僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

22 新品

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 僕は急いで、自室へソレを取りに行った。

 入って奥、窓枠の割れた穴に刺してある、ネクタイ置き。それは、本当は大人のなのである。
 使い方がわからなくて、ちょうど少し曲がっているから色々かけていたけど、本当はおもちゃなのである。


「見てこれ!新品だし使ったことないから、使っていいよ!」


 ちょっと【清浄】で埃を綺麗にして、グレイに渡した。ピシリと音が鳴りそうなくらい見事に固まっている。そしてトマムさんは肩が震えていた。
 あれ?違ったのかな。説明しなくちゃ!


「あああああの、これね!僕の母さんがくれたんだ。でも、説明書付いてなかったから良くわからなくて、ちょっとした物を引っ掛けていたんだけど、本来は大人のおもちゃだったの。だから、使ってないし、しばらく貸してあげるね!使ったら洗って返し」

「ロローツィア。ロローツィア、そうじゃない。その、申し訳ないが、これは君専用のプレゼントじゃないか?」

「え?ああ、母さんには他にも色々もらっているから、一つくらい大丈夫だよ。まだ生きてるから形見って訳じゃないもの」

「……いや、君の母君の想いを赤の他人が踏みにじってはいけない」

「赤の他人だなんて!だって、グレイが困っているんだもの!大丈夫大丈夫!」


 きっとグレイなら使い方を知っている。このネクタイかけだって、本来の使い方をされた方が本望だろう。と思ってグレイに握らせようとしたら、大きな手で逆に握り込まれてしまった。そしてトマムさんは声もなく爆笑している。なに?どういうこと?


「……ロローツィア。言いにくいが、その、自分を慰める方法として、俺はこれを必要としない。だから、大丈夫だ。元の場所へ戻してくれていい」

「えっ?使わ、ない……?」

「それから、ソレを『使ったことがない』とか、『よく分からない』とか、他の男の前では言うんじゃない。あと、こんなことを『力になりたい』ともな。……すぐに食われるぞ」

「ひいっ!?」


 ほんとにどういうこと!?首をちぢめると、グレイは僕にネクタイかけを押し戻しつつ、コホンと咳払いをした。


「この件に関しては、放っておいてくれると助かる。ロローツィアには十分世話になっているから、これ以上手間をかけさせはしない」

「そ、そっか。分かった」


 あんまりキッパリハッキリ言われたので、本当に僕の手助けは不要なんだと理解した。よ、余計なことをしちゃったみたい。反省だ。











 運動や鍛錬も、無理だけはしないように伝えて登校しようと部屋を出ると。


「おはよう、ロローツィア」

「お、おはようございます、アレキウス様、ジキル先輩。もしかして、お待ちになられて……?」

「いや、今出てきたところだ。一緒に行こう」


 お二人が扉の外に居た。昨日浄化をしたのに、お二人とも目の下のクマが酷い。けれど、何となく吹っ切れたような、気持ちの良い笑顔だ。


 もう、あれかな。謎の牽制は終了したということでいいのかな。いいんだよね?

 お二人から取り除いたピンクの塊が、どのような影響を及ぼしたのかは分からないけれど、僕に対する猜疑心さいぎしんが軽減したなら、それは喜ばしいことだ。


「歩きながら話そう。ロローツィア、浄化をしてくれて助かった。そのことに関して、他言無用にして欲しい」

「はい。元より、患者様の情報は口外しないよう、教育されていますので」

「それならいいが。オーランドに関しても、しばらく私たちに任せてくれないか?婚約を解消するにしても、継続するにしても、証拠は必要だろう」

「ええと……つまり、僕は傍観していた方がいい、と?」

「……そう、とも言える。申し訳ない。私の方も証拠を固めたい。何しろ、『口付けの証言だけでは弱い』とのことだからな」


 えっ!そうなの!!
 驚いた僕を見て、アレキウス様も眉尻を下げた。


「その……宰相や陛下に相談したんだ。法的には、ええ……ゴニョゴニョ……深い関係を持つことが、不貞になるのだそうで」

「ええっ……」


 アレキウス様は顔を覆ったし、僕も赤くなってしまう。お、大人……!大人だ!想像してみたけれどピンク色のモザイクで、つまり、全くの未知の領域。


「しかし、納得できないよな。口付けだって密会だって、立派な裏切りだ。だから、婚約を継続したくないと、私は考えている。別の切り口からその方向へ持っていけるように、協力してほしい」

「……アレキウス様も……分かりました。僕は、何をすれば」


 アレキウス様は、エカテリーナ様を愛していらっしゃったように思えたから、オーランドと口付けをしているなんて知ってショックを受けただろうなぁ。それで、このクマの酷さなのかもしれない。

 きっとお辛いだろうな。僕はかける言葉も見つけられないでいると、アレキウス様はもう、キリッとした王子様になっていた。


「君には、強いて言うなら何もしないでほしい。オーランドを泳がせる」


 アレキウス様が言うには、僕とオーランドとの婚約が成立している状態で、エカテリーナ様とどう関わっているのか、どんな会話をしているのか確認したいみたい。

 そして証拠を掴めば僕の方にも横流ししてくれるから、こちらの婚約も解消出来そうだ。もうオーランドとあんまり話したくないなぁと思っているし、賛成しかない!


 避けてもいいかと聞けば、それはOKみたい。

 オーランドと仲の良い婚約者を演じろとか言われなくて、よかった。ほら、オーランドはエカテリーナ様のために、僕を繋ぎ止めようとしているみたいだったから。


「それから、また浄化を施して欲しい人間を連れていくから、内密に診てほしい。候補者が多すぎて絞れないんだ」

「……そんなに、ですか?」


 足を止めそうになる。何かのゴタゴタに巻き込まれなきゃいいのだけど。僕が出来ることは治癒や浄化であって、社交界の陰謀を躱したり解明することは専門外である。

 そんな不安が顔に出ていたのか、ジキル先輩がふわりと微笑んだ。


「ロロくんは、そうだね、あまりぼくらと関わらないようにした方がいいかもしれない。浄化はグレイの部屋で行うことにして、日中はこちらからは話しかけないし、話しかけないように気をつけて」

「わ、分かりました!そうします!」


 ありがたーい!それ、入学式からずっと思っていたんだ!目立つ人たちと一緒にいると、やっかみや嫉妬やらの標的になりやすいなって。

 ジキル先輩がそう提案すると、アレキウス様はほんの少し、眉を下げていた。しょんぼりと折れた犬の耳が見えるみたい。


「私としては、もっとロローツィアと話したいのだが……」

「仕方ないじゃないですか。ロロくんの安全が優先ですし、放課後はグレイの部屋で話せるでしょう」

「うう……それは、そうだが。ロローツィア、私たちは話せなくても友人だ。そうだろう?」

「わ、はい!ありがとうございます!」


 おともだち……!嬉しい!

 え、でも何か話すことあったかな?僕は不思議に思いつつ、他の生徒たちと合流する前に別れて、それぞれで教室に向かうことになった。



 
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