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本編
46 野営
しおりを挟む緊急信号を見た教師たちがすぐにやってきて、青ざめながらオーランドたちの状況を判断し、彼らは棄権することとなった。
「では、もう治していいですよね?」
気押されたように慌てて頷く教師たち。
僕だって分かっている。治癒は慈善事業じゃない。けれど、治せると分かっている重体の人を前に治癒を我慢するのは、どうしてもイライラしてしまう。
オーランドの足をにょきにょきと再生しながら、きっと後で、とんでもない高額の請求が侯爵家にされるのだろうと想像した。
やっと全てを再生し終えた頃には、僕もかなり疲弊し、崩れ落ちてしまう。そういや徹夜同然の状態だった……。
ぽす、とグレイの腕に受け止められて、ああ、安心だ、と思ってすぐに意識を失った。
ふと目覚めたら、天幕の中に寝かされていた。毛布が何枚も厳重にかけられているのは、きっとグレイかな。
その外ではガヤガヤと賑やかな声がして、僕は重怠い体を起こして外へ出た。みんなが焚き火を囲み、アツアツのシチューを作っていた。温かで美味しそうな匂いだ。
「わ、すみません!僕、お手伝いもせずに……!」
「いや、ロローツィア、まだ休んでいていい。夕飯は……食べられそうか?」
ぐぅうとお腹が鳴り、慌てて手で押し込むも、黙らない。
恥ずかしくて俯いた目の前に、グレイが皿を差し出してくれた。
「一番の功労者なのだから、気にすることなど一つもない。ほら」
そんな、と思って周りを見渡すと、あちこちからきらきらした視線を貰った。どうやら、僕が聖者であることをみんな改めて?ようやく?認識したようで、オーランドの足を再生したことがよっぽどの衝撃だったみたい。
そんなことを言うのなら、目とか心臓も再生できるのだけど……目の前で見たりしないと、そうそう実感できないよね。
グレイをちらりと盗み見ると、もう食べ終わって、僕のためにお茶を沸かしてくれてるみたい。うう、優しい……。
さっきの女郎蜘蛛を断ち切ったのも、僕たちを背中に守ってくれたのも、とてもとても頼もしかった。強くて優しいなんて、どこの勇者か英雄ですかって。守ってくれたのは僕だけじゃないのに、もしかしたら、グレイの中で僕は大事な存在なんじゃないかって、勘違いしてしまいそうだ。
隣の格好良すぎる人を意識すると、お腹は空いているのに胸がいっぱいになって苦しい。よくない。
頭を振り払って、皿に手をつけた。ジキル先輩がメインになって作ってくれたシチューは絶品で、一口食べればどんどん進む。
食べている間、周りを観察していると、先生たたちが疲れた顔をしながら荷物検査をしていた。騎士養成学園の方も人数が多いので、殿下の騎士さんたちも数名動員して。あとでお守り貸し出した方がいいかな。
お腹が温かく満たされると、また眠たくなってきた……けれど、まずは小用を足しに行きたい。
「ちょっと……行ってくるね」
「俺も行こう」
「いや!その!それは!大丈夫!本当に!」
「……そうか?しかし……」
「本当に本当に大丈夫だからねっ!こっそりついてくるとかもダメだからねっ!?」
心配してか付いてこようとするグレイを押し留めて、なんとか一人になれた。ふう。過保護なんだから。グレイこそ一番付いてきちゃだめなんだ。恥ずかしいからね!
ゴソゴソと用事を済ませて、戻ろうとした時だった。
「こんにちは、転生者さん」
その声に、びくりとして振り向いた。
煌びやかな銀髪。瞳孔の開き切った紫紺の瞳。……エカテリーナ様だ。
僕の顔を見て、ふふふっと軽く笑い声を上げている。その後に、ぬっそりと大きな男の人もいたけれど、それよりも。
ここにいてはいけない存在が、いる。
エカテリーナ嬢の腕に抱かれているのは……僕の、弟。
一番下の弟が、彼女の腕の中ですやすやと眠っていた。
「お化けでも見たみたいな、間抜けな顔ね!ふふっ、どう、良い夢は見れた?そろそろ、わたくしに返してくれる覚悟は出来た?」
「なんの、お話、ですか」
先ほど見た、女郎蜘蛛と同じニオイを感じた。狂っているのに、本人だけが気付いていないような。
「うふふふふふっ!そりゃあ、ねぇ?攻略対象たちに決まっているでしょぉ?みんな、みんなわたくしのものだったのに、あんたが全部台無しにしたの……!」
急に憤ったエカテリーナ様は、僕に向かって何かを放った。ジュウッ!と音を立てて、肌が熱く焼ける。なんだこれ、火……っ!?
「フフッ!それ、治しちゃ、ダメよ。今のあんた、すっごくブサイクだわ。でもね?治すのはだぁめ。この子がどうなってもいいの?」
どうやら、エカテリーナ様の火属性魔術を受けたらしい。顔が熱く、ジュウジュウ燃えている!
「うう……っ!まさか、父は、母は……!?」
「さあ?気にしたことないからわからないわぁ。ねーぇ?」
エカテリーナ様に同意を求められた僕の弟は、まだ眠っている。おかしい、気配に敏感な末弟が、この状況で寝続けているなんて!!
両親の絶望した顔が思い浮かぶ。愛情深い父と母は、何を言われても子供を引き渡すことなどないはず。こんなことになったのは、僕のせいだ……!
ぴりぴりと肌が焼けて痛いのを、必死に我慢しながら彼女へと問う。
「何が、目的で、こんなことを?」
「えーっ?」
「僕が、お嫌いなんですよね。だから、危険を冒してまで、僕の家族を人質に取った」
「ええ、まぁ、そうね。うーん、端的に言うと、死んで欲しいのよね」
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