僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

41 肩慣

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 それぞれ武器を持って、未開拓な森の中へとワープした。僕とグレイが先頭になって、残りは少し後ろ側へ離れてもらう。


「僕は防御魔術を使えるから、グレイは僕を気にせず思いっきり戦っていいよ」

「それは助かる」

「ふふ。あ、来たよ」


 まだ穢れの中心からは遠いので、魔物も弱い。けれどグレイの試し斬りにはいいかもしれない。

 僕は自分の周りに【光の盾】を張り、彼の間合いから逃れた。草陰を揺らしているのは“一角兎ホーンラビット”だと、【聖なる導き】さんが教えてくれる。


 ぴょんっ!

 飛び出してきた兎は、鋭く生えた牙を剥き出しにしたまま、グレイの大剣で薙ぎ払われた。パスンッ!と小気味良い音と共に、一刀両断される。

 トマトでも切った?と言うくらいに軽々と。……何と言うか、戦力過多だ。あまり可愛くはない兎さんでも、可哀想になるくらい。


「……もう少し、奥に行こっか」

「ああ」


 やはり物足りなかったみたい。

 落ちた一角兎を聖ポケットに収納し、奥へ進む。パキパキと小枝を踏み折り、足の置き場を確かめているのは、後続の殿下たちも安全に続けるようにという配慮みたい。さすがグレイ。

 けがれ、というのは瘴気の塊だ。見た目は黒紫色をした水溜みずたまり。これが大きいほど、強い魔物が産まれてくる。


 今いる場所は、水溜まりは手のひら大くらいなもの。それを【浄化】するのだが、小さいものはそこらじゅうにポツポツとあるのでコツコツ浄化しないといけない。

 最も、指先ほどの極小さいものは無視。キリが無い。黒いGの付く虫の卵みたいなものだね。数十年は悪さしないので、今後大きくなってきたらその代の聖者が浄化してくれることだろう。


 手のひらを翳し、浄化をする。僕の手から光の粒が降り注ぎ、黒紫の水たまりに満ちて、どんどん小さくなっていく。最後には、『しゅぽん』と間抜まぬけな音を立てて消滅した。


「神々しい。ロローツィア、綺麗だった」

「ありがとう。神様の光だからかな、綺麗だよね」

「ロローツィアがな」


 グレイにさらりと言われ、『うぐ』と変な声が出る。こっ、これはほら、キラキラエフェクトみたいなもので、僕自身が綺麗なわけでは無くて、トリックアートとかマジックミラーみたいなもので!


 と誰かに言い訳しながら、奥へと進む。グレイの背中は、制服のシャツと違い隆起した筋肉の線が分かる。はー、こんなに格好いい人を作るのに、神様はどれだけガチャ回したのかなってくらい、神々しい。


 グレイの動きはどんどんなめらかに、生き生きとしていった。

 僕の【祝福】が刻まれてしまった左腕も、盾として上手に使っている。そうは言っても生身の肉体なのだから恐怖はあるだろうに、キン!と人間離れした音を立てて魔物の攻撃を払う。魔物は可哀想になるほど蹂躙されるばかり。

 僕だって“一応”ミスリルの杖を装備して構えていたのに、全く使うことはなく、皆んなのツアーガイド兼タイムキーパー的な役割をするだけで終わってしまった。


「そろそろお腹が空いてきましたから、ご飯にしましょう」

「そうだな」


 【聖域】を広げ、安全な場所を作る。グレイは先ほど捕らえた“飛鶏コッコバード”を手早く捌いて焼き始めた。なんてワイルドなの?えっ?


「旅では頻繁に作る。簡単なものだけだが」

「すごい……!じゃあ、僕はスープを作るね」

「ああ、楽しみにしている」


 グレイの男飯おとこめしの調味料は塩と胡椒だけ、みたい。それだけでも新鮮なお肉だから美味しそうだけど、いくつかガーリックや唐辛子などを聖ポケットから出して渡した。


「これ、使ってみて?更に美味しくなると思う」

「用意がいい。助かる」


 なんせ僕には聖ポケットがあるからね!普通なら鞄の中で潰れて汁が出てしまうものも、安全に持ち運べる。今日の僕、ガーリック運びくらいしかできないので活躍させて。

 ジュウジュウと肉汁のたっぷり沸き出る音と、ガーリックの良い匂い。聖域の外にまで洩れ出て、よだれを垂らした豚男オークが出てきていた。僕の聖域に入れやしないけど。


「殿下、あれは片付けてきましょうか?見苦しい……」


 騎士さんたちが豚男を指し示す。……僕を一身に見つめて、股間を膨らますのは間違っている。僕は男だ!

 たっぷりの脂肪で大きな体をした豚男は、女性を見ると興奮する魔物。被害に遭う村人もいて、要討伐対象な危険な奴らなのだが……。

 ふんす!怒ったぞ!


「僕、行ってきます」

「えっ!?ロローツィア、それは」


 アレキウス様が慌てている間に、ミスリルの杖を持って聖域から出る。だらしなく舌を出し、鼻息を荒くして襲いかかってくる豚男を、ポコン、ポコンと殴打し倒していく。

 杖によって頭頂を粉砕された豚男が、下卑た笑いのまま絶命していった。まったく、なんて奴らだ。間違いを訂正もせず死んでいくなんて。


 十数匹を掃討し、素材を聖ポケットに回収をしたら、残りは【聖火】で火葬した。骨をも燃やし尽くされ、灰になって消えていくのを、グレイたちがぽかんとした顔で見ている。


「…………俺の手助けは要らなかったな。ロローツィア、相当強いんじゃないか?」

「あれくらいなら、僕でも大丈夫。もっとハイクラスになると手も足も出ないよ」

「さっきの青白い炎は?あれが使えれば、ほとんどの魔物を燃やせそうだが」

「あれは、残念なことに命のあるモノに使えないんだ……お料理には使えるけど」

「そうなのか。しかし、それを抜きにしても素晴らしい手腕だった」

「えへへ、ありがとう!」


 グレイに優しく頬を撫でられる。その指には返り血がついていて、拭ってくれたんだと分かった。

 ほっこりしたような照れ臭いような気分で、ようやくご飯にありつけると思ったら、アレキウス様たちのときが動き出した。


「あれ……、ロローツィアって、可愛いのにかなり強いんだな……?」

「あのナリで……」
「あの顔で……」
「あのポコンって可愛い音で、どうしてああもグロいことになるんだ……?」


 失礼な!彼らだって、豚男くらいは倒せるに違いないのに、僕には出来ないという前提で見ていたみたい。
 僕の小柄さと童顔から繰り出される攻撃は弱そう、という先入観を、ここで変えてくれたらいいなぁ。


「ロローツィアが手早く倒してくれたし、もう食うぞ」

「うん!僕も食べたい」


 グレイの作ってくれた骨付き肉に、齧り付く!むぁ、すっごく美味しい!
 口いっぱいに溢れ出る熱い肉汁が垂れてしまう。ポタポタと汚しても気にならない美味しさに、顔全体が綻ぶ。


「豪快に食べるのは、見ていて気持ちがいいな」

「あっ……そうだった。つい、冒険者の装備だと気が緩んでしまって」

「いや、いい。俺も同じだ」


 とか言っているけれど、やはりグレイはどこか上品な食べ方だ。僕なんか『あとで【清浄】かければいいし~』と適当な食べ方をしているもの。恥ずかしい。
 気持ち小さめに齧るようにした。グレイに見られていると思うと、なんだか大口を開けられない。

 皆で和気藹々と、ワイルド野営飯に舌鼓を打っていると、やっぱりどこからか豚男がやってきて、涎を出したり股間を膨らませたりしている。もう、こっちは食事中だってのに。

 アレキウス様も気分を害したようで、食べ終わった騎士さんから駆除しておくように指示をしている。


「男にも発情するものとは、初めて見たな。ロローツィアがオメガだからか?しかし、この距離では分からないだろうに」

「顔立ちが繊細だからなぁ、ロロは。女の子と間違えられてんだろ」

「ショーン様、それは言わないで下さい!気にしているんですから」

「おっと、すまん。カワイーってことだ。褒めてるんだぞ!」

「褒められているようには聞こえませんけどね」


 ぶうと唇と尖らせる。
 僕の成長期はこれから。可能性はたっぷりあるんだから!……たぶん。





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