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本編
2 転生
しおりを挟む僕――ロローツィア・マカロンは、生まれた時から、『なんかのRPGの世界に転生してきたんだろうなぁ』と、うすらぼんやり分かってた。
貧乏だけど家族仲の良い、男爵家の長男に生まれた僕は、5歳の頃にチートとも言える【神聖属性】の魔力があると判明したことで、僕強ぇぇぇ転生人生が始ま……
らなかった。
大変残念でしかたないのだけど、15歳現在、すでに僕が主人公ではないことは薄々、なんとなーく、察している。
一つは、類稀な童顔。昔はお父様似の美少年だったはずなのに、いつの間にか母に似た童顔に成長してしまっていた。主人公と言えば、シュッとした凛々しいお顔であるべきなのに。
一つは、ピンク色の髪に星空の瞳という、ファンシー過ぎる色合い。そこは転生主人公たるもの、黒髪黒眼でしょう!日本人の前世が全く仕事をしていない!
そしてもう一つは、僕の華奢で軟弱な体。いくら鍛えても鍛えても、ゴリゴリマッチョにはなれなかった。それは“オメガ”だから、らしい。
オメガって何なの?って思うよね。前世では人間は男性、女性という性別しかなかったもの。でも、それの他に、この世界には第二性別というものがある。
ある程度幼児期にフェロモン診断、とかいうもので判別出来て、アルファとオメガは、それぞれ特別な体の作りをしている。一方、フェロモンを持たないのがベータと言って、第一性別通りの身体的特徴だ。
僕はどうやらオメガという、子宮を持つ男らしい。けれど本当に?ってくらい、未だに良く分かってない。お医者様からは『鍛えすぎ』による阻害があって、まだ成熟出来てないと聞いた。うーん、でも、鍛えないと魔物と戦えないしね?今の所、生活に支障はないからいっか!って開き直っている。
神聖属性の魔力を持った僕は、国中の瘴気を浄化するために、教会に通ってはエライ人と魔術の訓練をし、穢れた土地を浄化して、『聖者』の称号を得た。この称号のおかげで、報奨金を定期的に頂いている。
報奨金はとてもありがたかった。そのお金で、家族が満足に食べていけるようになったもの。本当に頑張って良かった。ただ、両親がお人好し過ぎてすぐに人へ貸してしまうから、まだ贅沢は出来ない。それでも教会からのご厚意で十分な家庭教師をつけていただいたお陰で、なんと、歴史ある王立魔術学園に合格出来たのだ。
このアクアリング王国の、多くの貴族令息令嬢が通う学園の中で、最も格式高く、あけすけにいえば、お高いセレブ学園。通えるとは思っていなかった。
平凡日本人男子高校生だった前世の僕が怯えるくらいの、豪奢な宮殿みたいな校舎。全寮制で、巨大な寮もあるし、広大な土地の中には演習場や、図書館や、休憩室なんかもあれば、森、なんてのもある。意味が分からない。
とにかく入学してからも莫大なお金がかかるので、貧乏男爵子息である僕には縁のないところだったのだ。本来は。
それでもがむしゃらに勉強し作法を身につけ、訓練も脳みその裏が焦げるくらいやって、働いてお金も作って、入学出来た。ここさえ卒業したならば、いち貴族として認められる。
貧乏な実家を建て直すためにも、お友達百人つくらなくちゃ……!
そうして回想にふけっていた僕は、ピタリと止まった。
入学式の会場って……………………、どこ?
「あれ?嘘ウソ、そんな、人波についていけばいいと思ったのに」
「……君、新入生だよね?」
「わっ!」
驚いた拍子にまた脛へ何かがぶつかって、バランスを崩す。全身のバネを使って、前転からの綺麗な着地を決めた。
「は、ははっ!今、転びそうだったよね?誤魔化せてないからね?」
「そんなこと、ありません。……先輩、でしょうか?」
キリリとした顔を崩さないように、パッ、パッ、と埃を払う。そんな、転びそうだなんて、ねぇ?
顔を上げると、クールな眼鏡の似合う、優しげな風貌の美青年だった。図書委員にいそうだけど、実際にいたら綺麗過ぎて読書に集中出来ないんだろうな。黄金の髪はほんのりと緑がかって、翡翠の瞳には好奇心を覗かせていた。
「ああ、ぼくのことはジキルでいいよ。君は?」
「ロローツィア、です。マカロン男爵家、の、長男です」
「ロロくんね。講堂はこっち。ついてきて」
「あっ!ありがとうございます、ジキル先輩!実は、迷っていて……」
「ふふっ、分かるよ、見れば」
優しいジキル先輩は僕を先導して案内してくれるみたい。ふう、良かった、まっすぐ行けば、ギリギリでもまだ間に合いそう!
「こっちが近道だよ。覚えておいてもいいかも」
「わ、ありがとうございます。でも、僕、道覚えるのが苦手で……」
「そうなんだね。うん、なんとなく分かる」
「えっ?先輩も道覚えるの苦手ですか?意外です」
「違うよ。ロロくんが迷子になりやすそうなのが『分かる』ってこと」
「それってつまり、見た目が迷子っぽいってことですか?」
「プフッ、いや……面白いねロロくん。ふふ、クククッ」
えっと、今僕すごく失礼なことを言われた気がするのだけど?笑い事じゃないけど?
鮮やかな花々の美しい庭園を突っ切って歩きながら、先輩の肩が笑いに震えるのをジト目で見ていると、上からの視線を感じた。
「ガァァッ!」
「っ」
伝書鴉だ!僕の頭を一直線に突き刺そうとするのを、光の盾で防御する。ゴチンと頭を打ちつけた鴉はもんどり返っていた。
「えっ、伝書鴉?どうして、……?」
ジキル先輩がびっくりするのを、僕は慌てて押し出す。こんなところで時間を食っている場合じゃない!
首に小さなリボンを付けた伝書鴉は賢いので、あまり人を襲うことはないし、そういう訓練を受けている。けれど、何故か僕の桃色頭は美味しそうに見えるのか、しょっちゅう襲われる。全く、理不尽な話だ。
「それより、先輩!講堂は……」
「えっと、ロロくん、怪我はない?ないならいいけど、あったなら大問題だからね?」
「無いです、『聖者』ですし……」
「えっ?なんだって?」
再び足を止めようとする先輩。ええいっ、もう!入学式!始まっちゃう!!
「ジキル先輩!お願いします!早く連れてってくださいぃい!」
「あ、ああ……そうだった。そっか……また今度、ゆっくり話そうね?」
「機会があれば」
わ!ようやく講堂の入り口らしきものが見えた。まだ入る途中の人たちもいるじゃないか。ほっとした僕はジキル先輩へ生返事をしていた。
「ありがとうございました、ジキル先輩!では!」
「あっ、そっちは」
入っていく人たちの中に急いで身体を割り込ませ、講堂へ。えっと、どこに席があるのだろう?
キョロキョロ見渡しながら歩く。もう結構大多数が座って待っているじゃないか。席、無いってこと、無いよね?大丈夫かな……。
そちらに行くのかな、と思いきや、僕の侵入したこのグループのみんなは、少し離れた席に座るみたい。ん?
「ふふっ、君、今朝の新入生だろう?」
「えっ」
後ろの人に笑われてしまい、振り向く。すると、さっきぶつかりそうになったキラキラの貴公子がいたのだ。
「私も新入生だけど、君はあっちの席だ」
「えっ?あ、嘘、ごめんなさい!すみません……」
あまりに恥ずかしくて顔から火が出そう!
僕の肌は薄い。生っ白いから、すぐに赤くなってしまうんだ、気をつけないと。
僕がおろおろしている間、その貴公子がじい、と僕を凝視していたことには気付かなかった。とにかく、なるべく空気に溶け込むように席へ移動しなくちゃ。
「ほら、今。行って」
「ありがとうございます!」
貴公子がタイミングを出してくれて、僕は忍者のように空いた席へ向かった。ふう、これでようやく、入学式に参加できそうだ。
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