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大聖堂の包囲
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北の陣営(アラン、またまた激怒)
北の国境線。アランの本陣。
「……大聖堂だと?」
アランは帝都からの緊急報告を、三度読み返し、そして握り潰した。
「あの女狐……! あの魔女め!」
歯ぎしりし、地面を蹴る。
ルシアンが籠城していると信じ、帝国正規軍のほぼ全てを、この北の辺境まで移動させた。
その結果、帝都はもぬけの殻。
そして、その「空き家」に最大の敵であるルシアンとエリアーナがまんまと入り込んだ。
それも、唯一、自分の権力が及ばない「聖域(大聖堂)」に。
「……アラン様」
隣で、イザベラが不安そうにアランの腕に触れる。彼女もまた、エリアーナの狡猾な一手に動揺を隠せないでいた。
「……おのれ……おのれ、エリアーナァーーー!!!」
アランは、エリアーナの策略に完璧に敗北した。
彼は全軍の指揮官たちに怒鳴りつけた。
「……今すぐ、全軍、帝都へ反転させる! 北の包囲は解け!」
「……はっ! しかし、殿下。五万の軍勢の移動には、最低でも十日はかかります」
「構わん! 今すぐだ!」
アランは、北で無駄足を踏まされた屈辱に、顔を真っ赤にして震えていた。
(待っていろ、エリアーナ。ルシアン)
(大聖堂ごと、お前たちを焼き払ってやる)
アランは、大神官の権威すらも踏みにじる決意を固めつつあった。
※※※※※※※※※※※※※※※
帝都の状況(大聖堂)
わたしたちが大聖堂に保護されてから、四日目の朝。
「……来たわね」
私は、大聖堂の鐘楼の小窓から外の様子を伺っていた。
大聖堂の周囲を、帝都に残っていた近衛兵たちが幾重にも取り囲み、封鎖線を築いている。
槍を構え、大聖堂の門を睨みつけているが、中には入ってこない。
「……アランも、まだ理性が残っているようね。聖域に軍隊を突入させる、という暴挙には出られないみたいね」
「……時間の問題だろうな」
ルシアンが、私の隣で、同じく外を眺めている。
「アランは、北から軍を呼び戻している。十日後にここは大軍に包囲される」
「……」
「大神官は、俺たちを守ると言った。だが、アランが本気になれば、あの爺(じじい)一人に何ができる?」
ルシアンの言葉は正しかった。
私たちは、安全な「砦」にいるようで、実際には、アランの掌の上にある「籠」の中へ自ら入ったのだ。
(……でも、それこそが、狙い)
「ルシアン。アランが私たちを、どうすることもできない『十日間』。……これが、わたくしたちの、反撃の時間よ」
※※※※※※※※※※※※※※※
大神官との対立
その日の午後。
アランからの「勅命」を持った使者が、大聖堂の門前に現れた。
私とルシアンは、大神官と共に門の内側から、その使者と対峙した。
「……大神官様! 皇太子殿下の厳命である!」
使者は大神官に対し、無礼にも怒鳴りつけた。
「その聖域に隠れている『国賊』、ヴァレリウス公爵と、世継ぎを呪い殺した『魔女』エリアーナを、ただちに引き渡されよ!」
「……」
大神官は、その言葉にも一切動じなかった。
彼は静かに、しかし、凛とした声で答えた。
「……お断りする」
「……なっ!」
「この二人は、『神の保護』を求めた信者である。神の法廷によらず、彼らを『魔女』『国賊』と断罪することは、神への冒涜である」
「……ぐっ! それを承知の上でアラン様は命令されているのだ!」
「ならば、皇太子殿下にお伝えせよ」
大神官は、その老いた瞳で使者を射抜いた。
「……神の道に背く者に、帝国を統べる資格はない、と」
「……き、貴様ァ……!」
使者は、大神官がアランを真っ向から「否定」したことに激しく動揺した。
「……覚えておれ! 正規軍が帝都に戻られれば、貴様らごと、反逆者として処断するぞ!」
使者はそれだけ言い残し、慌てて逃げ帰っていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
民衆の「目」
使者が去った後、私は大神官に深々と頭を下げた。
「……大神官様。私たちのために皇太子殿下と……」
「……エリアーナ嬢」
大神官は、私を静かに見つめた。
「わしは、貴女のために動いたのではない」
「……え?」
「わしは、この帝国の『秩序』と『神の法』のために動いているだけだ」
「……」
「アラン殿下は法を曲げ、イザベラ(侍女)を寵愛し、その子を『世継ぎ』と呼んだ。そして今、法によらず、貴女を『魔女』と断罪した。……あれは、皇帝の器ではない」
大神官の言葉は冷徹だった。
「……ルシアン公爵」
大神官はルシアンに向き直る。
「貴公の父君は、無実の罪で、処刑された。……わしは、あの過ちを二度と繰り返させはしない」
「……大神官殿」
ルシアンが、初めて彼に対して敬意のこもった視線を向けた。
「……だが」
大神官は、大聖堂の門の隙間から外を眺めた。
包囲する兵士たちの、さらに外側。
帝都の民衆が、この「聖域での攻防」を遠巻きに、不安そうに、見守っている。
「……あそこを見よ」
「……民衆、ですね」
「そうだ。アランは、兵士でわしらを囲んでいる。だが、わしらは、あの『民衆』という名の、兵士に、囲まれている」
「……」
「この『十日間』。……どちらが、あの『民衆』の心を掴むか。……それこそが、この戦の勝敗を決めるだろう」
大神官の言葉に、私は改めて、この「聖域での戦い」の真の意味を理解した。
これは軍事力ではなく、「正義」と「人心」を奪い合う情報戦なのだと。
北の国境線。アランの本陣。
「……大聖堂だと?」
アランは帝都からの緊急報告を、三度読み返し、そして握り潰した。
「あの女狐……! あの魔女め!」
歯ぎしりし、地面を蹴る。
ルシアンが籠城していると信じ、帝国正規軍のほぼ全てを、この北の辺境まで移動させた。
その結果、帝都はもぬけの殻。
そして、その「空き家」に最大の敵であるルシアンとエリアーナがまんまと入り込んだ。
それも、唯一、自分の権力が及ばない「聖域(大聖堂)」に。
「……アラン様」
隣で、イザベラが不安そうにアランの腕に触れる。彼女もまた、エリアーナの狡猾な一手に動揺を隠せないでいた。
「……おのれ……おのれ、エリアーナァーーー!!!」
アランは、エリアーナの策略に完璧に敗北した。
彼は全軍の指揮官たちに怒鳴りつけた。
「……今すぐ、全軍、帝都へ反転させる! 北の包囲は解け!」
「……はっ! しかし、殿下。五万の軍勢の移動には、最低でも十日はかかります」
「構わん! 今すぐだ!」
アランは、北で無駄足を踏まされた屈辱に、顔を真っ赤にして震えていた。
(待っていろ、エリアーナ。ルシアン)
(大聖堂ごと、お前たちを焼き払ってやる)
アランは、大神官の権威すらも踏みにじる決意を固めつつあった。
※※※※※※※※※※※※※※※
帝都の状況(大聖堂)
わたしたちが大聖堂に保護されてから、四日目の朝。
「……来たわね」
私は、大聖堂の鐘楼の小窓から外の様子を伺っていた。
大聖堂の周囲を、帝都に残っていた近衛兵たちが幾重にも取り囲み、封鎖線を築いている。
槍を構え、大聖堂の門を睨みつけているが、中には入ってこない。
「……アランも、まだ理性が残っているようね。聖域に軍隊を突入させる、という暴挙には出られないみたいね」
「……時間の問題だろうな」
ルシアンが、私の隣で、同じく外を眺めている。
「アランは、北から軍を呼び戻している。十日後にここは大軍に包囲される」
「……」
「大神官は、俺たちを守ると言った。だが、アランが本気になれば、あの爺(じじい)一人に何ができる?」
ルシアンの言葉は正しかった。
私たちは、安全な「砦」にいるようで、実際には、アランの掌の上にある「籠」の中へ自ら入ったのだ。
(……でも、それこそが、狙い)
「ルシアン。アランが私たちを、どうすることもできない『十日間』。……これが、わたくしたちの、反撃の時間よ」
※※※※※※※※※※※※※※※
大神官との対立
その日の午後。
アランからの「勅命」を持った使者が、大聖堂の門前に現れた。
私とルシアンは、大神官と共に門の内側から、その使者と対峙した。
「……大神官様! 皇太子殿下の厳命である!」
使者は大神官に対し、無礼にも怒鳴りつけた。
「その聖域に隠れている『国賊』、ヴァレリウス公爵と、世継ぎを呪い殺した『魔女』エリアーナを、ただちに引き渡されよ!」
「……」
大神官は、その言葉にも一切動じなかった。
彼は静かに、しかし、凛とした声で答えた。
「……お断りする」
「……なっ!」
「この二人は、『神の保護』を求めた信者である。神の法廷によらず、彼らを『魔女』『国賊』と断罪することは、神への冒涜である」
「……ぐっ! それを承知の上でアラン様は命令されているのだ!」
「ならば、皇太子殿下にお伝えせよ」
大神官は、その老いた瞳で使者を射抜いた。
「……神の道に背く者に、帝国を統べる資格はない、と」
「……き、貴様ァ……!」
使者は、大神官がアランを真っ向から「否定」したことに激しく動揺した。
「……覚えておれ! 正規軍が帝都に戻られれば、貴様らごと、反逆者として処断するぞ!」
使者はそれだけ言い残し、慌てて逃げ帰っていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
民衆の「目」
使者が去った後、私は大神官に深々と頭を下げた。
「……大神官様。私たちのために皇太子殿下と……」
「……エリアーナ嬢」
大神官は、私を静かに見つめた。
「わしは、貴女のために動いたのではない」
「……え?」
「わしは、この帝国の『秩序』と『神の法』のために動いているだけだ」
「……」
「アラン殿下は法を曲げ、イザベラ(侍女)を寵愛し、その子を『世継ぎ』と呼んだ。そして今、法によらず、貴女を『魔女』と断罪した。……あれは、皇帝の器ではない」
大神官の言葉は冷徹だった。
「……ルシアン公爵」
大神官はルシアンに向き直る。
「貴公の父君は、無実の罪で、処刑された。……わしは、あの過ちを二度と繰り返させはしない」
「……大神官殿」
ルシアンが、初めて彼に対して敬意のこもった視線を向けた。
「……だが」
大神官は、大聖堂の門の隙間から外を眺めた。
包囲する兵士たちの、さらに外側。
帝都の民衆が、この「聖域での攻防」を遠巻きに、不安そうに、見守っている。
「……あそこを見よ」
「……民衆、ですね」
「そうだ。アランは、兵士でわしらを囲んでいる。だが、わしらは、あの『民衆』という名の、兵士に、囲まれている」
「……」
「この『十日間』。……どちらが、あの『民衆』の心を掴むか。……それこそが、この戦の勝敗を決めるだろう」
大神官の言葉に、私は改めて、この「聖域での戦い」の真の意味を理解した。
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