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本編
2 どうして(2)
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僕たちはお互いに実家に住んでいるから、会えるのは外でだけ。そういう村人のカップルは多い。
防護柵の中でもひっそりと目立たない所に納屋が建っていて、そこで人目を気にすることなくいちゃいちゃするのだが、僕たちはまだ子供と言うこともあって使わせてもらえなかった。そういう事は、15を過ぎないとだめらしい。
14になったアノンは、その行為をやりたがった。僕はキスだけで十分ドキドキするし、それ以上のことは全くわからなかったのに、アノンに連れられて納屋へ行った。
『ほら、ここから少し見えるだろ?サラとオーキッドの……』
『え……あんまり見えないよ。でも、声が……』
ただでさえ夜で、暗いのだ。納屋の中の灯りは小さなカンテラ一つだけで、木板の隙間からは、なにか折り重なっているようにしか見えない。
でも、声は納屋の外まで響いていた。苦しそうなサラ姉さんの声。オーキッド兄さんのくぐもった声。それから、何かぶつかり合うような音。
『ねぇ、アノン。サラ姉さん、もしかして酷いことされてるのかも。助けた方がいいかもしれない……』
『ちがうちがう!そんな訳ねぇだろ!二人とも子作りしてんだよ。すげー気持ちいいって。な?興味わかねぇ?』
『え……ちょ、っと……怖い、かな……』
僕がそういうと、アノンはつまらなさそうにぶすくれた。
度々アノンは僕をその納屋に連れていく。早起きな僕は、夜だから眠たい。落ちそうになる瞼を擦りながら、それでも恋人のいう事だからと、従って。
『おっ、今日はレイとジェームズだ。やっとだぜ』
『え、何が?』
『男同士ってこと。ほら、見えるか?』
『うぅん……?』
よく目を凝らす。この頃には僕は夜目が効くようになっていて、困ったことに、彼らが何をしているのかをばっちりと目撃してしまったのだ。
『えっ……』
あげそうになった声を両手で押し留めた。
レイ兄さんのお尻に、ジェム兄さんのおちんちんが、入っている……!?
『すげぇ……レイ、気持ちよさそう。な、フェリス?』
『ど、どうだろう……苦しそう、じゃない?』
『そりゃあ、あんまり声だしたら村中に聞こえるからだ。我慢してんだよ』
『本当……?』
アノンがものすごく期待に満ちた瞳で僕を見た。
けれど僕には、やっぱり苦しそうで、可哀想だとしか思えなかった。
15になると、アノンは僕を納屋に引き摺り込み、行為を繰り返すようになった。
納屋が空いている日は全部使おうとしているんじゃないかってくらいに。
勉強の甲斐あって僕は生活魔法を少し使えるようになっていたから、お尻を浄化し、粘土の高い水を出して、アノンのおちんちんに塗った。それでも納屋の中は常に埃っぽく、いくら浄化をかけても藁が身体にくっついて痛いから、嫌だった。
アノンも僕も、大人の見様見真似で行為をしてみたが……やっぱり、苦しいし、痛いし、とても不愉快だった。
それでもなぜかアノンの方は気持ちいいらしくて、僕は次第に、ついていけないという気持ちが大きくなっていった。
15歳になると同時に僕たちは成人と見做される。村人の殆どは親の手伝いから、本格的に家業を継ぐために勤しむようになる。
僕の家は農家だったが、神官様と文通を続けていて、そろそろ教会に来て修道するのはどうかと誘われていた。
僕はもちろん行きたいし、村中が『ぜひ行って修行してきて、立派になって帰ってこい』と言う。だが、アノンは顰めっ面で反対していた。
『都会に出れば村に帰ってくる訳ねぇだろ。皆んな神官に騙されてる。フェリス、行くな。絶対に行くな』
『そんな……僕、神官になりたくて、勉強を頑張ったのに……もっともっと勉強したいよ…………』
アノンに破かれた教本は、丁寧にページをつなぎ合わせてなんとか修復していた。神力の回復魔法が、物にまで効くとは思わなかったけれど、多分これは、僕の執念の成せる技なのだろう。
修復した、以前より脆くてすぐに紙片のこぼれ落ちてしまう教本。もう暗記するほど読んだその本は、神官になるための基本的な事項や魔法しか載っていないようなのだ。もっと、もっと強くて美しい魔法が使えるようになりたい。
それなのに。
『俺のことはどうでもいいんだな?そうだよな、ただの村長の息子ってだけだもんな……』
アノンはまた、森へ入ってしまった。
防護柵を出て森へ入れるのは、鍛錬を重ね、魔物や山賊への攻撃手段を持つ村守役だけだ。けれど僕は即時の回復手段を持つということで、特別に村守役について捜索に加わることになった。
必死だった。アノンをまた、傷つけてしまった。そしてアノンを探すために、守役のみんなも危険に晒してしまっている。
集中力が高まっていたのか、神への願いが通じたのか。
村守役が腕を失っても、僕の回復魔法で生やし。村守役を守る為にかけた守護魔法は攻撃を受けるたびに強固となり。手探りで作った魔物避けの薬は、小鬼の群れを一気に気絶させた。
そうしてようやく見つけたアノンは、木に登ってがくがくと震えていた。……良かった。生きていた。
『……僕が神官になれば、男の妊娠するための薬も作れるようになるんだよ。いいの?』
『いい。俺には、フェリスがいるだけで十分なんだから』
『……そっか……』
16歳になっていた。
近隣の教会に行く件は、保留させてもらい、神官様には新たな教本を寄付して頂いた。本当に素晴らしいお人である。僕は毎日、頂いた二冊の教本を隅から隅まで舐めるように読み込み、一つ一つの魔法を丁寧に発動して修練度を高め、仕舞う際は天井に最も近く、盗人の目にも付かない所へ慎重に隠して、神へ、それからあの神官様への祈りを捧げた。
しかしそれも、アノンの気に触ったらしい。僕が勉強に集中すればするほど、頻繁に自殺未遂を起こす。泣いて抱きついて引き戻す。アノンの目を盗んで勉強し、なぜか必ずバレ、森へ……その繰り返し。
そして冒頭へと戻るのだ。
防護柵の中でもひっそりと目立たない所に納屋が建っていて、そこで人目を気にすることなくいちゃいちゃするのだが、僕たちはまだ子供と言うこともあって使わせてもらえなかった。そういう事は、15を過ぎないとだめらしい。
14になったアノンは、その行為をやりたがった。僕はキスだけで十分ドキドキするし、それ以上のことは全くわからなかったのに、アノンに連れられて納屋へ行った。
『ほら、ここから少し見えるだろ?サラとオーキッドの……』
『え……あんまり見えないよ。でも、声が……』
ただでさえ夜で、暗いのだ。納屋の中の灯りは小さなカンテラ一つだけで、木板の隙間からは、なにか折り重なっているようにしか見えない。
でも、声は納屋の外まで響いていた。苦しそうなサラ姉さんの声。オーキッド兄さんのくぐもった声。それから、何かぶつかり合うような音。
『ねぇ、アノン。サラ姉さん、もしかして酷いことされてるのかも。助けた方がいいかもしれない……』
『ちがうちがう!そんな訳ねぇだろ!二人とも子作りしてんだよ。すげー気持ちいいって。な?興味わかねぇ?』
『え……ちょ、っと……怖い、かな……』
僕がそういうと、アノンはつまらなさそうにぶすくれた。
度々アノンは僕をその納屋に連れていく。早起きな僕は、夜だから眠たい。落ちそうになる瞼を擦りながら、それでも恋人のいう事だからと、従って。
『おっ、今日はレイとジェームズだ。やっとだぜ』
『え、何が?』
『男同士ってこと。ほら、見えるか?』
『うぅん……?』
よく目を凝らす。この頃には僕は夜目が効くようになっていて、困ったことに、彼らが何をしているのかをばっちりと目撃してしまったのだ。
『えっ……』
あげそうになった声を両手で押し留めた。
レイ兄さんのお尻に、ジェム兄さんのおちんちんが、入っている……!?
『すげぇ……レイ、気持ちよさそう。な、フェリス?』
『ど、どうだろう……苦しそう、じゃない?』
『そりゃあ、あんまり声だしたら村中に聞こえるからだ。我慢してんだよ』
『本当……?』
アノンがものすごく期待に満ちた瞳で僕を見た。
けれど僕には、やっぱり苦しそうで、可哀想だとしか思えなかった。
15になると、アノンは僕を納屋に引き摺り込み、行為を繰り返すようになった。
納屋が空いている日は全部使おうとしているんじゃないかってくらいに。
勉強の甲斐あって僕は生活魔法を少し使えるようになっていたから、お尻を浄化し、粘土の高い水を出して、アノンのおちんちんに塗った。それでも納屋の中は常に埃っぽく、いくら浄化をかけても藁が身体にくっついて痛いから、嫌だった。
アノンも僕も、大人の見様見真似で行為をしてみたが……やっぱり、苦しいし、痛いし、とても不愉快だった。
それでもなぜかアノンの方は気持ちいいらしくて、僕は次第に、ついていけないという気持ちが大きくなっていった。
15歳になると同時に僕たちは成人と見做される。村人の殆どは親の手伝いから、本格的に家業を継ぐために勤しむようになる。
僕の家は農家だったが、神官様と文通を続けていて、そろそろ教会に来て修道するのはどうかと誘われていた。
僕はもちろん行きたいし、村中が『ぜひ行って修行してきて、立派になって帰ってこい』と言う。だが、アノンは顰めっ面で反対していた。
『都会に出れば村に帰ってくる訳ねぇだろ。皆んな神官に騙されてる。フェリス、行くな。絶対に行くな』
『そんな……僕、神官になりたくて、勉強を頑張ったのに……もっともっと勉強したいよ…………』
アノンに破かれた教本は、丁寧にページをつなぎ合わせてなんとか修復していた。神力の回復魔法が、物にまで効くとは思わなかったけれど、多分これは、僕の執念の成せる技なのだろう。
修復した、以前より脆くてすぐに紙片のこぼれ落ちてしまう教本。もう暗記するほど読んだその本は、神官になるための基本的な事項や魔法しか載っていないようなのだ。もっと、もっと強くて美しい魔法が使えるようになりたい。
それなのに。
『俺のことはどうでもいいんだな?そうだよな、ただの村長の息子ってだけだもんな……』
アノンはまた、森へ入ってしまった。
防護柵を出て森へ入れるのは、鍛錬を重ね、魔物や山賊への攻撃手段を持つ村守役だけだ。けれど僕は即時の回復手段を持つということで、特別に村守役について捜索に加わることになった。
必死だった。アノンをまた、傷つけてしまった。そしてアノンを探すために、守役のみんなも危険に晒してしまっている。
集中力が高まっていたのか、神への願いが通じたのか。
村守役が腕を失っても、僕の回復魔法で生やし。村守役を守る為にかけた守護魔法は攻撃を受けるたびに強固となり。手探りで作った魔物避けの薬は、小鬼の群れを一気に気絶させた。
そうしてようやく見つけたアノンは、木に登ってがくがくと震えていた。……良かった。生きていた。
『……僕が神官になれば、男の妊娠するための薬も作れるようになるんだよ。いいの?』
『いい。俺には、フェリスがいるだけで十分なんだから』
『……そっか……』
16歳になっていた。
近隣の教会に行く件は、保留させてもらい、神官様には新たな教本を寄付して頂いた。本当に素晴らしいお人である。僕は毎日、頂いた二冊の教本を隅から隅まで舐めるように読み込み、一つ一つの魔法を丁寧に発動して修練度を高め、仕舞う際は天井に最も近く、盗人の目にも付かない所へ慎重に隠して、神へ、それからあの神官様への祈りを捧げた。
しかしそれも、アノンの気に触ったらしい。僕が勉強に集中すればするほど、頻繁に自殺未遂を起こす。泣いて抱きついて引き戻す。アノンの目を盗んで勉強し、なぜか必ずバレ、森へ……その繰り返し。
そして冒頭へと戻るのだ。
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