僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

29 祝福

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「…………?」


 目を開けた。お昼の日差しが当たって、少し熱い。
 寝起きに裸になっていることはよくあるけれど、こんなに長い間寝て、それでもまだ眠たいなんて、初めてかもしれない。

 ぼーっとしたままでいると、野太い声が近くで上がる。


「ロローツィア様?起きられましたか!坊ちゃんをお呼びします!」


 去っていく背中のサイズを見て、トマムさんだと思い出す。てことは、ここはグレイの部屋。
 僕は裸のまま、グレイの寝台にいた。花びらベッドではない、広い、シンプルで落ち着いた方の寝台だ。


「ぁ"……」


 しわがれた声。喉が裂けるように痛い。反射的に治癒を施してから、魔術が使えるようになったことに気付く。

 そうだ。オーランドになにか盛られて、グレイに助けられて……?

 それから、記憶が飛び飛びだ。けれど、わかる。


 僕、とんでもない痴態を晒してしまった。

 頭の中に浮かべるのも憚られるほどの。


「う、わ、わ、~~~っ!」


 カーッと顔が熱くなる。だめだ、思い出しちゃ!今すぐに穴があったら入りたい。入って封印して、聖域を施して、眠って起きたらちょっと前の時間軸のパラレルワールドとかに行けないかな!?

 現実逃避をしている間に、グレイが駆けつけて来てくれた。――――と思えば、ぐりん!と背中を向けられる。


「ろろ……ああ、服を!服を、トマム」

「そうでした!すいやせん!」


 トマムさんにバサリとガウンを着せられる。ああ、僕ってば恥の上塗り!ボケっとしすぎだ!
 僕の肌が一切見えなくなってから、グレイはこちらを向いてくれる。なんて紳士的なんだろ。


「具合は?……顔色は良さそうだが。記憶はあるか?」

「ええっと……あまりないけど、その……」


 恥入って、もごもごと言葉に出来ずに俯いていると、グレイが隣に腰を下ろして、軽くハグをしてくれる。途端に、今まで感じたことのなかったグレイのフェロモン、ムスクのような色っぽい香りを知覚し、僕はずっとこの香りに包まれていたことを思い出す。


 そうだ。だから僕、どこか安心していたんだ。


「気にするな。俺がしたのは医療行為で、ロローツィアは患者だった」

「え、ええええ!グレイ、が……?」

「ロローツィアを高めることしかしていないし、当然、セックスもしていなければ、うなじも無事だ」


 セッ…………!!

 い、言われてみれば、ネックガードは付けたままだ。それに、下半身の妙な筋肉痛や違和感はあるけれど、最後まではしていない……?


「す、すみませんでした!僕、グレイになんて事をさせてしまったのか……!」

「俺はロローツィアに救われたのだから、助けるのは当然。それに、役得だったしな。ただ、謝らなければならないことがある」

「……うわわ……、そんな、迷惑をかけているのに、気にしな」

「く、口付けを……して、しまった」


 そう言って口元を覆って俯いてしまったグレイが、あんまり顔を赤くしていたから、僕もつられてしまう。グレイ、と、口付け……!


 黙ってしまった僕に焦ったのか、グレイは心なしか早口で弁明し始めた。


「オメガのヒートは、アルファの精で軽くなるのだが、流石にそれをする訳にはいかないし、かといって辛そうなロローツィアに強請ねだられ……ゴホン、いや、唾液だけでも効けば、と思ってしたのだが、あまり効果はなかったようだ。というか、俺が我慢出来なかっただけかもしれない。すまない、俺も余裕がなくて」

「あっ……、グレイ、それは?」


 グレイの左腕が、包帯でぐるぐる巻きになっていた。背中に隠そうとしているのを引っ張ってみると、前腕がびっちりと覆われている。こんなの、記憶にない。


「なんでもない。ただのかすり傷だ」

「そんな訳、ない!僕のせいだよね?見せて」

「……これは、決して、ロローツィアのせいじゃない。俺の理性が不甲斐ないだけだ」


 勝手にしゅるしゅると解くと、歯形状にえぐられたような跡が複数箇所。まだ血も出ていて生々しい。これは、相当痛むはずなのに、グレイの表情には出ていなかった。


「なにこれ、酷い傷……!」

「俺が自分で噛んだだけだ。ちゃんと清潔にしておけば治る。ロローツィア、力を使う必要は、」

「僕……ごめんなさい。グレイ。僕、の、ために」


 視界が潤んでくる。アルファであるグレイが、僕の勝手なフェロモンに誘惑されて我慢をすることは、大変だったはずだ。理性を失わないように、噛んでいたのだろう。


 “ごめんなさい”“ありがとう”“痛かったよね”
 “大事にしてくれて、嬉しい”
 “もう二度と僕のせいで、怪我をして欲しくない”


 そんな想いと共に治癒をかけた時、僕の涙がグレイの腕にぴちょんと落ちた。


「!」


 ぶわっ、と、涙の落ちた所から銀の光が迸る。網目状にグレイの腕を覆い尽くし、溶け込んでいく。
 光が収まった後には、刺青のように紋様が入っていた。


「これは……?」

「ああっ!えっと、うわ……っ!ごめんなさい!」


 忘れてたあ!

 願いを込めた僕の涙が、グレイの腕に【祝福】を刻んでしまった。

 本来は豊穣とか雨水を願って大地に垂らしたりするといいのだけど、いかんせんトリガーが“涙”だから、なかなか自由に出せる訳でも無く、お蔵入りしていた魔術。


 ただし使いこなせれば強力な【祝福】。


 自分のかけた祝福を見てみると、グレイの左腕は今後怪我をしない、人外じみた腕になってしまっていた。


「うわわ……グレイ、やっちゃった……すみません……!」

「むしろ、俺は有難い。怪我が治ったばかりか、この腕を盾にすることが出来る。ありがとう、ロローツィア」

「そんな……ええっと、いい、の……?」

「ああ。人体にはどうしたって限界があるからな」

「……ふふっ。グレイ、人間を超えちゃうね」


 お気楽なグレイに、涙を拭った。そこにトマムさんが粥を持ってきてくれて、今度は僕がグレイに給餌をされることとなった。……される側って、こんなに恥ずかしいのだと思い知った。









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