僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

23 魔術

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 実践魔術学の授業は、一年生の内は属性に限らず一緒に受ける。

 属性は通常、四大属性に分かれていて、水、火、土、風の四種類だ。それぞれ一つずつ属性を持っている。平民は持っている魔力の量が小さじ程度しかないのに対し、貴族の殆どは自由に魔術を使える量を持つ。爵位が高いほど、魔力量も多いことが多い。

 となると、男爵令息なのに魔力が多い僕は、突然変異らしい。前世の記憶があることと関係があるのかな?誰も何も教えてくれないけれど。

 鍛錬場で、自分の魔力を知覚して動かす練習だ。魔術として行使しなくても、魔力は自分の思う通りに動かせる。まるで第二の手のようにね。ただし、とても集中力を必要とする。


「あんっ、難しいっ……」

「エカテリーナ嬢、教えてやるよ。おれ、得意だから」

「嬉しいっ!ありがとう~!」


 困っているエカテリーナ様に、ショーン様がつく。心なしかデレデレしているショーン様を、無機質な視線で見ているのが、アレキウス様。

 少し前までは立場が逆だったような気がする……。僕と目が合ったアレキウス様は、軽くウインクをして、またショーン様の観察に戻りつつ、魔力をうさぎ型に変えていた。器用だなぁ。


「魔力の扱いは、日々の訓練が必須です。怠れば、また衰えて使えなくなる。また鍛える。その繰り返しです。授業の無い日も訓練ですよ。ピアノやヴァイオリンとて同じこと」


 背の低い教師は、チョコチョコとみんなを見回りながら言った。確かに、一日でも怠けると、少し動かしにくくなるのを感じる。大人になるにつれて魔術を使わなくなり、いざという時使えない、ということは良くあるみたい。

 僕は魔術自体が趣味。使うのが好き。楽しい。当然ながら日本では使えなかったけれど、魔法があったらいいのにと思っていた。だから毎日無意識に使っていて、上手に扱えるのかもしれない。


「ほう……龍ですね?素晴らしい技術です!マカロンくん」

「ありがとうございます!」


 へへ、先生に褒められた。嬉しい。

 神聖属性の魔力は薄く白っぽい光。それをドラゴンの形に成形して、飛ばしている。空高く飛ばして、ふよんとたんぽぽの綿毛みたいに散らせた。


「なんて幻想的な……。素晴らしい!皆、マカロンくんの魔力操作技巧は、超一流です。きっと絶え間なく訓練に励んだのでしょう!見習うように!」


 ぎゃっ。そこまで言われるとちょっと恐ろしい。僕に対して敵愾心てきがいしんの強い生徒たちの方が、未だ多いのに。

 案の定、こそこそと陰口が聞こえている。


『なに、あれ。調子に乗って。仮にも聖者なんだから当たり前よね』

『ずっと引きこもって、アレばっかりやっていたんじゃないか?それは上手くもなるさ』

『あれで報奨金を貰ってるんでしょ?私たちはそうまでして稼がなくてもいいもの』


 うんうん……。貴族の令嬢令息が、魔術を使うことはあまり無いものね。冒険者の方がまだ使うだろうし。

 それに実家が貧乏で、稼がなくちゃならないのは本当のこと。

 聞いてて吹き出しそうになったのは、僕は夜な夜な男の元に通っているという噂と、引き篭もっているというものが矛盾するから。どっちだよっ!と突っ込みたいよね。
 根も葉もない噂だから、整合性も無いのだろうけど。



 どれだけ陰口を叩かれたって、僕の魔術の腕がそれなりに誇れるレベルなのは、変わらない。僕はしゃんと胸を張って、引き続き魔力操作に集中する。するとそこで、凛とした声が聞こえた。


「先生の仰る通りだ。自己研鑽をたゆまぬ者を羨むことはあるかもしれないが、足を引っ張ろうとする者は見るに耐えないな。ブラウニー伯爵令嬢、シフォン子爵令息、それから……」

「ババロア子爵令嬢、です。殿下」


 ショーン様が口添えした。すごい、もう皆んなの名前、覚えてるんだね。

 一斉に静かになったクラスを見渡し、アレキウス様はさらりと言う。


「今発言した彼、彼女らの家で聖者の力は必要ないらしいな。神殿へも進言しておこう」

「そんな!」
「それとこれとは……」

「聖者も人間だ。我々と変わらない。一方的に蔑んでおいて力だけは借りようなど、浅ましい」


 絶望したような顔の三人。僕は、どちらでもいい。治癒する人を選ぶのは神殿だし。お金さえもらえれば。いい気分ではないのはそうだけど、それほど傷付いてもいなかった。患者さんにも色々いるから、耐性は付いている……と、思う。

 それでも、アレキウス様にそうハッキリ言ってもらえると嬉しい。僕も、散々文句を言いながら診療所に来る人を見ると、『ちゃっかりしてるなぁ』と思っていたから。

 基本的に僕でないといけないことって、実は少なくて、国土の浄化と、医者でも対応できない重症人。それ以外は、薬師や医者が助けてくれる。だから、僕に頼らなくたって、彼らは困らない。


 だから、今顔を青くしているのは多分、『いざという時』の保険がないからだろう。これで、健康に気をつけてくれれば僕は気にしないよ。




 講義が終わってもしんと静まったままのクラスメイトを代表するように、エカテリーナ様がアレキウス様に近づいた。


「アレキウス様。彼らに謝罪の機会を与えてはいかがですかっ?なんだか、かわいそうです……っ!一度の過ちで、家門まで……」

「流石エカテリーナ様!」

「お優しい……!私たちのために……!」


 感動しながら、三人は上目遣いをしたり、僕を睨んだりと忙しい。アレキウス様はさりげなく僕を背中に隠して、エカテリーナ様の前へ立つ。


「……エカテリーナ。彼らは、一度、ではない。前から聖者殿の酷い噂を流すなど、誹謗中傷を繰り返していた。私は全て覚えている」

「ですが、一方的過ぎますっ!皆さん、反省していらっしゃいますよねっ?」

「「「はい!もちろんですエカテリーナ様!」」」

「ほら、こう言っています。ここはわたくしに免じて、どうか神殿へは……」


 祈るように手を組むエカテリーナ様は、うるうるとアレキウス様を見上げた。


「そうだな、……噂の出所を吐き、二度としないと誓うのなら、考え直してもいいかもしれないな」



 アレキウス様は嫌味なくらい爽やかな笑顔で、三人はブルリと震えた。









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