僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

54 試験

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 アレキウス第一王子殿下が他国の姫様と華々しく婚約式を挙げると、国中が祝福に湧いた。

 僕も聖者として派手なパフォーマンスを依頼されて、快く承諾した。アレキウス様はどう思っているか分からないけれど、僕としてはアレキウス様のことは祝福したいと思っているから。

 アレキウス様とお姫様の手によって、婚約調印が成立した神殿で、僕は一番格式の高いキャソックを纏い、進み出る。


「今代の聖者、ロローツィアと申します。お二人の幸せな未来を願い、祝福いたします」


 なんて格好つけて、両手を天に。軽い【浄化】を出来る限り広範囲にかけると、まるで光の雨粒が僕を中心にして降り注ぐ。雨垂れは波紋のように広がって、遠く見えない国土にまで及ぶ。


「なんて美しい祝福なんだ……!」


 王妃殿下の嘆息する声が聞こえてくる。満足した僕はおごそかに腰を折り、そのまま下がった。聖者のお仕事中は基本的に髪も目元も覆っている。ミステリアス聖者で通っているんだから。

 でも、ちゃんと歩けるから心配しないで。僕には【診察】があるからね!

 裏で待っていてくれたグレイと合流する。目元を覆っていた布を取って、抱きついた。


「見てた、グレイ?緊張したぁ」

「素晴らしかった。向こう10年は語り継がれる美しい光景だった。ありがとう、ロローツィア」


 ぎゅっ、と抱きしめられると、僕の緊張はゆるゆると解けていった。代わりに、好きな人に抱きしめられている高揚感で心臓がまた、トクトクと心地よく走り出す。



「見せつけてくれるな、グレイリヒト。……ロローツィア殿」

「お、お義父さま!」


 渋い声が聞こえて、慌てて体を離そうとする……けど、余計にぎゅっと抱き込まれた。グレイにそっくりの、けれど歳を重ねて威厳も風格も兼ね備えた辺境伯が、やってきていた。


「ぐ、グレイ!お義父さまが……」

「よいよい。あのグレイリヒトが、こうも執着しているとは……早く結婚させてやらないとな」

「お、お世話になります」

「私も嬉しいんだ。君のような可愛い義理息子が出来る!妻も張り切って準備しているから、息子をよろしく頼む」


 一応ご挨拶はしたことがあるけれど、まさかこんな、現場をばっちり見られてしまうとは!
 恥ずかしくって後ろめたいのに、グレイは父親すら警戒したように僕を離さなかった。


「…………ははっ、父親すら威嚇するとは。これは新婚が大変そうだな。はっはっはっ」

「へ?え、あはは……」


 お義父さまの言う意味が分かったのは、もっとずっと後の事だった。









 学園では学期末の試験が控えていた。講義は午前中だけで、午後は自習となる。僕はグレイと一緒に図書館で勉強することになったのだけど、とある事実に気付いてしまう。


「集中、出来てしまう……」

「なにか分からない所があったか」

「ううん!今の所大丈夫、ありがとう」


 グレイの眼鏡姿も新鮮でキュンとする。だめ、グレイを見ると背景にハートが浮かんだり飛んだりするから、自分の手元だけを見るんだ、ロローツィア!

 そうすると、集中出来る。出来てしまう。どのくらいかって言えば、空がいつの間にか暗くなるくらい。
 それはきっとグレイも自分の勉強に集中しているのと、気配を消しているからだ。

 学生の本分は勉強。いいことだ。うむうむ。いいことなんだけど……ちょっと、寂しい。

 今日も勉強会を終えて自室へ戻り、家族に伝書鴉を飛ばす。人質にされた経験で、これまで以上にこまめに連絡を取るようになった。髪の毛をちょいと啄まれてしまうけれど、致し方なし。


「はぁ……」


 試験の結果は、大事だ。食べる時間以外のほとんど全てを勉学に費やさないと、上位は取れない。けれど、グレイが、僕を見つめて微笑んだり、口付けをしなくなったのが、寂しいのだ。
 それも、『禁欲中だ』と説明を受けた。分かる。分かるよ。口付けしていたら、おなかが悶々としてしまう。

 だけど結局今だって、触れてこないグレイに悶々としている。だったら、いっそ触れ合っちゃった方がいいのでは!?


「はぁぁぁあ~…………」


 ううん、ダメ。頑張っているグレイを邪魔なんか出来ない。僕の堪え性のないのが悪いんだ。








 そう考えた僕は、一計を案じる。


「グレイ!あのね!」

「ああ、どうした?」

「今日からは、別々で勉強しよう!」

「……あ"?」


 一瞬でガラの悪くなったグレイに気付きもせず、僕は教本を抱き抱えて、グレイの目を見ないようにするのが精一杯。だって、見て終えば決心が揺らぐから。

「あの、僕、(グレイを見ているとよこしまな気持ちになっちゃうから)お部屋で勉強することにしたんだ。あと数日だし、それでいい?お互い、頑張ろうね!」

「…………………………………………………………分かった」


 急いで踵を返す僕は、知らない。

 グレイが、じっと仄暗い瞳で僕の背中を見つめていたことに。









 
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