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本編
40 越境
しおりを挟む浄化する予定の土地は、あと二つ残っている。
どちらも属性龍の住処になっており、僕には荷が勝ち過ぎる。むりむり。だからなんとか攻撃魔術を覚えたいのだけど、まだ習得出来ていない。
神聖属性魔術の一つに【聖なる越境】という、ワープみたいな魔術があるため、ポンとひとっ飛びで行けるのだが、残念なことにこのワープ、『穢れた土地』にしか行けない縛りがある。
魔術を行使すると、扉が現れる。その穢れの度合いが扉の色と連動していて、穢れの強い土地は真っ黒、弱い土地は白に近いグレー。最初はたくさん出現した扉も、今はもう二枚だけだ。
浄化しちゃうとこのワープも出来なくなる、という不純な理由もあって、浄化はゆっくりやろうと決めている。
「なぁグレイ、武器は王都の武器屋で頼んだのか?辺境伯のところではなく?」
「ああ、領地にある武器屋の姉妹店がある。……兄の方が王都に店を構えていると聞いて、頼んだ」
「そうだったんだ。おれも新しいの欲しいなー」
ショーン様とグレイが和気藹々と話している。その後で、僕はジキル先輩とアレキウス様に挟まれる形で並んでいた。
「ロロくん、制服姿も可愛いけど、その装備は格好良いね」
「本当ですか!?嬉しいです、ありがとうございます」
「ロローツィアの身軽さを活かせそうな装備だな」
二人からも好評頂いたこの装備。体にフィットしたハイネックのトップスは、オメガを示すネックガードも覆う。肩から腕にかけてはアームカバーを巻いていて、ボトムは短パンとロングブーツだ。これはウチの領地にある万屋で見繕ってもらった。
肌の露出は最低限だけど、わりとぴちぴちしているせいで他の冒険者からお触りをされそうになることもある。が、とても動きやすいので、ひらりと避けてお終いである。
「マスター、グレイだ。受け取りに来た」
目的の武器屋に着くと、恰幅の良いご主人と、その向こうに……ニコラさんがいた。
グレイを保護した時に看病を一時お願いした看護師の、ニコラさん。僕に気付いて、奥からどたどたと、大きな体を揺らして向かってくる。
「あれっ、ニコラさん?」
「あれまぁ、ロロちゃんじゃないか!こんなところにどうしたんだい?」
「こんなところって……友人の注文品を取りに来たんです。ニコラさんは?」
「ああ、お友達が出来たんだねぇ!良かった良かった!んで、こいつはあたしの亭主さ。お昼を作ってから神殿に出勤しようと思ってねぇ」
僕に友達がいないことを知っているニコラさんが、嬉しそうに笑う。ニコラさん、僕の悪い噂を(今は消えただろうけど)知っているだろうに、何も言わない。嬉しい。へへへ。ニコラさんって本当に幸せそうに笑うから、こっちまで伝染してしまうんだ。
「へへへ。そうだったんですね!お疲れ様です。あっそうだこれ、ニコラさんにおすそわけ!」
「おや、悪いねえ」
小瓶に入った琥珀蜜を渡すと、嬉しそうに受け取ってくれた。代わりにと、謎の煮物を大量に貰う。いつもくたくたすぎて具材は不明なのだけど、ニコラさんの煮物は美味しいので大好き。
グレイは覚えているかな?と思って横を見上げると、今の僕との会話を聞いて思い出したみたいだった。
「その節はどうも世話になった。礼を言う」
「あ~気にしないでおくれ!それで飯食ってんだし、あたしゃ記憶の良い方じゃないからね、すぐ忘れちまったさ」
「……そうか。ありがとう」
ひらひらと手を振ったニコラさんは、また奥とお店を行ったり来たりして、お茶を全員分出してから出かけていった。忙しい人だなぁ。
ご主人は丸太のような腕で、とてつもない大きさの大剣を持ってきた。ゴト、と置かれた時の音で、どれだけ重たいのか想像出来る。これ、僕、絶対持てない。
「これが注文の品だ。手にとって確認してみてくれ」
「分かった」
グレイはそれを、片手で持ち上げた。腕に血管が浮き出て、筋肉が躍動する。きっと今一瞬あれば、この場にいる全員をなぎ倒すことも出来そうな気迫に、思わず慄く。
「すまない、ロローツィア。怖がらせたか」
「え。……ううん、ちょっと……僕が臆病なだけ」
「いや、分かるよ。おれもゾクッとしちまった」
ショーン様が同意してくれる。やはり、何か感じるところがあったのだろう。ジキル先輩とアレキウス様は何が何やら、キョトンとしていた。多分これは、戦っていく中で身につけた警戒心というやつだろうか。
「マスター、少し振り回したいのだが、近くに場所はあるか」
「いや、ねぇな。王都は土地代が高ぇからよ。代金を払ってくれりゃ持っていっていい。一ヶ月は手直し無料だ。破損は別だから丁重に扱えよ」
「分かった。ありがとう。これを」
グレイは残りの代金を渡すと、大剣をホルダーに仕舞って背負った。かか、格好いい……!
僕の想像していた“転生主人公”そのものだ。男らしく精悍な美形で、さらさらの黒髪に、色っぽい深紅の瞳に、逞しい体つき。
はぁ……神様は理不尽。僕を童顔にしたのは元日本人だから?そんな無駄な配慮は要らなかった。
勝手に落ち込みそうな所を無理やり切り替えて、グレイに聞く。
「どう、グレイ。試し切り、行けそう?」
「ああ。手に馴染む感覚があった。おそらく問題は無いが、早く試してみたい」
「ふふっ、そうだね。では、皆さん移動しましょう」
一旦グレイの寮の部屋まで戻ったのは、扉の出す場所に帰ってくるから。疲れた後、街から寮まで戻ってくるのは大変だよね。
「では、ここで【聖なる越境】を使わせて頂きますね」
「何だい?それは」
「ちょっとした便利な移動……のようなものです。穢れている土地限定なのですが」
真っ黒な扉と、やや薄い黒の扉が現れる。
どちらにせよ、穢れの中心から離れたところにワープするので、扉を潜った瞬間に噛みつかれる、と言った心配は無い。
「では、行きましょうか!」
ほとんど黒に近いグレーの扉を、開けた。
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