僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

19 浄化

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「まさかそんなことがあったなんて!至急、警備を強化する。申し訳なかった……」

「え?あの、アレキウス様のせいではないですから!」


 まさか信じてもらえるとは思っていなくて、逆に驚いてしまう。僕が何か言ったところで、『気のせいじゃないか?』と失笑されるかと……、でも、今のアレキウス様は、とても真剣に考えてくれているようだった。


「それでも、私が在籍中にそのような不届者が侵入するなんて……この件は後程なんとかするとして、今はまた、別の依頼だ」


 そろそろ眠たいなぁとあくびをこらえていると、アレキウス様は不意にジキル先輩を引っ張って、前へ押しやった。

 はてなマークを浮かべる僕とジキル先輩に、アレキウス様は真剣なお顔をした。


「ロローツィア。私とジキルに、【浄化】をかけて欲しい」

「えっ……?もしや、誰かに呪いを!?」

「それは、分からない。分からないが、私には効果があった。もう一度確実に浄化して欲しいのと、側近のジキルにも可能性がある……かもしれない」

「?分かりました。少し、診させてくださいね」


 大丈夫だと思うけど、患者さんの不安を取り除くことは大事なことだ。僕は内心『どう言えば納得するかな』と思いながら、改めて、アレキウス様を【診察】で診る。すると。

 アレキウス様は少しの、ジキル先輩は強めの、ピンク色の塊が胸の辺りにあった。これ、一体何なのだろう……。


「僕、これは初めて見ました。すごい。何だろう……ちょっと、動かないでください、失礼します」

「えっ?う、うん……」


 もっと近くで見るために、ジキル先輩の胸に手を当てた。先輩の上擦うわずった声は無視して、ピンク色の塊をもっと良く観察する。と言っても【診察】でね。

 その塊は口から入った形跡があって、最終的に胸の辺りでこごっているようだった。呪いの類いかと思ったけれど、毒に似ているかも。もっとよく見たくて、先輩の胸におでこをつけた。こうすると、その異物の効果も多少分かる。先輩はピシリと固まって、律儀に動かないでいてくれているみたい。


「これは……薬のような、毒のような。体の健康を害するものではないですが、非常に高度な条件下で、思考へ影響がありそうです」

「すごいな……そこまで分かるのか」

「この塊のまま取り出したいですが、癒着していて無理そうです。浄化をすると消えてしまいますが、いいのですか?」


 非常に興味深い。薬師さんに持っていけたら解析してくれるかも。でも、お医者さんが請け負ってくれるかどうか。僕の視界は共有できないし、僕にはピンク色に見えてても実際の色は違うだろうし……。


「アレキウス殿下、どう言うことですか?私の中に何があるのですか?話が分かりません」

「ロローツィア、お願いする。……ジキルも、受ければ分かる」

「分かりました。ジキル先輩も、それでいいですか?」

「……………………お願い、するよ」


 渋々と絞り出した了承の言葉をちゃんと聞いてから、【浄化】を二人にかけた。アレキウス様は風を感じるように深呼吸をし、ジキル先輩は何か異変を察したのか、自分の胸や頭をペタペタと触り始めた。


「ありがとう、ロローツィア。本当に恩に着る。ジキル、行こう。良く胸に手を当てて考えるといい」

「ああ……はい……分かっ?た……」


 未だ混乱しているジキル先輩を連れて、アレキウス様はホッとしたような、穏やかな表情で出ていった。なにか精神に作用するものだったのかもしれない。高位貴族って大変だな、と他人事のようにぽやっと考えていた。











 グレイの侍従さんはとてもイカついオジ様だった。しかし案外というべきか、手先が器用で気さくな人。
 グレイが入学するのに合わせて王都に来ていたのに、主人が来なくてずっと探していたみたい。

 僕を『坊ちゃんの恩人だ!!』と言ってしばし泣いたり握手したり騒がしくした後、急に『これからよろしくお願いします』と切り替えてきたので、大人ってすごいなと呆気に取られてしまった。


「あっしのことはトマムと。聖者様、ホットミルクでも飲まれますか?」

「あ、ロローツィア・マカロンです。ロローツィアでいいですよ。よろしくお願いしますね、トマムさん。ミルク……この、蜂蜜入れてもらってもいいですか?」

「うおっ……これは、なんと!えっ、琥珀蜜こはくみつじゃないですか!」

「トマムさんもどうぞ、一緒に飲みましょう」

「ありがたく頂きまっせ!」


 琥珀蜜をたっぷり入れて、温かいミルクに溶かしながら飲む。時々ザラリとした塊があって、それがまた美味しいんだ。トマムさんとも仲良くなれた気がする。


「護衛も兼ねているんでこの見た目は気に入っているんですが、ロローツィア様には刺激が強いかなと思っていました。しかし、ビビられなくて驚きましたよ」

「トマムさん、目元は可愛らしいですから……優しそうだな、と思いました」

「そんなこと初めて言われました!はぁ……流石、坊ちゃんも惚れ込むお人ですなぁ」


 ニイッと笑うトマムさんの笑顔は、中々迫力がある。変な人に追いかけられたら、トマムさんの所に逃げ込めばいいかな。

 でも、『惚れ込む』って……、グレイ、僕の治癒や聖域を余程気に入ってくれたらしい。それは良かった。



 トマムさんにより、グレイとの間に衝立ついたてが設けられた。お互いのプライベートを守るためだ。それでも【聖域】は部屋の中全てを覆えるので、問題ない。

 初日はグレイに意識が無かったし、僕もとても疲れていたから気にならなかったけれど、やはり【聖域】内に他の人間がいる状態で寝るのは落ち着かないなぁ。その上、可愛すぎる寝台だし……。

 そう思ってあの夢夢しい寝台に潜り込んだら、まさか極上の気持ちの良さで、気絶するように寝落ちてしまった。



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