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本編
8 三日目 夜
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僕の部屋の窓をぶち壊したレオン様は、僕を横抱きにして森へと入っていく。
温かい。まるで赤子の眠る揺かごみたい。
僕の泣き腫らした顔にも気付いているのに、レオン様は優しく微笑んだまま、何も言わない。
やがてたどり着いたのは、月明かりの一層眩しく見える丘の上。
今日は特に、満月。殊更大きく見える月に、僕は泣いていたことも忘れてほうと息を吐いた。
「……フェリスくん。答えは、決まったかい?」
「レオン様……」
「ふふ。分かっている。君は、着いてくる覚悟が出来ないのだろう。恥ずべきことじゃない。大人でも、難しい選択だからね」
隣に座ったレオン様は、おっきなお月様を眺めながら、ぽんぽん、と頭を撫でてくれた。僕が断るのを、分かっていたみたいに。
けれど、優しかった。レオン様は、いつでも優しい。
「僕が入らなかったら、どうなりますか?……代わりの神官様は……あ、いくらでも、いますよね……」
「そうだね。占いの婆にもう一回願えば、次点の候補を出してくれると思うよ。フェリスくんは、優しいね。私たちのことまで心配してくれて」
そうじゃない。違う。僕はもっと最低なことを考えていた。
僕がいなかったら、困るって……そう言って欲しかったと気付いて、ますます落ち込む。優しい勇者様を困らせたい、なんて、嫌な、最低な、自己中心的なやつなんだろう。
自己嫌悪に黙った僕へ、ふと、レオン様が問いかける。
「君とあの……村長の息子さん、付き合っているんだろう?」
「あ……は、はい……」
ドキリとした。彼の口から、その話題がくるとは思っていなかった。
ちらりと見上げたレオン様は、酔いが残っているのか、ほんのりと頬が赤い。ああ、そうか、ここは風が気持ち良いから……きっと僕のためではなく、レオン様が涼みたい気分だったのだろう。
自惚れた自分に、また叱咤する。僕のために、この景色の良い所に連れてきてくれた、なんて。
「うーん……確かに、恋人がいるなら、出て行きにくいよね。わかる分かる。それに今まで村を出たこともないなら、尚更怖いよね。分かるよ」
「そうですか……?レオン様に、怖いものなんて無いと思いました」
「え?私は怖いものだらけだよ。死ぬのも怖いし、ヴァネッサの金的も怖い。おー怖い怖い、やだねぇ」
「えと……」
んっと、急に軽い口調になった。レオン様、酔いが回ったのかな?
ふと見ると、その片手には酒が握られていた。また飲んでるっ?!
そして実に艶っぽい流し目で、僕を見据えた。そのあまりの色気に、僕はくらくらしてしまいそうになる。
けれどその唇から吐かれた言葉は、これっぽっちも、甘いものではなかった。
「でも、君の恋人もなかなか怖いよね。青姦するわ、無理やり抜かずの三回、拘束に口封じ、泣いても構わず犯すわで。私にも突っかかってくるからとんでもなく執着しているのかと思いきや、自分は女の子とコソコソしていた。何をしてるんだか私にはチットモワカラナイけど、怖いねぇ~」
「!!」
ま、ま、まさか!
「みっ、みみみみみ」
「え?見てた見てた。酒のアテにしちゃった。ごめんね?」
「~~~ッ!」
僕は顔を覆った。もう、息を吸う権利も無い。ああ、神様。やっぱり僕はもっと死ぬ気か殺す気で抵抗しなくちゃいけなかったんだ……!
そう血の気が引いて死にそうになっている僕に、レオン様はあっけらかんと笑った。
「ん~、でもさ、やっぱり、付き合ってるってことは……君たちは、お似合いなんだろうね」
「え……」
「破れ鍋に綴じ蓋。って知らないか……まぁ、フェリスくんと彼は、同じ程度、ってことだよね」
ガツン、と殴られたような衝撃だった。
にこにこと笑うレオン様が、急に恐ろしく見えた。
「恋人っていうのは、常に対等だからさ。あの彼も相当だけど、その彼と付き合っている君も……」
同じ種類なんだろう?
レオン様の言葉の先が、予想出来た。何故かカッと頭に血が上る。すっくと立ち上がった僕は、『失礼しますっ!』と叫んで、家へと一目散に駆けた。
温かい。まるで赤子の眠る揺かごみたい。
僕の泣き腫らした顔にも気付いているのに、レオン様は優しく微笑んだまま、何も言わない。
やがてたどり着いたのは、月明かりの一層眩しく見える丘の上。
今日は特に、満月。殊更大きく見える月に、僕は泣いていたことも忘れてほうと息を吐いた。
「……フェリスくん。答えは、決まったかい?」
「レオン様……」
「ふふ。分かっている。君は、着いてくる覚悟が出来ないのだろう。恥ずべきことじゃない。大人でも、難しい選択だからね」
隣に座ったレオン様は、おっきなお月様を眺めながら、ぽんぽん、と頭を撫でてくれた。僕が断るのを、分かっていたみたいに。
けれど、優しかった。レオン様は、いつでも優しい。
「僕が入らなかったら、どうなりますか?……代わりの神官様は……あ、いくらでも、いますよね……」
「そうだね。占いの婆にもう一回願えば、次点の候補を出してくれると思うよ。フェリスくんは、優しいね。私たちのことまで心配してくれて」
そうじゃない。違う。僕はもっと最低なことを考えていた。
僕がいなかったら、困るって……そう言って欲しかったと気付いて、ますます落ち込む。優しい勇者様を困らせたい、なんて、嫌な、最低な、自己中心的なやつなんだろう。
自己嫌悪に黙った僕へ、ふと、レオン様が問いかける。
「君とあの……村長の息子さん、付き合っているんだろう?」
「あ……は、はい……」
ドキリとした。彼の口から、その話題がくるとは思っていなかった。
ちらりと見上げたレオン様は、酔いが残っているのか、ほんのりと頬が赤い。ああ、そうか、ここは風が気持ち良いから……きっと僕のためではなく、レオン様が涼みたい気分だったのだろう。
自惚れた自分に、また叱咤する。僕のために、この景色の良い所に連れてきてくれた、なんて。
「うーん……確かに、恋人がいるなら、出て行きにくいよね。わかる分かる。それに今まで村を出たこともないなら、尚更怖いよね。分かるよ」
「そうですか……?レオン様に、怖いものなんて無いと思いました」
「え?私は怖いものだらけだよ。死ぬのも怖いし、ヴァネッサの金的も怖い。おー怖い怖い、やだねぇ」
「えと……」
んっと、急に軽い口調になった。レオン様、酔いが回ったのかな?
ふと見ると、その片手には酒が握られていた。また飲んでるっ?!
そして実に艶っぽい流し目で、僕を見据えた。そのあまりの色気に、僕はくらくらしてしまいそうになる。
けれどその唇から吐かれた言葉は、これっぽっちも、甘いものではなかった。
「でも、君の恋人もなかなか怖いよね。青姦するわ、無理やり抜かずの三回、拘束に口封じ、泣いても構わず犯すわで。私にも突っかかってくるからとんでもなく執着しているのかと思いきや、自分は女の子とコソコソしていた。何をしてるんだか私にはチットモワカラナイけど、怖いねぇ~」
「!!」
ま、ま、まさか!
「みっ、みみみみみ」
「え?見てた見てた。酒のアテにしちゃった。ごめんね?」
「~~~ッ!」
僕は顔を覆った。もう、息を吸う権利も無い。ああ、神様。やっぱり僕はもっと死ぬ気か殺す気で抵抗しなくちゃいけなかったんだ……!
そう血の気が引いて死にそうになっている僕に、レオン様はあっけらかんと笑った。
「ん~、でもさ、やっぱり、付き合ってるってことは……君たちは、お似合いなんだろうね」
「え……」
「破れ鍋に綴じ蓋。って知らないか……まぁ、フェリスくんと彼は、同じ程度、ってことだよね」
ガツン、と殴られたような衝撃だった。
にこにこと笑うレオン様が、急に恐ろしく見えた。
「恋人っていうのは、常に対等だからさ。あの彼も相当だけど、その彼と付き合っている君も……」
同じ種類なんだろう?
レオン様の言葉の先が、予想出来た。何故かカッと頭に血が上る。すっくと立ち上がった僕は、『失礼しますっ!』と叫んで、家へと一目散に駆けた。
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