処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖

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アランの失策

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アラン激怒


「……どういうことだ、これは!!」

皇宮。

アランは、南部からの報告書を、床に叩きつけた。

洪水は、起きた。

だが、被害は最小限。

そして何より、民衆の「感謝」が、自分ではなく、ルシアンとエリアーナに向いている。

「あの女……! また、あの女か!」

アランは、激怒していた。

塩の時と同じだ。

自分の失策(あるいは怠慢)を、エリアーナが完璧に先読みし、自分の「人気」に変えてしまった。

「トマスとかいう商人ギルドの長を捕らえろ! あいつが北と通じている!」

アランが叫ぶと、側近のバートン伯爵が、困惑した顔で進み出た。

「……殿下。それが、トマスは『商人ギルドの独断』だと主張しており……証拠が」

「証拠など、作れ!」

「しかし、南部の民衆が、トマスを『英雄』として匿っており、下手に手を出すと、暴動になりかねません」

「……ぐっ!」

アランは、手詰まりだった。

軍を送れば、ルシアンの思う壺だ。かといって、何もしなければ、南部の民心は、完全に北のものとなる。


※※※※※※※※※※※※※※※


イザベラの「助言」


アランが苛立ちを募らせていると、イザベラが、そっと彼に寄り添った。

彼女の腹は、懐妊によって、少しふっくらとしてきている。

「……アラン様。お怒りは、ごもっともです」

「……イザベラ」

「ですが、アラン様は、難しく考えすぎですわ」

「……何?」

「民とは、愚かなもの。すぐに噂に流され、すぐに手のひらを返します」

イザベラは、悪魔王から授かった「知恵(悪知恵)」で、アランに囁いた。

「……エリアーナ様が『聖女』と呼ばれているなら、アラン様は、エリアーナ様が『魔女』であるという『真実』を、民に教えて差し上げればよいのです」

「……魔女、だと?」

「そうですわ」

イザベラは、うっとりとした表情で、アランを見上げた。

「考えてもみてください。なぜ、エリアーナ様は、洪水が『起きる』と知っていたのでしょう?」

「……それは」

「なぜ、塩の専売制が『失敗する』と知っていたのでしょう?」

「……」

「おかしいでは、ありませんか。……まるで、エリアーナ様ご自身が、その『災い』を、呼び寄せているかのようですわ」

イザベラの言葉は、アランの疑念に、火をつけた。

(……そうだ。なぜ、あの女は、そこまで未来が読める?)

(まさか、あの女が、洪水を……?)

「……イザベラ。お前の言う通りかもしれん」

アランは、イザベラの悪魔的な「助言」に、深く頷いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※


偽の噂


アランは、イザベラの提案を受け、帝都と南部に対し、大規模な「噂」を流すよう、バートン伯爵に命じた。

それは、こんな内容だった。

『北の公爵(ルシアン)に嫁いだエリアーナは、悪魔と契約し、魔女となった』

『彼女は、帝国の富を北に流すため、塩の価格を操った』

『彼女は、皇太子殿下(アラン)の人気を貶めるため、自ら『洪水』を呼び寄せ、自作自演の救出劇を演じた』

『証拠に、彼女が北へ行ってから、帝国では災いが続いている』

『南部の民は、魔女に騙されているだけだ』

この「噂」は、皇太子の権威(金)によって、帝国の全土に、急速に広められた。

アランは、自信を取り戻した。

「フン。これで、民も目を覚ますだろう。聖女(イザベラ)と、魔女(エリアーナ)、どちらを信じるかな」

彼は、民衆が、自分の愛人であり、懐妊している「聖女」イザベラを選ぶと、確信していた。


※※※※※※※※※※※※※※※


エリアーナの「切り札」(返り討ち)


だが、アランの「失策」は、まだ終わっていなかった。

その「噂」が、帝都で広まり始めた、まさにその日。

エリアーナは動いた。

彼女は、アランが「偽の噂」を流してくることを、1周目の知識(彼の常套手段)から、完璧に予測していた。

エリアーナは、ルシアンの「影」と、アンナ(リステン家の情報網)を使い、アランが「噂」を流すために雇った、バートン伯爵の配下の者たちを、事前に「買収」していたのだ。

「噂」は、確かに広まった。

だが、エリアーナが「上書き」した、別の「噂」と共に。

帝都の酒場で、人々は、こんな話に花を咲かせていた。

「おい、聞いたか? エリアーナ様が、魔女だって話」

「ああ。だが、本当は違うらしいぞ」

「……どういうことだ?」

「あの噂を流しているのは、バートン伯爵だろ? あの人、塩の専売制で、皇太子殿下(アラン)と組んで、密輸で大儲けしようとしてたのを、エリアーナ様にバレて、大損したらしい」

「……なんだと!?」

「それだけじゃない。バートン伯爵は、エリアーナ様の侍女(アンナ)を、スパイに仕立て上げて殺そうとしたが、それもバレて、失敗した」

「……ひどい話だ」

「つまり、エリアーナ様が『魔女』って噂は、バートン伯爵が、自分の『汚職』を隠すために流した、デマってことさ」

「……皇太子殿下は、そんなこともご存知ないのか?」

「いや……知っていて、黙認している、とか……」

アランが流した「エリアーナ=魔女」の噂は、エリアーナの完璧なカウンターによって、「アラン(とバートン伯爵)=汚職隠蔽」の噂へと、すり替えられてしまった。

アランは、民衆の支持を回復するどころか、自らの側近の「汚職」を、帝国全土に暴露する、という最悪の「失策」を犯したのだった。

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