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番外編
恋人になるまで(5)
しおりを挟む僕を真っ直ぐに見つめてくる瞳は真剣で、思わず姿勢を正しくした。お互いにごくり、と唾を飲んだ音が聞こえる。
「今までどちらが好きなのか、分からなかったけど、フェリスくんと出会って、分かった。私は、フェリスくんが好きだ」
「…………へっ?」
真っ赤なレオン様のお顔。碧眼はきらきらと輝き、少しの熱を孕んでいて……本当なのだと、思い知る。
「フェリスくん。いや、フェリス。どうか私と恋人になってくれないだろうか。まだ前の恋人が忘れられないかもしれないが、必ず幸せにすると誓う」
「あ……あ……ほ、本当ですか?え、ウソ、夢じゃない……?」
熱烈な言葉に、じわじわと歓喜で満ちていく。こ、こんな僕に、レオン様が、好きだと仰ってくれるなんて……!
「う、わ、僕も……っ!レオン様が、大好きです……!嬉しい……!」
「ああ、よかった!……その、服を着てくれるかい?君の体は本当に……眩しくて……私の頭も弾け飛びそうな程なんだ」
「!?……あ、す、すみません!」
興奮して忘れていた。僕ったら!
慌てていつもの夜間着を着れば、ようやくレオン様はホッとしたようだった。頭が弾け飛ぶ、というのはよく分からなかったけど、きっと悪い意味ではないと思う。
服を着た僕に、レオン様はもう一度問いかけた。
「本当に、引き摺ってない?前の彼」
「本当に、全く、残ってません。薄情かもしれませんが……」
「いや、そんなことはない。ただの確認だけで……」
もしかしたら、レオン様は不安なのかもしれない。絶対にあり得ないけど、僕なら……レオン様の前の恋人は、気になるもの。
「実を言うと、やっと終わった、っていう気持ちが大きいんです。僕は彼のために出来ることは全部やったと思っていて……最後は、僕が離れることこそ正解でした。彼が他の女の子といた時の笑顔を見た時、そう思ったのに、離れる勇気が出なくて」
「あれか……」
「そんな時、レオン様に背中を押して貰えました。だから僕はもう、スッキリしています。最善を尽くしたんだって」
「あの時は、ごめんね。君の嫌がるようなことを言った自覚はある」
「いいえ!本当に……感謝しています。レオン様がいたから、僕はこんなに穏やかな気持ちで、幸せを感じられるようになりましたから」
「ぐっ……君は本当に清らかだね。そういうところ、心から尊敬している」
「そんな……僕なんて」
「そういう謙遜が過ぎる所は、直さなくちゃな」
レオン様はフッと笑って頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「あーあーあー。もうくっついちゃったの……あたくしのアドバイスが即効役に立ち過ぎね!」
「人聞きの悪いことを言わないでくれるかい?実に純粋に私たちは惹かれ合い、然るべき関係におさまったと言う訳だから。……で、君は一体何をフェリスに吹き込んだ?」
「秘密よ秘密!そもそもあんたがあらゆる欲に耐えきれなかったからでしょう?いいこと、フェリスちゃんにそんな汚いものは押し付けないことよ!」
「……?」
「分かっている!ヴァネッサこそ、これからはフェリスに触りすぎないでくれ。頼むから」
「フン。そうお願いされちゃ、頼まれてやらなくもなくってよ。でもあたくしのデザインの服は着てもらうから!」
次の日、ヴァネッサ様とガルフ様に報告をした。僕たちは恋人となること。でも、目標とする迷宮踏破までは、節度を持ったお付き合いをすることを。
手を握ってくれるレオン様を見上げる。やっぱり爽やかな僕の王子様。格好いい。それに優しいんだ。
レオン様と一緒にいると、僕はまるで高尚な人間になったかのよう。ものすごく丁重に扱われて、僕もレオン様にそうしたくなるし、そうしている。そんな僕自身を好きになれる。
幸せに導いてくれる手だ。僕はずっとずっと、この人を大事にする……!
――――――――風呂上がりのフェリスを見たレオンは。
自分の仕掛けた作戦によって自分自身を苦しませることになるとは、思っても見なかった。
まさか、フェリスくんが反撃してくるとは!
脳内を駆け巡るフェリスくんの裸体。桃色の乳首。白く艶やかな肌に、薄い腹。その下は布巾で隠されているのが余計に卑猥。手を伸ばして少し触れたら、すぐに落ちてしまいそうじゃないか!
吸い寄せられる手を叱咤し、どうにか押し留める。絶体絶命の危機。今すぐに押し倒して舐めて吸って味わい尽くしたい……!
しかし、待て。
それは、フェリスくんが最も嫌う行為だ。今の所、フェリスくんは私を意識してくれているとは思うが、それはあんまりにも前の男がクズ過ぎた反動だ。そこに付け入るような優しさを見せれば、誰であろうとぐっとはくるだろう。
だが、私が望むのは優しいだけの恋人という立場ではない。他のどんな男だって付け入る隙も与えないくらいに、フェリスくんを夢中にさせたい……!
紳士的に。あくまでも、フェリスくんの心に合わせた態度で。
真剣に、まっすぐに好意を伝えれば、フェリスくんも私を好きだと言ってくれる!
……その様子は、まるで兄を慕う清らかな天使だった。本当に意味を分かっているのか分からないが、言質は取った。これから徐々に思い知らせていく所存だ。
やはり目の前に美味しそうな果実(水とは言ってない)があるのにかぶりつけないのは辛くて、服を着てもらった。彼が行為に苦手意識があるうちは、手を出すつもりはない。私は5歳も歳上で、大人だからな。
フェリスは本当に、あの村長の息子のことは吹っ切れたようだった。そう語ってくれたフェリスの心の清らかさに、胸へトストスと矢が刺さる。なんて邪気のない笑み。
ただ、村に置いて来たあの彼は今頃、逃した魚が紛う事なき天使だった事に気付いて悔やんでいることだろう。でも、それでいい。フェリスの中で、彼はもう過去の人に成り下がった。これからは私が上書きして忘れさせる。そう密やかに誓った。
恋人となった報告をすると、ヴァネッサには辛抱足らんと言われてしまった。それは……そうかもしれない。フェリスへの独占欲、性欲、悠長にしていれば奪われるかもしれない危機感。同じ部屋にいることでそれらの感情はすくすくと育っていた。同じ部屋にすると画策したのは私なのに、大きすぎる気持ちに白旗を上げている。
正直言って、私が彼に手を出さずにどれだけ保つか、自分自身分からない。だって可愛いんだもん!
しかしそれを目標にすれば、迷宮踏破を頑張る理由の一つとなる。その前に抱いてしまえば、私は獣のように止められなくなると分かっていた。
だから、しばらくはおままごとのような関係も、悪く無い。
フェリスをドキドキさせるのは、けっこう楽しいんだ。
番外編・End
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