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最終章 愛と泡沫のアヴニール
第477話 姉弟と跡取り
しおりを挟むカラン、ころん、と下駄の音がなる。
浴衣を着たあかりと、甚平姿の理久は、住宅街の中を歩きながら、二人で話をしていた。
「母さんも、タイミング悪いよなー」
「しかたないじゃない。仕事でトラブルがあったんだから」
先ほど、かかってきた電話は、二人の母・倉色 陵子への電話だった。
田舎の町で、会社員として働いている陵子は、部下に慕われている、とてもいい上司だ。
しかし、頼りやすいのか、困った時には、休みの日でも、こうして電話がかかってくる。
しかも、今回は、月曜日に使う企画書のデータを間違って削除してしまったらしく、陵子が、再度、作成することになり、母は今、あかりのパソコンを使って、企画書を作り直しをしている。
「企画書じたいは、2時間あればなんとかなるって言ってたから、8時過ぎには、来れるんじゃないかな?」
「じゃぁ、花火には間に合うかな?」
あかりの言葉を聞いて、理久が、空を見上げた。
陽の落ちた宵闇には、星がキラキラと輝きはじめ、夜の始まりを伝えていた。
そして、会場が、近くなるばなるほど、浴衣姿のカップルや家族連れが目についた。
なにより、母は『先に行って、楽しんでなさい』といっていたのだ。
ならば、先に楽しんでおくとしよう。今日は、久しぶりに姉と、夏祭りを過ごせるのだから……
「つーか、腹減った。着いたら、まずは飯にしよーぜ」
すると、理久が、気の抜けた声を発し、あかりは、ふわりと微笑む。
「そうね、何食べる? やっぱり、たこ焼きかなー?」
「たこ焼き? 姉ちゃん、猫舌なのに?」
「べ、別に冷めてからでも美味しいし。それに、お祭りに来たら、たこ焼きと、かき氷は食べておきたいじゃない。理久も好きでしょ?」
「あのさー。いつまでも俺の味覚が、子供だと思うなよ」
「え、食べないの?」
「いや、食べるけど、わあと俺、イカ焼きと唐揚げも食べたい」
「え、唐揚げってあるのかな?」
「え? ないの?」
「さぁ、初めて行くお祭りだし」
定番のものは、あるだろうが、ほかには、どんな種類の屋台があるのだろうか?
倉色姉弟は、また見ぬ、お祭りに期待する。
なにより、初めていく桜聖市のお祭りだ。
だからこそ、胸が踊るようでもあった。
第477話『姉弟と跡取り』
***
「航太ー。もう手伝わなくていいぞー!」
そして、あかりたちが、神社に訪れた頃、運営側を手伝っていた航太は、町内会のお兄さんに声をかけられていた。
朝から、会場の設営に取り掛かっていて、このまま、夜まで手伝うと思っていたのだが、いきなり離脱を勧められた。
「え? なんで? 祭りはこれからじゃん!」
「いいから、いいから! お前は、朝から手伝ってただろうー。神社の跡取り息子だからって、何から何まで手伝わなくていいんだぞー。はいよ、これ、お前の父ちゃんから、小遣いだって! つーわけで、航太の仕事は、もう終わり! 祭り、楽しんでこい!」
この榊神社の神主は、航太の父だった。
そして、その父も祭りの運営に携わっている。
会場が神社なのだから、自ずと関わることになるのだが、昔から、この場所で行われてきたからか、神社の跡取り息子でもある航太には、慣れ親しんだ光景で、当然、手伝うのも当たり前だった。
「別にいいよ。誰とも会う約束してないし」
「でも、去年も手伝ってただろ。それに、高校卒業したら、この街、離れるって聞いたし、友達との思い出づくりも大事だぞ!」
「………」
その言葉に、航太は黙り込んだ。
確かに、高校を卒業したら、この桜聖市を離れる事になっていた。
「でも、卒業までは、まだ一年以上あるし」
「何言ってんだ。夏祭りは、今日と来年の2回しかないんだぞ!」
「そうだけど」
「ほーら、その辺、ブラブラしていたら、知り合いにも会うから! とにかく、パーッと夏を楽しんでこい!」
すると、お兄さんは、そそくさと航太を裏方から追い出した。
そして、追い出された航太は、会場内を見渡す。
すると、そこは、普段の厳かな空気が一変、賑やかな雰囲気に包まれていた。
同じ年頃の学生たちも、楽しそうに会話をしながら、祭りを楽しんでいる。
「思い出づくり、か……」
すると航太は、お小遣いと手渡されたポチ袋を見つめた。
(……この街に、行ける大学があればよかった)
いつか、親の跡を継ぎ、この神社を守って行くため、航太は、高校卒業後、神学部がある大学に行くことになっていた。
そして、神学部がある大学は、この近辺にはないのだ。
だから、ここから離れた見知らぬ地で、一人暮らしをしながら大学に通うことになる。
そして、そうなれば、ここでの繋がりも、進学と同時に切れてしまうかもしれない。
(また帰ってくるけど、忘れられてそうだよな?)
なにより、他の友達だって、この街に留まるか、分からない。
だからこそ、今の友達との時間は、今だからこそ得られるもの。
だけど──…
「遊べって、いきなりいわれても……っ」
一人立ちつくしながら、航太は、目を伏せた。
(ぼっちで追い出されたけど、一体、今から誰と遊べと??)
だが、パッと浮かんだのは、蓮だった。
確か、家族みんなで、夏祭りにいくと言っていたから、LIMEを送れば、会えるかもしれない。
だが、蓮の隣には──
「……絶対、神木(華)もいるよな?」
そう、蓮の隣には、いつも"双子の姉"がいる。
だからこそ、蓮は絶対ダメだ。
(やっぱ、神木と鉢合わせするのは、避けたい……と)
そして、恋をして、敗れた想いは、今も小さな傷を残していた。
完全にフラれているのに、いつまでも、未練を断ち切れない自分が嫌になる。
「はぁ……マジで情けない。早く諦めろよ……男だろうが……っ」
「榊~!!」
「……!」
だが、その瞬間、どこからか声が聞こえた。
明るい女の子の声だ。
そして、航太が目を向ければ、そこには、豪快に手を振る女子がいた。
ジーンズにTシャツといったカジュアルな服装で、元気に声をかけてきたのは、華の友人である中村 葉月だった。
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