僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

55 解禁

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 グレイを極力目に入れないようにして、数日が経った。


 グレイから離れると、生徒たちとの距離がよく分かる。腫れ物のように一定距離を保たれて、ふい、と目が合うと気まずそうな顔。僕のことを噂していた人が多かったからかな。けれど貴族って、噂をするのがお仕事みたいなものだと理解しているよ。

 身辺が静かで嬉しいな。おかげでグレイを考えて悶々する暇もないくらい、のめり込むように自習ができる。

 勉強は得意ではないけれど、頑張りたい。僕には期待をしてくれる親もいるし、弟たちには格好いい兄でいたいから。


 たしか、出来立ての恋人にうつつを抜かし、成績が下がるなんていうことは日本でも良く聞いた現象だ。親にも『婚約者のせいで成績が下がった!』なんて思われたくない。



 必死で机にしがみついた結果、絶好調で試験を終える。我ながら、全力は出せたと自画自賛だ。


「ようやく終わったね、ロローツィア。どうだい、出来は」

「はいっ、なかなか、良い具合に解けたと思います!アレキウス様とショーン様は?」

「おれはまぁ、それなりだ!赤点は取ってねぇ……と思うぞ」

「私もそこそこに。どうだ、この後答え合わせを……」


「ロローツィア」


 ビクウッッ!!

 うっ……ま、眩しい!

 久しぶりに直視するグレイは、もはや芸術品。滑らかな黒髪も、きりりと精悍な眉も落ち着いた低い声も全部、立ち昇る色気をかもして僕を直撃した。


「うっ……」

「皆、ロローツィアを借りるぞ。返すことはないが」


 グレイはそう不遜に言い放つと、僕の手をきゅっと握る。か、可愛い。言葉の強さと行動のアンバランス!!
 ぽわぽわと連れ去られるまま着いていくと、足早に人気のない廊下の隅へと入っていく。


「……?」

「ロローツィア、お疲れ様だったな。試験は」

「あっ、う、うん。グレイも!お疲れさま」

「ああ。だから、もう解禁していいか」

「え?」


 抱き寄せられた瞬間に、ギュンッと音を立てて心臓が跳ねる。性急な口付けにまた二度跳ねて、グレイを落ち着かせるように背中に腕を回した。嬉しくて!


「んんっ、あ、う、嬉しい。グレイ……っ」

「……俺を、避けていたんじゃないか?見るのも、嫌なくらいに」

「ち、違うよ!」


 不安そうな声に、ガシッと美貌を両手で挟んだ。むにむにと頬を押し潰して、よーく言い聞かせなくちゃ。


「僕、グレイの邪魔をしたくなくて。だって、見れば見るほど構ってほしくなるから……あ!でも、だから、その、」

「……すまない、ロローツィア。嫌いになったなんて、言わないでくれ」



 きょとん。えっ?



「……………………えっ!?」

「もう、手遅れだったのか……?」


 子犬のようにしょげる恋人に、僕の心はひどく傷んだ。こんな、悲しい顔をさせたくないのに!


「まさか!あのね、グレイの顔を見なかったのは、ごめんね。好きって思っても触れてくれなくて、ちょっと不満で……、あっ、違う、僕が悪いんだ。だから、あんまり意識しないようにしててね、」

「ロローツィア…………」

「だっ、だから!試験終わったし、たくさん見てもいい?僕、グレイをずっと眺めていたいんだ!」


 ………………あれ?

 自分で言ってて何か違うような気がして、首を傾げた。僕が言いたいのは、そうじゃない。見つめた時に、見つめ返されたい。触れて欲しい。僕を欲しがって欲しいということなのに、うまく言葉が出ない。

 だから。

 僕はグレイの首を引き寄せて、屈ませて、ぎゅっとした。不安定な爪先立ち。安心したかな、と思って少し離れると、グレイの瞳が近くにあって、その距離はすぐに、ゼロになった。






 グレイの自室にお持ち帰りされた僕は、真昼間だと言うのに寝台へ押し倒された。早急に服を脱がされる。は、恥ずかしい……っ!
 がばりとシャツを脱ぎ捨てたグレイは、見事な肉体美を太陽の元に晒して、どこもかしこも僕を釘付けにする。


「ああっ、カーテン、閉めて、お願いっ!」

「無理だ、余裕がない」

「あるから、丸見えだからっ!」

「寝台にいれば問題ない」


 グレイはそんな僕の言葉に構わず、口付けを降らせてくる。熱い舌は僕の舌ばかりか脳まで翻弄して、悪戯な手が胸の飾りや腰の弱い所、鼠蹊部の際どいところまで優しく愛撫していく。

 少々強引なのに、少しも恐怖はない。あるのは動悸と好奇心だけ。なめらかにからだを這っていくグレイの手がえっちでたまらない。まだ多少理性の残る頭で、僕はふと思い出す。


「んんっ、あ、グレイ、あのね、あのね……!」

「……なんだ」

「僕、ヒート、じゃないんだけど……っ」


 婚約者といえども、情交は“やむを得ない事情がある”時だけ。アルファとオメガなら、オメガのヒート時、婚約者がパートナーとして相手をすることはまま許されているけれど……。


「問題ない。ロローツィア。君は今、ヒート。ということだ。だから、安心して身を委ねていろ」

「なに、それ……っ、ふ、ふふっ」

「フェロモンで本能に乗っ取られる前に、君の乱れた姿を目に焼き付けたいんだ」

「――――っ!」


 そんなことを言われたら。


「…………せきにん、とってね」

「喜んで」










 
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