処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖

文字の大きさ
28 / 30

イザベラの懐妊

しおりを挟む
イザベラの絶望


 皇宮の一室。

イザベラは、鏡に映る自分を見つめていた。 

(なぜ……なぜ、こうなるの……) 

アランは、エリアーナへの「経済制裁」が失敗してから、イザベラの部屋を訪れる回数が、めっきりと減っていた。

 彼は、エリアーナへの憎悪と、彼女の「知識」への恐怖で、精神的に追い詰められていた。 

イザベラが「アラン様、私を見て」と縋っても、彼は「うるさい! あの女のことを考えているんだ!」と、イザベラを突き放すことさえあった。 

(あの女! あの女!) 

(北に逃げたのに、まだ私からアラン様を奪う!)


 イザベラは、自分が「愛人」という不安定な立場であることを、痛いほど自覚していた。 

エリアーナは「公爵夫人」という、揺るぎない地位を手に入れた。

 それに引き換え、自分は? 

(アラン様が、私に飽きたら……? エリアーナ様と和解したら……?) 

(私は、また、あの日陰の生活に戻るの?)

 イザベラは、没落貴族として、エリアーナの「お情け」で生きていた、あの頃の屈辱を思い出し、恐怖に震えた。

 (……嫌だ。絶対に、嫌だ) 

(アラン様を、繋ぎ止めなければ)

 (エリアーナ(あの女)には絶対に奪えない、最強の『切り札』で)


***********


悪魔王の「贈り物」


 その夜、イザベラは、夢を見た。 

光り輝く「天使」が、彼女の前に現れた。(それは、悪魔王が、彼女の警戒心を解くために見せた偽の姿だった) 


『可哀想なイザベラ。貴女は、悪女エリアーナに、全てを奪われた』 

「……あなたは?」

 『私は、貴女の味方です。貴女が、アラン様に愛され、皇妃となるための「力」を授けましょう』 

天使は、そう言って、イザベラのお腹に、優しく手を当てた。 

『アラン様との、愛の結晶を。……世継ぎを、授けます』 

「……子供?」

 『そうです。子供さえいれば、アラン様は、もう貴女から離れない。エリアーナも、貴女には敵わない』 

イザベラは、その甘い言葉に、うっとりと目を閉じた。

 (……子供。そうよ、子供よ) 

(私とアラン様の子供。それさえあれば!)

 イザベラは、夢の中で、悪魔王の「力」を受け入れた。

 翌朝。 
イザベラは、激しい吐き気と共に、目を覚ました。

 (……まさか)

 イザベラは、震える手で、皇宮の侍医を呼び寄せた。


***********


皇太子の後継者


 「……イザベラ様。これは……」 

侍医は、イザベラの脈を取り、顔を上げた。 

「……ご懐妊、三ヶ月でございます」 

「……!」

 イザベラは、歓喜に震えた。

 (本当に……本当に、子供が……!)

 (ありがとう、天使様!)

 彼女は、それが悪魔王の力による、人ならざる「懐妊」であることなど知る由もなかった。

 その報告は、すぐにアランの耳にも入った。

 「……子供? 俺の……子供だと?」

 アランは、執務室で、呆然と呟いた。

 彼は、エリアーナへの敗北で、自信を失いかけていた。 

だが、そこへ飛び込んできた「後継者の誕生」というニュース。

 「……そうだ。俺の子供だ。俺の、世継ぎだ!」 

アランは、絶望の淵から、一転して高揚した。 

「イザベラ! よくやった!」 

アランは、イザベラの部屋に駆け込み、彼女を強く抱きしめた。 

「お前は、俺の女神だ!」 「アラン様……!」

 イザベラは、アランの腕の中で、勝利を確信した。

 (見た、エリアーナ様。これが、私の力よ)


*********


帝都の激震、北への報


 皇太子アランは、帝都の全貴族を集め、公式に発表した。

 「我が愛するイザベラが、余の子を宿した」

 「この子は、帝国の未来を担う、正統なる後継者である!」 

アランは、まだ皇帝になっていないにも関わらず、自らを「余」と呼び、イザベラの子を「正統な後継者」と宣言した。

 これは、帝国の法(皇太子妃以外の子は、正統な後継者とは認められにくい)を無視した、暴挙だった。

 だが、アランは、エリアーナとルシアンに対抗するため、この「子供」という最強のカードを、最大限に利用するつもりだった。

 貴族たちは、アランの暴走に戸惑いながらも、「皇太子の世継ぎの誕生」という事実に、無視を決め込むことはできなかった。 

帝都の情勢は、イザベラの「懐妊」という、新たな火種によって、一気に不安定になった。 

そして、その報は、北の黒鷲城で、悪魔王の「予言」に怯えていた、エリアーナの元にも、即座に届けられた。 

「……エリアーナ様。帝都からの、緊急の報です」

 アンナが、血の気の引いた顔で、報告書を差し出した。

 「……イザベラが、懐妊。三ヶ月、だそうです」 


私は、その報告書を、ただ、呆然と見つめることしかできなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ

神々廻
恋愛
「天使様...?」 初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった 「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」 そうですか、なら婚約破棄しましょう。

私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?

あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。 面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。 一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。 隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

処理中です...