきりいって、自分だって人のことは言えないのだ。自分も、彼の見た目や噂から、勝手に判断していた時があった。

 大学の人気者で
 常に人の輪の中心にいるような人で

 いつも笑って飄々としていて
 悩みなんて、一切ないような人

 そう、思ってた。

 だけど、何度か会って話をするうちに、少しずつ、彼のことが分かってきた。

 優しい人だと思った。
 誠実な人だと思った。

 始めは喧嘩をしたり、ギクシャクした時もあったけど、それでも彼の側は、不思議と安心できて──…


「あかりちゃんも、神木くんのことが『好き』なんだね」

「……え?」

 瞬間、放たれた言葉に、あかりは再び目を見開く。

「参ったな……ホント、相思相愛って感じで! あ、あの、さっき言ったことは、気にしないで! 俺もう部屋はいるから! じゃぁね!」

 そう言って手を振ると、大野は逃げるように自分の家に入っていって、あかりは、誰もいなくなった廊下で、暫く立ち尽くした。

 だが、その後、自分の家へ入った、あかりは……

「相思……相愛?」

 扉を閉め、鍵をかけたあと小さく呟く。

 あくまでも恋人のフリで、そう思われているなら、別に悪いことじゃないはずだった。

 だけど、その言葉はなぜか、あかりの心に深く突き刺さった。

「……?」

 そして、その瞬間、ふと視線を落とした先で、ポストの中に何か入っているが見えた。

 中腰になり、その中を覗き込むと、そこには、昨日、華にあげたはずのショッピングバッグが入っていた。

(あれ? これ、確か華ちゃんに)

 あげたはずだったものが、何故かここにある。

 すると、ふと「兄に頼めば、返せる」と華が言っていたのを思い出した。

「神木さんが……返しに来たんだ」

 再度ポストの中を見ると、ショッピングバッグのほかに、ラッピングされたお菓子と手紙のようなものも入っていた。

 あかりは、玄関の明かりをつけると、その場に立ち尽くしたまま、手紙の内容を確認する。

 するとその手紙には、控えめながらもとても整った字で、こう書かれていた。


✤──────────────────✤

    うちの妹が、世話になったみたいで
    華のこと助けてくれて、ありがとう      
                                                         
    あと、この前は急に抱きしめたりして  
    ごめんなさい。                                
    お礼というか、お詫びというか          
    お菓子、良かったら食べてください。     

                                    神木 飛鳥          

✤──────────────────✤


 お詫び──そう書かれた手紙をみつめ、あかりはキョトンと首をかしげる。

 いつもとは違う、どこか改まった内容。

 普段は呼び捨てだし、敬語なんて全く使わないくせに、珍しく「ごめんなさい」などと書かれているのが、なんだか、すぐったかった。

「まだ、気にしてたんだ……」

 そして、その文面に、あかりが、くすりと微笑む。

 あの時も謝ってくれたのに、わざわざお菓子まで買ってきてくれるなんて、相変わらず、律儀な人だと思った。

 確かに、あの時は、突然抱きしめられて驚いた。
 だけど、不思議と、嫌ではなくて──



『あかりちゃんも、神木くんのこと好きなんだね』



「……っ」

 だが、その瞬間、先程の大野の言葉が蘇り、あかりは手にした手紙をきつく握りしめた。

「違う……っ」

 違う、違う、違う。

「私の好きは、そういう『好き』じゃ……っ」

 これは、あくまでも『友達』としてで、さっき頭にきたのも、ただ友達を悪く言われて、嫌な気分になっただけ。

 それ以上の『感情』なんて、なにもない。

 はずなのに……


「神木さんて、どうしてこんなに……優しいんだろう……っ」

 その雰囲気に、その優しさに、つい甘えてしまいそうになる。でも……

「お願いですから……あまり優しくしないでくださいね……私、あなたとは、この先もずっと、お友達のままでいたいから──」


 やっと、前に進めた。
 やっと、ここまで立ち直れた。

 一人で、生きていきたい私にとって

 その『感情』は
 邪魔なものでしかないから──

 だから、どうかこれ以上
 優しくなんてしないでほしい。

 この先、私があなたのことを






 『好き』になることがないように──…






しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...