聖女の証

とーふ(代理カナタ)

文字の大きさ
191 / 198

第93話『……そうだよ。お姉ちゃんだって自由になるべきなんだ』

しおりを挟む
森の中をさ迷い歩いて、私たちはようやくその集落を見つけた。

そう。獣人たちの住まう集落だ。

そこは人間の住んでいる場所の様に、綺麗に整備された道路や、綺麗に整えられた家がある訳ではなく、ある程度ざっくばらんに作られた家と、特に整備はされていない道があった。

だからと言って別に不快感は感じず、むしろ土の上だから歩きやすかったり、人間の家よりも太い木を使っているからか、頑丈そうに見えるのだった。

「おぉ。よくぞ参られましたな。アメリア様と妹様。そして、その他の方々」

「相変わらず俺たちの扱いが雑過ぎるだろ」

「まぁ、リリィちゃんの扱いが良いからそこまで文句はないけどね」

「えと、私の扱いが皆さんと違うのは何故なのでしょうか?」

「それは当然の事かと思います。何故ならリリィ様はアメリア様の妹君であるのですから」

「私、大した事は出来ませんよ?」

「いえいえ。我らには確かに見えておりますよ。その身の内に眠る力。アメリア様と同じ、世界に繋がる力が」

「世界に繋がる力……」

私は言われた言葉を繰り返し、そして何となく思う。

世界に繋がる力があるという事は、それがあるからこそ、お姉ちゃんは世界から逃れる事が出来ないのではないかと。

でも、そんなのはおかしいのだ。

「……そうだよ。お姉ちゃんだって自由になるべきなんだ」

「リリィ?」

「ううん。何でもないよ。お姉ちゃん」

私は不思議そうな顔をしたお姉ちゃんに笑いかけてから、自分の胸に両手で触れた。

そして内側に眠る大きな力を強く意識する。

この暴力的な力はいずれ私の命を奪うだろう。

体が何でか平気だけど、私の心はそうじゃない。

今こうしている間にも私の精神は燃やされ続けている。

精霊の力が強すぎるのだ。

でも、だ。

例えば全ての精霊を私の中に受け入れれば、完成するのでは無いだろうか?

お姉ちゃんの器となる体が。

ここに来るまでは確信が無かったけれど、ここに居る土の精霊の力を感じれば、それが可能だという事がよく分かる。

土の精霊を受け入れれば、すぐに私の精神は大きすぎる魔力に飲み込まれて消えてしまうだろう。

しかし、その瞬間にお姉ちゃんが私の中に入れば、お姉ちゃんはまた体を取り戻す事が出来るのだ。

……。

でも……これが上手くいけば、私はきっと消えてしまうのだろう。

そうなれば、もう二度とお姉ちゃんに会う事が出来なくなる。

それが酷く怖くて、悲しい。

だから、私は近くに気配を感じる土の精霊に手を伸ばす事が出来ないでいるのだった。



獣人の里では私たちを迎え入れる儀式……という名の祭りが開かれていて、みんな楽しそうにお酒を飲んで騒いでいた。

実に楽しそうである。

「おうおう! リアム! リベンジマッチだ! 正々堂々と勝負しろ!」

「フン。構わないが、また恥を晒すだけだぞ?」

「言ってくれるじゃないか! お前の戦いは研究済みだ!」

「御託はいい。かかって来い」

『ROUND TWO!! FIGHT!!』

どこからか聞こえてきた声に合わせて、二人は拳を握りながら、それを放ち、ギリギリでかわしてゆく。

実に怖い光景だが、リアムさんは獣人さんの攻撃をかるくかわしながら、獣人さんへと攻撃を当てる。

そして、それからさほど時間をかけずに、リアムさんは獣人さんに勝利した。

片腕を上げながら笑うリアムさんは実に満足そうな顔をしており、獣人さんは非常に不満そうな顔をしていた。

そんな獣人さんを見ていると、ムクムクとやる気が沸き上がってきて、私は右手を高く上げながら戦いの場に参加するのだった。

「おい。リリィ。何を考えている」

「獣人さんが可愛そうなので! 私も戦います!」

「……勘弁してくれ」

「大丈夫ですよ! リリィ! リリィが負けても、私が頑張ってリアムさんを倒します!」

お姉ちゃんの応援を背に受けて私は両手の拳を強く握りしめるのだった。

そして、戦いの合図を聞いて、目を閉じながら、両手を振り回して、リアムさんへ突撃する。

「やめんか」

「きゅー! きゅー!」

「レッドリザードみたいな声を出すな。ったく」

私は攻撃を当てる事が出来ず、抱き上げられて、お姉ちゃんの傍に落とされてしまった。

「あぅ!」

「り、リリィ様に何たる暴虐!! 許される事ではない!!」

「傷一つ付いてねぇよ」

「ゆくぞ! 我らの意地! 見せつけるのだ!」

「……めんどくせぇ」

私はお尻をいたたと押さえながら、お姉ちゃんに甘えた。

お姉ちゃんは私の頭をよしよしと撫でてくれて、私はそれに甘えながら、獣人さんと戦うリアムさんを見つめる。

「格好いいね。お姉ちゃん」

「そうですね」

「私もあんな風に戦えたら、良かったのかなぁ」

「リリィ?」

「……私がもっと強ければ、こんな風に悩まなかったのかなぁ」

「悩みがあるのなら、もっと悩んでも良いんですよ」

「え?」

「私はリリィのお姉ちゃんですから、リリィの悩みはなんでも聞いてあげたいんです」

「……そっか」

「はい」

「でも、この悩みは内緒」

「それは残念ですね」

お姉ちゃんが苦笑する声を聞きながら、私は目を閉じた。



それから宴会は長く、夜遅くまで続いて、私たちは獣人さんが用意してくれた寝床で横になった。

でも、私は眠りが浅くて、夜中に目を覚ましてしまう。

そして、寝床として用意された家から外へ出て、壁に寄りかかりながら空を眺めるのだった。

大きな月と、数えきれないほどの星が瞬く夜空を。

「おや、リリィ様。眠れませんかな?」

「っ! 貴方は」

声のした方に目線を送ると、そこには私の身長の半分くらいしかないタヌキの獣人さんが居た。

髭をいっぱい生やした顔で、穏やかに笑っている。

怖い人では無いみたいだった。

「私はこの里の長ですよ。リリィ様」

「様なんて要りませんよ。私は大した人間じゃないですから」

「いえいえ。その様な事はありませんとも。何せ、貴女には大いなる使命がある」

「……使命」

「無論、どの様に世界が進むか、それは私にも分かりませんが、どの様な選択をしたとて、貴女は世界に大きな影響を与える事でしょう」

「長さんは、私がやろうとしている事が分かるのですか?」

「いえ。詳細は何も分かりません」

「え?」

「ですが、星がそう示しているのです。今、貴女を中心に世界が動いていると」

「……」

「その、星で、お姉ちゃんはどうなっているのでしょうか?」

「アメリア様の星は既に消えております」

「え!? でも」

「えぇ。アメリア様は確かにそこにいる。しかし、既にその運命は尽きております」

私は長さんの言葉に、両手を握りしめながら視線をさ迷わせた。

それはそうだろう。

もし、長さんの言葉が真実であるのなら、私がやろうとしている事に意味が無いのだから。

しかし……。

「ですが、完全に消えた訳ではない。確かに繋がっております。リリィ様と」

「私と?」

「はい。その運命を完全に引き寄せる事は叶わずとも、繋がりを消さずに済むかもしれません。無論リリィ様がそう望むのならば」

「……ありがとうございます。長さん」

「いえ」

私は、長さんの言葉に小さく頭を下げて、自分の中に強く意識を向けた。

そこにあるお姉ちゃんとの繋がりを思い出し、笑う。

未来はすぐそこにある。そう分かったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する

ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」 ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。 ■あらすじ 聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。 実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。 そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。 だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。 儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。 そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。 「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」 追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。 しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。 「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」 「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」 刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。 果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。 ※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。

リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...