僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

14 アレキウス・ルド・アクアリング

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 先ほど聖者殿から発せられた【浄化】の光。グレイリヒトの近くにいた私にもかかったのは、いい。驚いたのは、その瞬間、頭の中にうわっていた何かがぷしゅりと抜けていったこと。


 一体何だ?何が起こったんだ?



 混乱の中自室に帰り、温かい茶を飲んで考えて、ようやく気付く。



 エカテリーナへの執着だ!


 婚約者として以上に、私はエカテリーナを大事にしていた。あの蠱惑的な唇を他の何者にも渡したく無い。そんな思いを持っていたのはいつからだったか。

 8歳。顔合わせで初めて会ったエカテリーナは、確かに可愛らしい令嬢で、身分も申し分のない少女だったが、次期王妃になるには些かあどけなすぎると感じたはずだった。

 候補としてはオメガであり、神聖属性魔力を持つ男爵令息も、いた。しかしすでに想い合う婚約者がいて、私の後ろ盾としても不十分と言うことで、すぐに候補はエカテリーナだけになった。ただし、エカテリーナに不安を覚えていた陛下ちちは、万一のことを考えて男爵令息へも高度な教育を施すこととなった。

 天真爛漫なエカテリーナも年齢を重ねていけば、徐々に落ち着くと予想され、我々は婚約を結んだが、彼女の成績は振るわない。そもそも、意欲が美容と装飾にしかない。そんな彼女を『大丈夫なのか?』と案じていた時期もあった。



 それなのに、いつからだったか。気が付けば、そんな懸念は無かったことになっていた。

 柔らかくて甘い唇を、茶会のたびに私はいつも求めた。脳の奥が痺れて焼き切れるほどの興奮。くったりと身体を預けてくるエカテリーナが可愛くて仕方なく思えた。誰にもやらない、そう思っていたのだが……。

 今、考えると私はおかしい。何も解決していないじゃないか。それどころか、悪化さえしていた。

 エカテリーナの教師は優しい――――悪く言えば指導力のない、褒めることしかしない者に替わった。私は望まれるままにエカテリーナへ宝石やドレスを買い与えた。婚約者としての予算をはみ出した分、自分に割り当てられた衣装代も使って。

 聖者――――ロローツィアに対する異常な警戒も、エカテリーナの囁くがまま。『色々な男の人と歩いているのを見たことがある』と言われ、てっきり噂通りの淫乱なのだと決めつけていた。そう、聖者としての彼と、プライベートの彼は、全く違うのだと。勝手にがっかりし、勝手に裏切られたような気持ちになっていた。


 私なら、もっとよく彼の人となりを調査してから判断するはずだ。それなのに、どうして鵜呑みにしてしまったのか?


 エカテリーナのことを考えると、頭の中が興奮に染まっていた。医者に相談もしたが、思春期の男らしいと言われて納得していた。それも、おかしい。王族として生まれ育った私は、思春期ごときで王妃を選んではいけないと、骨の髄まで教育されているというのに。






 冷静に考えれば。



 ロローツィアの実力は折り紙付きで、他国からも訪問を受ける程。そんな彼がプライベートで淫乱であっても、私や国に影響を与えないのであれば、それはただの個性。容姿も名前も公開されてないし、極論、好きにしていいのだ。

 更に入学してから知ることが出来たのは、あの聖者は、淡々と仕事をこなし、淡々と勉強に向かう、それだけ。誘惑をかけられたことも、かけているのを見たことも、一度もないじゃないか。

 エカテリーナも決定的なことは言っていない。ただ、『色々な男の人と歩いていた』と、噂の内容を合わせて考えた私が、彼を淫乱だと決めつけてしまっていただけ。なぜなら、彼は神殿関係者と歩いていても、『色々な男の人と歩いていた』は成立する。

 頭が冴えてスッキリとした。今なら、冷や水を浴びたかのように冷静に思考できる。



 それはつまり、【浄化】前の私が異常な状態だったということ。



 幸か不幸か、今回頼らざるを得ない状況になって“ついで”に浄化されたことで、思考がクリアになったのだが、何か一つでも欠けていれば、このような状況に気付くことはなかったのだ。


「……ゾッとするな……早急に、手を打たねば」





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