処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖

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イザベラの流産

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イザベラの焦燥


「……なぜですの! なぜ、あの女の思い通りになるの!」

皇宮。

イザベラは、自室で、鏡に映る自分を睨みつけていた。

アランが流した「エリアーナ魔女説」は、エリアーナの反撃(汚職暴露)によって、完全に失敗した。

アランは、バートン伯爵を「トカゲの尻尾切り」で罷免することで、なんとか皇太子への追及を逃れたが、その権威は地に落ちた。

そして、アランは、またイザベラの部屋に来なくなった。

「……あの方(アラン)は、また、あの女(エリアーナ)に、怯えている」

イザベラは、鏡の中の、ふっくらとした自分のお腹を撫でた。

(この子がいるのに)

(皇太子殿下の、世継ぎが、ここにいるのに)

(なぜ、あの方は、私を見てくださらないの!)

イザベラの精神は、悪魔王から授かった「力」の代償として、日に日に不安定になっていた。

エリアーナへの憎悪と、アランへの執着が、彼女の中で異常なまでに膨れ上がっていた。

(……許せない)

(エリアーナ様が、私の邪魔をする)

(あの女が、私から、アラン様も、民衆の支持も、奪っていく)

(あの女さえ、いなければ)

イザベラは、自分の侍女を、エリアーナの侍女(アンナ)と、名前が同じだという理由だけで、激しく折檻(せっかん)するようになっていた。


※※※※※※※※※※※※※※※


悪魔王の「代償」


その夜、イザベラは、再び夢を見た。

あの「天使」(悪魔王)が、彼女の前に立っていた。

だが、その姿は、以前のように輝いてはいなかった。どこか、黒い影が差している。

『……イザベラ。貴女は、何に怒っているのですか』

「天使様! お願いです! あの女(エリアーナ)を、消してください!」

イザベラは、天使に泣きついた。

『……』

天使は、黙って、イザベラのお腹を見つめている。

『貴女に授けた「力」は、エリアーナを倒すためのものではありません』

「……え?」

『それは、アラン様を繋ぎ止めるための「子供」。……ですが、貴女は、その力を、憎悪のために使いすぎた』

「……何を、仰って……」

『エリアーナへの憎悪が、貴女の「子供」を、蝕んでいるのです』

「……!?」

天使が、イザベラのお腹に、そっと手を触れる。

『……ああ。もう、手遅れです』

「……いや。いや、やめて!」

イザベラは、夢の中で、激しい腹痛に襲われた。

『可哀想に。貴女の「憎悪」が、貴女の子供を、殺したのです』

「いやあああああああ!」

イザベラは、絶叫と共に、目を覚ました。

ベッドのシーツが、おびただしい量の「血」で、赤黒く染まっていた。

彼女は、流産したのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※


アランの絶望と狂気


「……子供が?」

アランは、侍医からの報告を、玉座の間で、呆然と聞いていた。

「……イザベラ様の、流産が、確認されました」

アランの足元が、崩れ落ちた。

世継ぎ。

エリアーナに見返され、民衆の支持を失った彼にとって、唯一の「希望」だった、世継ぎ。

「……なぜだ」

「……侍医にも、原因は。イザベラ様の精神が、ひどく不安定で……」

「……精神が、不安定?」

アランの脳裏に、イザベラが侍女を折檻していた、狂気的な姿が蘇った。

(……俺のせいか? 俺が、彼女を、追い詰めたのか?)

アランが、絶望していると、そこに、当のイザベラが、侍女に支えられながら、フラフラと入ってきた。

彼女の顔は、血の気を失い、まるで亡霊のようだった。

「……アラン、様」

「イザベラ! 大丈夫か!」

アランは、罪悪感から、彼女に駆け寄った。

イザベラは、アランの胸に、か細い手で、何かを握らせた。

「……これは?」

それは、黒く焦げた、小さな「藁(わら)人形」だった。

「……わたくしの、ベッドの、下に……これが」

イザベラは、震えながら言った。

「……呪い、ですわ」

「……呪い?」

「エリアーナ様が、わたくしたちの子供を、呪い殺したのです……!」


※※※※※※※※※※※※※※※


エリアーナへの「断罪」


「……エリアーナが?」

アランは、その藁人形を、見つめた。

(……そうだ。そうに違いない)

(あの女は、洪水すら操る『魔女』だ)

(俺たちの子供を、呪い殺すことなど、容易いことだ)

アランは、自らの「罪悪感」から逃れるために、イザベラの「虚言」に、喜んで飛びついた。

(エリアーナが、俺の子供を、殺した!)

アランの絶望は、瞬時に、エリアーナへの殺意に変わった。

「……あの女。……絶対に、許さん」

アランは、玉座の間で、帝国全土の貴族(まだ彼に従っている者)を集め、宣言した。

「北の魔女、エリアーナ・リステンが、呪詛によって、皇太子の世継ぎを、殺害した!」

「……!」

貴族たちが、息を呑む。

「これは、皇室に対する、明確な『反逆』である!」

アランは、血走った目で、叫んだ。

「エリアーナ・リステン、並びに、彼女を匿うルシアン・ヴァレリウスを、『国賊』として、ただちに捕縛せよ!」

「これに応じぬ者は、反逆者とみなし、討伐する!」

これは、1周目でエリアーナが着せられた「呪詛」の罪状と、まったく同じだった。

だが、今回は、その対象が、エリアーナ一人ではなく、ルシアン公爵領全土へと向けられていた。

アランは、ついに、エリアーナを捕らえる(殺す)ための、公的な「大義名分」を手に入れたのだ。
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