僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

25 グレイリヒト・シュトーレン

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 寝台へ潜り込んだロローツィアは、よほど疲れていたのかすぐに寝息を立て始めた。すぴすぴとかすかな寝息だ。花を模した寝台の上ということもあって、妖精のように破壊的な可愛さで俺の胸を突き刺す。

 桃色がかった金髪と、同色の長いまつ毛。ぷりっとした唇。それらを時を忘れるくらい眺めている。彼が寝た後に。不思議なことに、ロローツィアはほとんど動いていないのに、するりするりと寝巻きが脱げていくのだ。あまり見ないようにして、腹が冷えないよう毛布をかけ直してやる必要があった。

 その際、ぷっくりとした頬の丸みをつつきたいとか、さらさらの髪を撫でたいとか、良くない欲求が湧き起こる前に目を逸らさなければならない。ロローツィアは恩人であって、好き勝手に触れていい存在ではない。


「可愛すぎるだろう……」

「私の見立てに間違いはないだろう、ふふん」

「お前には婚約者がいるんだぞ。俺にはいないが」


 その婚約者であるエカテリーナ・バニラ侯爵令嬢を、アレキウスは限りなく黒に近いと睨んでいるらしい。つい最近まで溺愛していたというのに。最も、俺は武者修行中だったため、そのアレキウスを知らない。


「近いうちに婚約は白紙にする。ロローツィアの噂の出所はエカテリーナと思われるが、決定打にならない。証拠さえ掴めればな……。直接関わらない、嫌な手ばかり使ってくる。王族である私に、薬だか毒だかを盛った人間に関わっているのに」

「それで?婚約破棄をしたら、ロローツィアに鞍替えしようと?」

「そのような言い方をするな。ロローツィアには一部王太子妃教育を混ぜていたし、十分務まるだろう?」


 俺は顔をしかめた。こいつ、エカテリーナ嬢を溺愛していながらもロローツィアにも保険をかけていたとは。抜かりのなさに感心すると共に、苛立ちも湧き起こる。


「一途とは言えないな、アレキウス。よそ見をしていたということだな?」

「違う!彼の教育に関しては、父上の指示だ。エカテリーナがあまりにも机に向かわないから……」

「としても、彼の実家の力は弱い。俺ならば次期辺境伯だ、男爵家の援助は必要としないし、実力主義の家だ。ロローツィアも気兼ねなくのびのび出来るに違いない」

「ほう……?グレイ、私のライバルに立つ気か?側近なのに?」


 バチバチと魔力同士の摩擦が起こった。しかし、いくらアレキウスでも譲る気はない。

 ロローツィアは次期王妃には優しすぎる。『攻撃魔術を覚えたい』と言ってずっと鍛錬をしてきたロローツィア。きっと魔術を使うのが好きな子で、戦う時も、野営をする時も生き生きとしていた。なのに、王妃という狭く孤高の地位に押し込めたくない。

 目を細めて俺を睨む、アレキウスに問う。


「俺たちがここで何を話そうが、大事なのは彼の気持ちだ。分かっているとは思うが、アレキウス。本人の気持ちを無視するなよ」

「……………………分かっている」


 随分と空いた間に、一抹の不安が過ぎる。次期王妃に相応しい素質は、もしかするとあるかもしれないが、どうしても、ロローツィアが幸せになれる気がしない。


 彼が幸せになるのであれば、彼が選ぶのならば、……アレキウスの隣でも納得してみせよう。アレキウスと並び立つロローツィアを想像して、ズキリと痛む胸には気付かないフリをした。








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