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第92話『うん。そうだね。今はすっかり体の奥にあった熱さも落ち着いてる。もう大丈夫かな』
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体の奥から生まれる熱に苦しみ、うなされて、深い眠りの中から私は緩やかに目を覚ました。
吐く息は熱く、まだ体の中が燃える様に熱い。
まるで風邪をひいた様な状態だ。
「……あつい」
独り言を呟いて、私は歪んだ視界の中、周囲を見渡した。
どうやら既に夜となっていた様で、周囲は不気味な静けさが支配している。
しかし、不思議と恐怖は無かった。
私はすぐ横で寝ているお姉ちゃんを起こさない様に注意しながら立ち上がり、ふらつく体を手で支えながら、ゆっくりと歩き始めた。
そして、水の精霊に導かれ、風の精霊に助けてもらいながら、危ない魔物は火の精霊に追い払って貰いつつ、水場へと辿り着く。
もはや落ちる様な勢いで水の中に入ると、水の精霊に助けてもらいながら、私は水の上で揺れつつ、深く息を吐くのだった。
「……」
「おや。こんな所で珍しいね。人間かい?」
「……どなた、ですか?」
「私は私さ。昔は森の守り神なんて呼ばれたモンだけどね。今となってはただのデカい獣だよ」
私は薄く目を開いて、その声の主を見た。
水の中に半分身を沈めたその主は、それはそれは大きな獣で、確か狼という名前の獣だったはずだ。
「森の、神様……神域を荒らしてしまい、申し訳ございません」
「気にしなくても良い。お前の中の精霊がここへ導いたのだろう? なら、私から言う事は無いさ」
「あり、がとう……ございます」
「しかし、お前は懐かしい匂いがするね」
「におい?」
「あぁ。私の娘と同じ匂いさ。もう居なくなってしまったけれどね」
「あぁ……そうなんですね。それは……とても」
悲しいと言おうとして、私は口を動かしていたが、水に浮かんでいると口を動かす事も億劫になって、そのまま止めてしまう。
力は入らず、まるで体が水に溶けていっているようだ。
「無理して話さなくて良いよ。今は眠りな。お前の中にある余分な魔力は全て水の中に溶けてゆく。そうすれば、また動ける様になるさ」
「……はい」
私は小さく返事をしながら、落ちてゆく瞼に逆らわず、そのまま目を閉じた。
力を抜いて、水の中に揺蕩うと、体から熱が抜けて、少しずつだが、落ち着いていくのだった。
そして、半分夢を見ている様な心地で水の中に居ると、どこからか声が聞こえてくる。
「ママー。どこに行ったかと思ったら。こんな所に居たの? 早く帰ろうよ。もう眠くなっちゃった」
「あぁ。そうだね」
「んー? あら。人間の子供? 珍しいねぇ。ふぅーん。ふーん。なんかお姉ちゃんに似てる? お姉ちゃんの子供とか? いや、そんな訳無いよね」
「……」
「じゃ、行こっ、ママ。背中乗って良い?」
「甘えるんじゃないよ。自分の足で歩きな」
「ちぇー。あ。この子。連れて帰っても良い?」
「駄目だよ。人間の子供なんて連れて行ったら問題だ」
「なんでー。面白くないのー」
「ほら。早く行くよ。ジーナ」
「はいはい。分かりましたよー。んじゃーね。変な子」
何か大きな物が動く気配があって、私は水に揺られながら、深く沈んだ意識の中でどこからか聞こえてきた声を、頭の中で何度も繰り返して、一気に目を覚ました。
水の中で立ち上がり、周囲を見渡す。
確かに、今聞いた。
『ジーナ』という名を。
偶然かもしれない。
間違いかもしれない。
でも、その名は……かつてお姉ちゃんの妹であった子の名前であったはずだ。
「……今のは、夢?」
分からない。
どこまでが夢でどこまでが現実か。
分からないまま、私は水の中でいつまでも立ち尽くしているのだった。
翌朝。
周囲を探す事に疲れた私は、力を抜いて、水に浮かびながら朝を迎えた。
体調はすっかり良くなっていたが、それでも水の中に居る方が心地よくて、そのままそこに居たのである。
しかしよくよく考えれば、私は冷静では無かったのだろう。
冷静に考えれば、お姉ちゃんの傍を離れて、水浴びをしているなんて、怒られるとすぐに分かるハズだ。
だが、それが出来ていなかった。
故に、朝日が木漏れ日となって水の上を照らし始めた頃、遠くから聞こえてきた自分の名を呼ぶ声に私はゆっくりと顔を上げた。
「リリィ!!!」
それは見た事がない程に焦った顔をしたお姉ちゃんであり、今にも死んでしまうのでは無いかと思う程に青ざめた顔をしたリアムさん達であった。
「良かった……! 良かった……!」
お姉ちゃんは水の中に飛び込むと私を抱きしめて、大粒の涙を流した。
私はそんなお姉ちゃんの背を撫でながら、呑気に合流出来て良かったなぁなんて考えているのだった。
しかし、それが甘い思考であった事を私は少し後に思い知る事になる。
そう。
ひとしきり私を抱きしめて泣いていたお姉ちゃんや、お姉ちゃんが泣き止んだのを確認したリアムさん達がみんな揃ってお説教を始めたのだ。
「もう! どうして一人で行動するんですか。危ないじゃないですか!」
「ごめんなさい。お姉ちゃん」
「まったく。こういう駄目な所は姉の真似をするんじゃない」
「ちょっ、リアムさん!? なんで、今私の話を!?」
「姉を駄目な見本としている可能性があるからな。アメリアはもう手遅れだが、リリィはまだ矯正可能だろう」
「酷い!」
「まぁ、そうだね。リリィちゃんはまだ戻れる。駄目な事は駄目だとちゃんと覚えていけばアメリアちゃんの様にはならないだろう」
「フィンさんまで!」
「しょうがないよ。アメリア姉ちゃん」
「そんな! きゃ、キャロンさん。キャロンさんは私の味方ですよね? ね?」
「……そうね」
「キャロンさん!」
「アメリア。私は貴女が無茶ばかりしてきたのを知っているけど、それが正しい事だってアメリアは思っているんだものね? リリィが暴走するユニコーンの前に飛び降りたりしても、アメリアは文句無いのよね?」
「うっ」
「そういう事なら私はアメリアの味方になるわ」
「う、うぅ……リリィ。私の事はお手本にしないで、正しい道を歩んでください。危険の無い道を」
お説教をしていた筈のお姉ちゃんはしょんぼりしながら、ボソボソと喋りつつ私の頭を撫でた。
落ち込んでいるお姉ちゃんが可哀想で、私は何処かへ行くときは、必ず声を掛けるよとお姉ちゃんやリアムさん達に告げるのだった。
そして、水から上がった私は火の精霊に頼んで服を乾かして貰い、再びお姉ちゃんたちと一緒に獣人の住処を目指して歩き始めた。
歩き始めてから少しして、私は自分の体を見ながら頷いた。
昨日までとは違い、体が重くないのだ。
内側にあった熱も何処かへ消えてしまったようだった。
「リリィ。今日は元気そうですね」
「うん。そうだね。今はすっかり体の奥にあった熱さも落ち着いてる。もう大丈夫かな」
「それは良かったです。でも、無理はしないで下さいね」
「大丈夫。分かってるよ」
ニコニコお姉ちゃんと話をしながら、私は軽い足取りで森の不確かな道を歩んでゆく。
獣人の住処はまだ離れているが、これなら問題なく辿りつけそうであった。
「しかし、急にこんな元気になるなんて、あの湖が良かったのかな」
「さぁな。しかし、なんでも良いさ」
「そうだな。元気ならそれで良いか」
「あぁ」
後方から聞こえてくるリアムさんとフィンさんの会話を聞きつつ、カーネリアン君とキャロンさんの背を追って、お姉ちゃんと共に歩くのだった。
オリヴィアちゃんと最後の精霊を求めて。
吐く息は熱く、まだ体の中が燃える様に熱い。
まるで風邪をひいた様な状態だ。
「……あつい」
独り言を呟いて、私は歪んだ視界の中、周囲を見渡した。
どうやら既に夜となっていた様で、周囲は不気味な静けさが支配している。
しかし、不思議と恐怖は無かった。
私はすぐ横で寝ているお姉ちゃんを起こさない様に注意しながら立ち上がり、ふらつく体を手で支えながら、ゆっくりと歩き始めた。
そして、水の精霊に導かれ、風の精霊に助けてもらいながら、危ない魔物は火の精霊に追い払って貰いつつ、水場へと辿り着く。
もはや落ちる様な勢いで水の中に入ると、水の精霊に助けてもらいながら、私は水の上で揺れつつ、深く息を吐くのだった。
「……」
「おや。こんな所で珍しいね。人間かい?」
「……どなた、ですか?」
「私は私さ。昔は森の守り神なんて呼ばれたモンだけどね。今となってはただのデカい獣だよ」
私は薄く目を開いて、その声の主を見た。
水の中に半分身を沈めたその主は、それはそれは大きな獣で、確か狼という名前の獣だったはずだ。
「森の、神様……神域を荒らしてしまい、申し訳ございません」
「気にしなくても良い。お前の中の精霊がここへ導いたのだろう? なら、私から言う事は無いさ」
「あり、がとう……ございます」
「しかし、お前は懐かしい匂いがするね」
「におい?」
「あぁ。私の娘と同じ匂いさ。もう居なくなってしまったけれどね」
「あぁ……そうなんですね。それは……とても」
悲しいと言おうとして、私は口を動かしていたが、水に浮かんでいると口を動かす事も億劫になって、そのまま止めてしまう。
力は入らず、まるで体が水に溶けていっているようだ。
「無理して話さなくて良いよ。今は眠りな。お前の中にある余分な魔力は全て水の中に溶けてゆく。そうすれば、また動ける様になるさ」
「……はい」
私は小さく返事をしながら、落ちてゆく瞼に逆らわず、そのまま目を閉じた。
力を抜いて、水の中に揺蕩うと、体から熱が抜けて、少しずつだが、落ち着いていくのだった。
そして、半分夢を見ている様な心地で水の中に居ると、どこからか声が聞こえてくる。
「ママー。どこに行ったかと思ったら。こんな所に居たの? 早く帰ろうよ。もう眠くなっちゃった」
「あぁ。そうだね」
「んー? あら。人間の子供? 珍しいねぇ。ふぅーん。ふーん。なんかお姉ちゃんに似てる? お姉ちゃんの子供とか? いや、そんな訳無いよね」
「……」
「じゃ、行こっ、ママ。背中乗って良い?」
「甘えるんじゃないよ。自分の足で歩きな」
「ちぇー。あ。この子。連れて帰っても良い?」
「駄目だよ。人間の子供なんて連れて行ったら問題だ」
「なんでー。面白くないのー」
「ほら。早く行くよ。ジーナ」
「はいはい。分かりましたよー。んじゃーね。変な子」
何か大きな物が動く気配があって、私は水に揺られながら、深く沈んだ意識の中でどこからか聞こえてきた声を、頭の中で何度も繰り返して、一気に目を覚ました。
水の中で立ち上がり、周囲を見渡す。
確かに、今聞いた。
『ジーナ』という名を。
偶然かもしれない。
間違いかもしれない。
でも、その名は……かつてお姉ちゃんの妹であった子の名前であったはずだ。
「……今のは、夢?」
分からない。
どこまでが夢でどこまでが現実か。
分からないまま、私は水の中でいつまでも立ち尽くしているのだった。
翌朝。
周囲を探す事に疲れた私は、力を抜いて、水に浮かびながら朝を迎えた。
体調はすっかり良くなっていたが、それでも水の中に居る方が心地よくて、そのままそこに居たのである。
しかしよくよく考えれば、私は冷静では無かったのだろう。
冷静に考えれば、お姉ちゃんの傍を離れて、水浴びをしているなんて、怒られるとすぐに分かるハズだ。
だが、それが出来ていなかった。
故に、朝日が木漏れ日となって水の上を照らし始めた頃、遠くから聞こえてきた自分の名を呼ぶ声に私はゆっくりと顔を上げた。
「リリィ!!!」
それは見た事がない程に焦った顔をしたお姉ちゃんであり、今にも死んでしまうのでは無いかと思う程に青ざめた顔をしたリアムさん達であった。
「良かった……! 良かった……!」
お姉ちゃんは水の中に飛び込むと私を抱きしめて、大粒の涙を流した。
私はそんなお姉ちゃんの背を撫でながら、呑気に合流出来て良かったなぁなんて考えているのだった。
しかし、それが甘い思考であった事を私は少し後に思い知る事になる。
そう。
ひとしきり私を抱きしめて泣いていたお姉ちゃんや、お姉ちゃんが泣き止んだのを確認したリアムさん達がみんな揃ってお説教を始めたのだ。
「もう! どうして一人で行動するんですか。危ないじゃないですか!」
「ごめんなさい。お姉ちゃん」
「まったく。こういう駄目な所は姉の真似をするんじゃない」
「ちょっ、リアムさん!? なんで、今私の話を!?」
「姉を駄目な見本としている可能性があるからな。アメリアはもう手遅れだが、リリィはまだ矯正可能だろう」
「酷い!」
「まぁ、そうだね。リリィちゃんはまだ戻れる。駄目な事は駄目だとちゃんと覚えていけばアメリアちゃんの様にはならないだろう」
「フィンさんまで!」
「しょうがないよ。アメリア姉ちゃん」
「そんな! きゃ、キャロンさん。キャロンさんは私の味方ですよね? ね?」
「……そうね」
「キャロンさん!」
「アメリア。私は貴女が無茶ばかりしてきたのを知っているけど、それが正しい事だってアメリアは思っているんだものね? リリィが暴走するユニコーンの前に飛び降りたりしても、アメリアは文句無いのよね?」
「うっ」
「そういう事なら私はアメリアの味方になるわ」
「う、うぅ……リリィ。私の事はお手本にしないで、正しい道を歩んでください。危険の無い道を」
お説教をしていた筈のお姉ちゃんはしょんぼりしながら、ボソボソと喋りつつ私の頭を撫でた。
落ち込んでいるお姉ちゃんが可哀想で、私は何処かへ行くときは、必ず声を掛けるよとお姉ちゃんやリアムさん達に告げるのだった。
そして、水から上がった私は火の精霊に頼んで服を乾かして貰い、再びお姉ちゃんたちと一緒に獣人の住処を目指して歩き始めた。
歩き始めてから少しして、私は自分の体を見ながら頷いた。
昨日までとは違い、体が重くないのだ。
内側にあった熱も何処かへ消えてしまったようだった。
「リリィ。今日は元気そうですね」
「うん。そうだね。今はすっかり体の奥にあった熱さも落ち着いてる。もう大丈夫かな」
「それは良かったです。でも、無理はしないで下さいね」
「大丈夫。分かってるよ」
ニコニコお姉ちゃんと話をしながら、私は軽い足取りで森の不確かな道を歩んでゆく。
獣人の住処はまだ離れているが、これなら問題なく辿りつけそうであった。
「しかし、急にこんな元気になるなんて、あの湖が良かったのかな」
「さぁな。しかし、なんでも良いさ」
「そうだな。元気ならそれで良いか」
「あぁ」
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