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本編
21 甘味
しおりを挟む朝起きて、人の気配を感じるというのは慣れていない。それに、人の部屋じゃないか。すぐに状況を把握し、ソワソワする。
「……おはよう、起きたか」
「お、おはよう。グレイ。ちょっと待ってね……」
また夜間着がはだけ、全裸に近かった。この寝起き姿を見られるのは恥ずかしい。衝立があるから助かった。ごそごそと手早く着替えたところで、トマムさんがやってきた。
「ご起床されましたか、お二方。朝食を色々お持ちしやす。好みを教えて頂けると嬉しいっす」
「ありがとう、トマムさん」
衝立を退かし、上半身を起こしたグレイと一緒に朝食をいただいた。とんでもない量を出されたのは初日だからで、僕の食べる量に合わせて次からは減らしてくれるらしい。
ただ、グレイは食欲が爆発している。トマムさんがドン引きする程に、次から次へと、食事が無くなっていく。お腹が痛くなりそうだと思った僕は、胃に優しそうなものがあることに気付いた。
「これ、美味しい!ヨーグルト。グレイ、食べた?」
「いや、俺は」
「美味しいよ!ほら、一口」
ほんのりと優しい甘みと酸味がちょうど良い。ひと匙掬って差し出すと、グレイは少し躊躇した後、ぱくりと食べた。
「……美味しい」
「でしょう?って、トマムさんが持ってきたものだけど」
美味しいですね、とトマムさんに言うと、少しだけ気まずそうな顔をしている。どうしたの?
「あの、僭越ながら、坊ちゃんは……甘いものは苦手なんです、ロローツィア様」
「トマム。余計なことを」
「えっ……そんな……、僕、余計なことを」
「違う。ロローツィアからもらったものは全て美味しい」
大事な情報を教えてくれたトマムさんを、グレイが止める。甘いものが苦手だなんて!僕は初手から桃や蜂蜜なんかグレイに与えていた。口があまり上手く動かせなくて断れないうちに、断りにくくなってしまったのだろう。悪いことをしてしまった。
「ごめんなさい、グレイ。知らなくて」
「いや、そうじゃない。違うんだ!」
「……おや。ロローツィア様。たった今、坊ちゃんは甘いものを克服されたようです。ロローツィア様ですから食べられたのでしょう!はぁ、本当に得難いお人です!これからも坊ちゃんをよろしくお願いしやす!」
「えっ?えーと……本当?グレイ」
「そ……そうだ。ロローツィアからのものなら、大丈夫になったんだ。ありがとう」
「そっか!良かったね!僕も嬉しい、一緒に食べられるね」
にこにこと笑うと、グレイは急にそっぽを向いてしまった。耳の先が赤い。ふふ、男だからと言って甘いものが好きになったのを恥じなくていいのに。僕も大好きだから!
一緒にヨーグルトを食べ終えて、何故グレイが甘いものを嫌いになったのかを聞いた。
それは辺境伯家では、良く甘いものに毒が混ぜられていたからだそう。耐性をつけるために。甘い毒も苦い毒も、甘いものには混ぜやすいのだとか。どんな環境にいたんだろう、グレイ……。
僕のお仕事は夜一緒の部屋で寝るだけなのだけど、でも、グレイは患者さんというより同級生。それに、みんなの憧れSランク冒険者。出来るだけのことはしてあげたいと思う。
「これ、見て下さい。【聖なる調理器具】」
僕は通信販売の人みたいに、得意げにスプーンを出した。調理器具という括りにカトラリーが登場するのは良く分からないけれど、それは置いておいて。
小ぶりなスプーンはラメを閉じ込めたようにきらきらと輝いている。
「なんと!これで掬ったものは、毒だって泥だって、きれーに浄化されます。フォークなら、刺したものが全部。僕はこれで、一度落としてしまった食事も幾度となく食べていますが、全くもって平気です」
「落としたものを食べては……いや、それはとてつもない魔術だな。神聖属性魔力持ちとは、そんなことも出来るのか?」
「うーん……過去の聖者さんたちのことは分からないけど……僕は攻撃魔術を覚えたくてたくさん鍛錬したから、使える魔術は多いんだ。さあ、あーん」
「ああ……匙を、貸してくれるか」
「ごめんね、これ、僕の手から離れると消えちゃうんだ。さあ!」
「わ、分かった……」
薄い唇を躊躇いがちに開けているところに、スプーンを差し込む。自分から始めたくせに、何だか恥ずかしい。ワインレッドの瞳は僕を見つめ、スプーンを見つめ、少し伏せて、おずおずと遠慮がちだ。
お腹を痛めないように、これから毎日お腹にいいものを給餌してあげよう。グレイが少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに口元を緩ませるのは可愛くて、尊い。美形の照れ顔、栄養ある。
本当は食事に【浄化】をバーッてかけちゃえば良いのだけど、毎食それをやるのは、申し訳ないけれど面倒くさいのと、もし何か混入していたとしても証拠が無くなってしまうから。このスプーンなら、浄化する際にピカッと光るので分かりやすいのだ。
グレイは大量のご飯を食べ終えたあと、運動したがった。しかし、そこに一つの大問題が立ち上がる。
それは……勃起だ。
「わわわ……」
「あまり見るな」
「いや、すごくって……」
グレイが身支度を整えて寝台から降りようとした時に、真っ先に目がいってしまった。ゆったりとした動きやすそうなパンツを押し上げる、隆起。ほんのり頬を赤らめたグレイが、言い訳をするようにもごもごと言う。
「飢餓状態から生還したからだろう。漲ってしまうのは仕方ない。見た目以外は支障ないんだ」
「ないんだ」
「外を走れるようになった際は早朝と深夜だけにして、あとは部屋で食べるか鍛錬をすることにする。問題ない」
「ない……?」
「それより、早く復学したい」
「そ、そうだよね」
グレイはまだ、歩くことも出来ない。それでもずっと食べ続けていたり、漲り過ぎて身体を動かしたくなるのだそう。
もう少ししたらきっと動けるようになる。それまでの我慢……なのだけど、見ていて痛々しい程に聳り立つ巨根に、目がいかない訳がない。
なんだいそれは。僕のものと比べたら、随分と様子がおかしいじゃないか。なんて、指摘する訳にもいかない。デリカシー。
「そ、その。グレイ。僕、もう夜は部屋に帰ろうか?そのう、お邪魔かもしれないし……」
「いや、こちらからお願いしたい、まだ通常状態に戻るまで、いてくれないか」
「でも、それ……痛そうだよ」
眉根を下げると、グレイは額を抑えていた。やっぱり痛いのだろう。僕は朝、ソウなったことは幾度かある。けれど痛いまではないし、色々と準備をしている間に落ち着いてしまう程度のものだ。
「ごめんね、何か力になれたら良かったんだけど」
「……大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく」
「あ!そうだ!いいものがあるよ!」
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