僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

文字の大きさ
30 / 76
本編

30 謹慎

しおりを挟む


 オーランドの使った媚薬によって、僕は強制的にヒートにさせられてしまった。しかもその薬は、元々ヒートの周期のある人ならまだしも、僕のように未成熟なオメガに使うと、ホルモンバランスを大きく崩れてしまうらしい。

 そうお医者様に言われてしまった。そのため突然イライラしたり、突然無気力になったりするかもしれないって。年齢と共に徐々に落ち着くと聞いたけど、ちょっと不安だ。

 そんなものを婚約者に使い、既成事実を作ろうとしたオーランドの所業を聞いて、カンカンに怒ったのは、実は王妃殿下だった。


 現王妃殿下は、とても凛々しく美しい男性オメガであり、オメガの地位向上のため精力的に動いているお方だ。ご自身は騎士の経験もあって腕に自信はあれど、ほとんどのオメガはそうでないことをご存知らしい。王妃殿下が小さい時分には、誘拐騒ぎに多々巻き込まれたこともあるとかないとか。


 そんな王妃殿下に、しっかりと教育されているのが、アレキウス様。



 僕の体調が回復した頃、既にオーランドは謹慎処分を受けていた。

 オーランドはその薬を『信頼できる人から貰った、夫婦間でも使える軽い催淫剤』だと思っていた。僕を追って来なかったのは、僕が嫌がっていてショックを受けたことと、寮の部屋に帰る頃には薬も切れているだろうと判断したから。まさか一度も来たことのないヒートを引き起こす程強い薬だとは、知らなかったらしい。


 実際、僕のオンボロな自室からフェロモンがダダ漏れになってしまった。本当に、グレイに仮でもつけてもらった扉が無ければどうなっていたか。ちなみにその時、オーランドは寮に居なかったんだって。別にいいのだけど、なんて無責任なと言いたくなる。



 正体不明の薬を盛った罪で謹慎処分となったオーランド。アレキウス様は『彼のおかげでとっかかりが掴めた』と仰ったが、詳しくは聞いていない。

 婚約者とは言え、薬を使われた事実は僕を打ちのめすのに十分だった。オーランドとの楽しかった思い出も、会えなくて寂しかった思い出も、色褪せてしまうほどの。
 エカテリーナ様との逢瀬を見たことも加算すると、オーランドに対して抱いていた僅かな気持ちも、ぷっつりと消え失せてしまったのだ。


 婚約を、解消したい。


 あの人を、信用出来ない。政略結婚でもないのに信頼関係のない夫婦など、何の益も無い。
 そう考えてしまう僕は、やっぱり冷たいのだろうか。

 そう綴った手紙を伝書鴉へ持たせて父さんへ送ると、グレイが慰めるように言った。


「俺も証拠集めに参加している。必ず、婚約を解消させよう」

「へっ?グレイが?」

「正しくは、家の力を使って、だが」


 僕の部屋へ遊びにきたグレイは、また新しい扉に交換したことを教えてくれた。元々そういうつもりで作らせていたみたいで、明らかに頑丈で渋いデザインの扉になっている。煌びやかではないのが、この部屋の雰囲気にマッチしていて落ち着く。


「扉を開けるときは、ここから外を覗いて確認してから、だ。鍵穴も勝手に開けられないよう複雑かつ二重になっている。ただし、ヒート中のフェロモンはどうしても、壁や窓などを全て変えないといけないため洩れてしまう可能性が高い。その時は、」

「あっ……そういえば、医務室の横に、隔離部屋があるって。今まで誰も使ったことないらしいけど……」


 それは、この学園の生徒にも先生にもオメガがいないから。ほんと、オメガって肩身狭い。きっとそこも、僕の部屋みたいに殺風景で、必要最低限の場所なのだろう。


「俺の部屋を使えばいい。相手も……俺がする。ロローツィアが良ければ、だが」

「えっ」

「トマムもいるし、セキュリティに抜かりはない。不自由も、寂しい思いもさせない」

「……っ」


 ぐっ。何か胸を貫かれたような思いで、僕は思わずうずくまった。苦しい。何これ。グレイったら、僕をどうしたいの……!?

 カッカと火照ってしまったほっぺを手で隠し、何でもない風を装って立ち上がる。グレイの男神のように美しく色気のある容貌や薄い唇を見ていると、後ろめたいような気持ちがむくむくと膨れてしまう気がして、目を逸らした。


「……気持ちは、嬉しい。けど、まだ、決められなくて。ごめんね。早くオーランドのことを片付けないと……」

「その通りだな。俺も一刻も早く片付けられるよう尽力するつもりだ」

「僕も。足手纏いでなければ、役に立ちたい」










 ……と、言ったのだけど、浄化以外に関して僕は完全にお荷物だった。


 フェロモンのコントロールが上手くいっていないのか、他の生徒たちからちょっかいを出されるようになってしまったのだ。


「ロローツィア様。次のヒートは、俺を呼んでください!」

「いいや、おれの方が!」

「ヒートまで待てない。あのフェロモン……はぁ、どうかな、今夜?」


 どうやら僕のフェロモン自体、物珍しかったらしい。きっとこの学園にオメガがいないからだと思う。所謂“身体モテ”と言うべきか、身の危険を感じることが多くなった。

 例えば、授業中。ショーン様やアレキウス様が隣でない時には、偶然を装って触られたり。
 廊下を歩く時も、すれ違いざまに胸や尻を掴まれたり。ひどい時には、服の中に手を入れられたり。

 用を足しに行く時が一番危険で、一度個室に引き摺り込まれそうになった。なんとか逃げ出せたけど。

 何故なら、僕には精霊の祝福があるから。あくまで精霊の仕業だと気付かれない範囲でだけど、いやだと思えばバチッと強めの静電気が走り、彼らの手を弾く。ただし、死角から忍び寄られると防げないことや、全てを防げる訳じゃない。精霊さんは気まぐれだから。

 ジロジロと舐めるような視線に、神経を尖らすのも疲れてしまった。


『聞いたか?聖者が夜な夜な男の部屋に入るって……』

『あのフェロモンはたまんねぇ。いつでも大歓迎だ』

『いいケツしてるよな……』



「失せろ」


 漏れ聞こえる下品な会話に辟易としていると、グレイは鋭い声を発した。

 僕が復帰してから、グレイは僕の側から離れない上、番犬の如く吠え、生徒たちを散らばらせた。そのインパクトは大きく、女生徒たちの嫉妬の視線も同時に浴びることになる。


「ったく……猿共が」

「グレイ、お口悪い」

「すまない。不快な奴が多いな」

「……そうだね。ありがとう、僕の代わりに怒ってくれて」

「礼を言われることじゃない。俺が、嫌なんだ。可能なら、どこかに隠しておきたい」

「ふふっ、グレイってば、過保護だねぇ」


 グレイは元々は僕らと同じクラスだったのに、隣のクラスに編入したらしい。その方が動きやすい……だとかで。残念。でも、アレキウス様の側近としての任務なら、仕方ないよね。



「聖者様っ!」



 教室へ入るとすぐに、エカテリーナ様に捕まった。

 心配そうに眉根を下げ、祈るように手を組んだ彼女に。

しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...