253 / 554
第17章 華の憂鬱
第237話 お礼とお詫び
しおりを挟む次の日──大学の授業が終わると、飛鳥は外のベンチに腰掛け、隆臣と待ち合わせをしていた。
「飛鳥ー」
「……!」
学生達が行きかう中、飛鳥を見つけた隆臣が小走りで駆け寄ってくると、飛鳥はいつも通りにこやかに返事を返す。
「隆ちゃん、ごめんね。昨日は、いきなりLIMEして」
「いや。それよりコレ、頼まれてたやつ」
そう言って隆臣はリュックの中から、ラッピングされたお菓子を取り出すと、飛鳥はそれを受け取り、代わりに代金を差し出した。
昨日、華にいきなり、あかりとのことを問いただされ、軽く修羅場った飛鳥。
あのあと、華も反省したらしく、お互いに謝り事なきを得たのだが、なんでも華は、昨日あかりに助けられたそうで、飛鳥はこのあと、華が借りたショッピングバッグを返すべく、あかりの家に向かうことになっていた。
「それ、どうするんだ? 誰かへのプレゼントか?」
「え? いや……あかりにね。お礼と言うか、お詫びというか」
(……お詫び?)
その言葉に、隆臣は首を傾げる。
昨晩、いきなり『プレゼントになりそうなお菓子を、なにか見繕って持ってきて』とLIMEがはいり、隆臣はバイト上がり、喫茶店のお菓子をいくつか詰め合わせて持ってきたのだが……
「お前、あかりさんに、また何かしたのか?」
「……っ」
前に、飛鳥があかりと(一方的に)喧嘩していた時のことを思い出して、隆臣がそう問えば、飛鳥は途端に言葉を詰まらせた。
何もしてない──といいたいところだが、今回は確実にやらかした。
だが『無理やり、抱きしめました!』なんて、この警察官の息子に暴露できるはずもなく……
「いや、別に……じゃぁ、俺、急ぐから、もう行くね!」
飛鳥はバツが悪そうに視線を落とすと『お菓子ありがとう』と再度お礼を言ったあと、足早に立ち去っていった。
だが、その珍しく挙動不審な飛鳥を見て、隆臣は
「あれ、確実に、なにかやらかしてるだろ……」
──と、確信したとか。
◇
◇
◇
「はぁ……」
その後、飛鳥は、あかりのアパートに向かいながら深くため息をついていた。
昨日、華に『イケメンなら何しても許されるとか思ってるの!?』などと問いただされ、かなり胸にグサリときた。
確かに、自分の外見がいいのは認めるが、だからと言って、何をしてもいいなんてことはなく。ただ、あの時はなぜか、勝手に身体が動いてしまった。
(でも、まさか、蓮華に見られてたなんて……)
あの恥ずかしい現場を見られていたのかと思うと、恥ずかしさでいっぱいになる。
大体、女の子とのイザコザなんて面倒なだけだし、基本的に飛鳥は『理性的な人間』なので、一時の感情に任せて、抱きしめたりなんて、本来なら絶対にしない。
それなのに……
「なんで抱きしめたりしたの……か」
華に問われた言葉を思い出し、飛鳥は再度ため息をつく。
昨日は動揺して、まともに返すことすらできなかったが、もしあの時、つい抱きしめたことに"理由"があるとするなら、それは、きっと『感情的』になってしまったから──
あの日、エレナとあかりに『あの人の息子だ』と打ち明けた。
そして、自分が『人を刺した女の息子』だと聞いて、どう思ったのか、あかりに率直に問いかけた。
軽蔑するだろうか?
怖がるだろうか?
幻滅するだろうか?
離れていってしまうだろうか?
色んな不安が渦巻く中、それでも、あかりは臆することなく
『私は、好きですよ。神木さんのこと──』
そう言って、今までどおり友人として、受け入れてくれた。
思わず感情的になってしまったことに、もし、理由をつけるなら
それは、きっと『嬉しかった』から──…
「……やっぱり、嫌だったかな」
あの日、自分の腕の中で困惑しているあかりの姿を思い出して、飛鳥は申し訳なさそうに眉をひそめた。
相手は、自分よりも非力な女の子。
例えどんな理由があっても、抱きしめていいはずがない。
だからこそ飛鳥は、今とてつもなく反省していた。
(お菓子ひとつじゃ、詫びにもならないだろうけど……)
何もないよりはマシか──と、3度目のため息をつくと、その先に、あかりのアパートが見えてきた。
公園を通り過ぎ、階段をのぼり、アパートの2階につくと、一番奥の部屋の前に立ち、インターフォンを鳴らした。
だが、それからしばらく待っても、あかりが出てくる気配はなく。
「留守か……」
アポなしで来ているのだ。
留守であっても、不思議はなかった。
(アイツ……今日何時に、帰ってくるんだろ)
大学は6限目まででると、そこそこ遅くなる。
夕方5時を過ぎ、だいぶ薄暗くなってきたからか、飛鳥は少し心配になるが『留守なら仕方ないか……』と、その後カバンから手帳とペンを取り出すと、飛鳥は簡単な手紙を書いて、華が借りたショッピングバッグとお菓子を、玄関ドアに備え付けられたポストの中に入れ込んだ。
無機質なポストがガタンと、虚しい音を立てる。
すると……
『あかりさんのこと、好きなんじゃないの?』
その瞬間、また華の言葉がよぎって、飛鳥は目を細めた。
あかりに触れたのは、初めてじゃない。
本屋で再会した時、その帰り道で自転車から守ろうと抱き寄せたこともあったし、あの人に遭遇して倒れた時にも、あかりが俺の体を支えて、家まで運んでくれた。
だけど、なぜか、あの時抱きしめた感触だけは、未だずっと、忘れられないまま残っていた。
肌の温かさも
髪から舞う甘い香りも
困ったように頬を赤らめた表情ですら
だけど──
「そんな、わけない……」
そっと目を閉じると、そう自分に言い聞かせた。
そんなわけない。
もう、とっくの昔に実感した。
自分は、他人を愛せない人間だって──
家族に依存する自分を変えようと、誰かを好きになろうとした時期もあった。
だけど、無理だった。
これ以上、大切な人なんて増やしたくない。
また、取りこぼしたら、どうする?
何かを守るために、また別の何かを失うくらいなら、もうこれ以上、大切な人なんていらない。
それに───
「……どうせ、好きになったところで」
人の『愛』なんて
簡単に壊れてしまうのに──
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる