僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

42 守護

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 学園の男たちの間では、野外討伐実地訓練トレーニング・キャンプに向けた訓練が始まっており、どことなく浮き足だっていた。

 なぜなら、淑女の皆は、防御魔術の一つである【守護】をお守りにほどこして、意中の生徒に渡すという慣習があるからだ。意中でなくとも、親戚や家族に渡しても良く、特にそこに好意が無くとも貰えれば嬉しいものらしい。

 各属性それぞれに【守護】の魔術はあって、割と初歩で学べるが、効果はとても弱い。例えば火属性の魔力の子がかける【守護】は、火属性魔術に対する防御力が若干上がる。それ以外の属性や、物理攻撃には効果はない。

 しかし、ほんの気休めでも、誰かから『無事に帰ってきて欲しい』と願われるのは嬉しいだろう。


「ロロに貰いてぇなー」

「すみません……けど、ショーン様はたくさん貰っていますよね」

「ロロのには敵わねえーよ!欲しいなー欲しいなー」


 ショーン様が頬杖をかいてジーっと見てくる。そうガン見されたって、差し上げられないものは差し上げられない。


「商売道具の一つですし、神聖属性の僕がやってしまうと、魔物が出てこなくて訓練になりませんよ?」

「それは強すぎるな……」


 アレキウス様が呆れ声を出したけど、そう。僕が込める魔術はなかなか強いらしく、馬車などで郊外を旅する商人さんたちに大人気の逸品。

 一つ50万ゴルルドというとんでもない高額商品の分、魔物に襲われることは完全に無くなる。あ、盗賊は無理です。一年間しか持たないのは、そうするよう神殿に言われたからで、本気を出せばもっと出来るけど秘密である。

 そんなものをアレキウス様たちに渡したとしたら、訓練ではなくただの散歩となってしまう。


「それはそうと、こないだ一緒に狩りに行って、ロロくんが何故浄化をし終えてないのに『聖者』の称号を得られたのか、納得したよ」

「ジキル先輩……納得、してなかったんですか?」


 ははは、とわざとらしく笑う先輩。飄々ひょうひょうとして親切そうなんだけど、実は本心を見せない人なんだと、最近わかってきた。


「能力が高すぎるんだ。浄化だけじゃない、戦闘も、野営もできてしまう。下手に騎士がついても足手纏いになるくらい」

「い、言い過ぎですよ……」


 褒められて照れてしまう僕はチョロい。けれど、ジキル先輩は辞めてくれない。


「神聖魔力保持者に浄化の旅をしてもらうための、予算がある。けれどロロくんは事後報告で『ここ浄化しておきましたよ』でしょう?その予算がまるまる宙に浮くんだ。そのうちの何割かをロロくんへ渡してもまだまだ余るくらいにね。陛下もそりゃ助かるってことさ」

「本来なら騎士たちを総動員するために計画をして、行ってきたら休養や看護も必要だ。遠征の手当ても優秀者の報酬も……それらが不要なものだから、もっとロローツィアへ報酬をあげてもいいものだが」


 アレキウス様が少し渋い顔をする。いやいや、十分貰ってるよ!?僕も見知らぬ騎士さんたちと旅に出るとか気遣うし嫌だもん!


「ぼ、僕はその、強くなりたくて勝手にやったことですから、報酬を頂くのもおこがましいと言いますか。でも言わないとあの、怯えて暮らす人たちの心労もありますし、お金は正直有難いですし」

「そういう所が謙虚でいいよなぁ、ロロは」


 後ろから肩を組んで来たショーン様。熱い筋肉に取り囲まれたと思えば、一瞬でグレイに引き剥がされる。


「離れろ」

「聖者の近衛騎士ってのもいいな?そー思わねぇ?」

「それは勘弁して欲しいですね……」


 ショーン様がにっこりと迫力のある笑顔を向けてくるけれど、グレイの背中を盾にさせてもらう。

 家族以外の人につきっきりにされるなんて嫌すぎる。丁重にはっきり断ると、ちぇ、なんてさほど残念そうでもなく唇を尖らせているので、冗談のようで良かった。


「それにしても、あのエカテリーナは大人しくしているな。何を考えているのやら」

「そうですね」


 ジキル先輩は顎に手をやりながら、殿下に相槌を打つ。


「淑女たちは訓練に直接参加はしないし、何か企もうにも無理がある。彼女はもう侯爵令嬢でもないし、何かやらかせば終わり。それを分からない程の知性ではないと、思いますが」

「まぁ……そうか」


 エカテリーナ様は、周りからチクチクとされていたけれど徐々にその圧も薄まっていった。なんでも、責められている時に大きな瞳に涙を浮かべて、必死に耐えている姿がいじらしい……とかで。

 魅了の薬がなくったって、エカテリーナ様はとても可愛らしい姿をしているものだから、悪口を囁き続ける人は少なくなった。遠巻きにはされているけれど。喉元過ぎればってやつかな……。













 みんなで行った肩慣らしの後、グレイと再び同じところへ向かって鍛錬していたら、知らぬ間にその地の浄化を完了してしまっていた。

 決して良いところを見せたいと張り切った訳じゃない。グレイがぬるぬると魔物を斬るので『まだいけそうだね~』と、浄化して歩いていたら、終わっていたのだ。グレイって、軍一つ分くらいあるのかな?


 そんなこんなで、ばっちり準備運動は完了して、訓練の本番を明日に控えていた。


 打ち合わせも問題なく進み、今日だって有意義な作戦を話し合えた。存分に休息を取らないと、と寮へ帰る寸前、不意にアレキウス様に呼ばれる。


「少し、話がしたい……いいか?」

「はい、何用でしょうか」


 アレキウス様の私室へと呼ばれた。側近の皆さんはいない。珍しいな。アレキウス様の侍従さんと護衛騎士さんが、置物のようにうすーく存在しているだけ。


 バルコニーへと手を引かれて、夜のひんやりした空気を吸い込んだ。何なのだろう?

 アレキウス様はもじもじと唇を伸ばしたり丸め込んだりした後、言いにくそうに口を開く。


「浄化の旅だが、あと一箇所残っている。その認識で合っているか?」

「はい。仰る通りです」

「堅苦しい言葉は使わなくていい。私とロローツィアの仲だ。な?」

「は、はい」


 じわじわと近づかれ、そっと手を取られる。熱心に見つめてくるアレキウス様は、きらきらとしたオーラを纏って見えた。


「んんっ……そうだな、ロローツィアには学園じゅうの、たくさんの患者を診てもらったな。ありがとう。そういえばロローツィアは、【診察】しているときはどういう風に見えているんだい?顔とか、容姿は」

「お顔ですか?ええと、人間自体、ゆらゆらした炎の塊みたいです。悪いところははっきり分かるのですが、それ以外はほとんど分からないのです」


【診察】中は、真っ暗闇の中にぼうっと魔力の揺らぎが見える。当然、服とかアクセサリーが見える訳でもない。近くに寄るほど鮮明に映って、触れれば悪いところが浮かぶけれど、接触なしでは体の中深いものほど難しい。


「そうなのか……、いや、実は私は、学園に入る前に、ロローツィアに会ったことがあるんだよ。知っていた?」





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