僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

文字の大きさ
58 / 76
本編

58 実家

しおりを挟む



【癒しのオアシス】を発動し、グレイの手を引いて別次元の世界へと入っていく。


「ここは……?」

「僕が結晶化していた時、ここにいたんだよ。本来は肉体ごと入れるものでね。見て、釣り堀もある」


 穏やかな田舎の風景。湖の近くには消失蜂の巣も設置した。【聖なる安眠】で穢れの抜けた消失蜂たちはテイム状態になっていて、せっせと琥珀蜜を作っては献上してくれる。
 うさぎさんももふもふを提供してくれるし、泉に魚はいないけれど、何かを釣っているような気持ちでボーッと過ごすのも乙なもの。

 得意気に胸を張ってグレイを見ると。


「良いところだな。ロローツィアの気配に包まれているような心地だ」

「へっ!?」


 グレイと一緒に滸へ座り、ゆっくりと流れる時を感じる。手をつくと、その上から大きな手が重なって、ぽかぽかと熱くなる。
 照れてしまって俯いていると、ふとグレイが言った。


「そういえば、俺も聞いていいか……君は、オーランドと、どこまで……」

「あ」


 あっ……、そ、そういえば、そんなこと、あったな。
 とぉ……っても遠い昔の出来事のような気がする。思い出して顔を顰めた。うう、あれはひどいものだったな。その後強制ヒートの時に、グレイとキスしたらしいけど記憶にないし、看病の一環だったし……。


「言いたくなかったらいい。言わなくても」


 僕の苦い顔を見て、グレイが気を遣ってくれる。けれど、僕も正直なところを話したい。というか、吐き出したい。


「えとね。ちょっと待ってね……僕の中のファーストキスは、グレイに結晶化から助けられた時だったんだ。正確に言ったら違うんだけど、そういうことにしたい」

「……?あ、ああ」

「オーランドに唇ぶつけられたことはあったよ。でも、すごく…………………戦い、みたいだった……。僕が望んだ訳じゃなかったから……」

「分かった。すまないな、思い出させてしまって」


 思い出してもあれは、事故だ。

 死んでると思ってたセミさんが、突然顔に飛んできたあの時も唇にぶつかったし、そもそも両親にぶっちゅーとされている気もする。うんうん、両思いになってからのカウントだよね。

 僕の顔色を心配したグレイが顔を近付けてきたので、僕から唇を合わせてみた。少し面食らったようなグレイだけど、すぐに応じてくれる。優しくて気持ち良いキス。もっともっと触れたくなるようなキスを。

 比較するまでもなく、極上のキス。

 少しだけ息が上がった頃、グレイがぽそり。


「あの小屋に、寝台はあるのか……?出来るだけ、大きな」

「………………………………ある」


 怪しい色気を放つグレイに抱っこされた僕は、コテージの中にキングサイズベッドを設置……しちゃう、よねぇ。








 試験の結果は上々で、僕は学年10位!グレイは5位、ショーン様は30位だったけれど、アレキウス様は1位だった。さすが王子様。

 長期休みに入って、僕はグレイと一緒にマカロン男爵家へ帰省した。屋敷自体は古くてこぢんまりとしているのに、国から派遣された騎士さんたちがものものしく取り囲んでいるのを見ると、何か危ない闇の組織のようにも思えてきて面白い。


「兄ちゃんだぁ!すげーイイ男連れて帰ってきたぞ!?」

「こらこら、そんな言い方をしない。婚約したって聞いていたでしょう?」

「てっきり山みたいなマッチョかと思ってた!兄ちゃん好きじゃん筋肉!」

「コラッ!余計なこと言わないの!」


 三つ下の弟がペロリと舌を出して逃げていく。グレイは生温かい目で僕たちを見て、決心したかのように、


「もっと鍛えるか……」


 なんて言うものだから、慌てて止める。


「いやいや十分だから!はち切れちゃうから!」

「しかし……ロローツィアのタイプは……」

「違うからね?好きな人がタイプだからね?グレイの体、大好……」


 と言いかけたところで、出迎えに来てくれた父さんと目が合った。満面の笑みが一転、鬼の形相へ変わる!


「小僧!ウチの可愛い長男に何を……っ!?」

「わぁわぁ!ごめんね父さん!違うの!えと!パパも大好きだからねっ!」


 必殺、パパ呼びで抱きつく。父さんは僕を受け止め、久しぶりに抱擁してくれた。もちろん、頭上でグレイにドヤ顔を晒している父親には気付かなかった。


「お初にお目にかかります、お義父様」

「……っ、グレイリヒト・シュトーレン辺境伯令息、ですな。中へどうぞ。ロロ、一旦席を外しておいてくれないか」

「え?なんで?」

「ちょっとした話し合いをする。なに、すぐ終わる」


 にこっというよりニヤリと笑った父親に一抹の不安を覚えたが、母さんも出てきたことだし、大丈夫かなぁ。

 その後、泣きはらした顔の父親がそうっと自室に篭ってしまった。グレイに泣かされた……訳ではなく、ようやく僕が嫁に行ってしまうことを実感したらしい。
 結婚をするのは学園を卒業してからだから、まだ2年もある。まだまだ先の話なのに、大人ってば気が早いんだから。


「ロローツィア、良い人を見つけられて、良かったねぇ……母さんは、嬉しいよ。同じオメガとして、良いアルファと巡り会えることは、幸福だけど、稀だからねぇ……」

「ありがとう……母さん」

「性に無頓着だった子が……心配してたけど、本当に良かった……ふふっ。ああ、学生、っていいねぇ。まだまだ学生、なんだから、楽しむんだよ……」

「はい」


 ゆったりとした母さんは、父さんを慰めに行ってくるといい、僕たちは弟たちにまみれてしばらく遊んだ。






 僕の家族は元婚約者のオーランドが僕に薬を盛ったことで、大変憤慨していた。危ういところを何度もグレイに助けてもらったと言うこともあり、グレイのことはとても好意的に受け入れてくれて、僕も一安心。やっぱり、大切な家族に大好きな人との結婚を反対されたら悲しいもの。良かったぁ。


 婚約はもう結んであるけれど、早く結婚したい。


 この長期休暇は、主にグレイとデート、基い、浄化の旅をする。グレイはアレキウス様がお姫様と交流を深める期間のために側近業務もお休みなんだ。

 浄化を進めても良いと思ったのは、僕の新しい魔術、【聖なるオアシス】のおかげ。

 オアシスにある泉は、現実世界の“神聖属性を持つ湖”に繋がるらしい。湖面にぽわぽわと向こう側の景色が見えて、それに触れると、向こうの湖のほとりへ出られるのだ。

 今の所行けるのは、学園の中の森にある、僕の結晶があった所と、昔意図せずしてモノを落としたことのある実家だけ。でも、他の湖にも応用できるんだ!

 オーランドから貰ったクリスタルリリー。捨てようにも神聖属性の結晶化をさせていたから捨てにくくて困っていたので、王都の郊外にあった湖に落としてみることにした。
 美しい姿を保ったまま、ゆっくりと沈んでいく様は美しかった。きっと湖の底で、お魚さんたちの目を楽しませることだろう。知らんけど。

 これでこの湖にも、神聖属性を付与できた。つまり、いつでも来れるようになったので、浄化してしまっていいと判断したのだ。


「これで、いざという時にも使え……あれ?グレイ?」

「気に食わない。ロローツィア、ここにくるたびに、オーランドの顔を思い浮かべるのだろう?」


 ムスッとした顔つきのグレイが、僕の腰を抱きながら耳元に囁く。ううっ、ズルい。そんなの、かわいくって、ヤキモチ妬いて欲しくて、“うん”って言うしかないじゃないか。本当のところは、全然思い出すこともないのに。


「………………………………う……………………ぅん……?」

「………………代わりのものを、至急用意する」


 その次の日には、グレイから渡された大量のサクラルビーの小枝をぱきぱき結晶化することになった。何房も桜の花房のついた小枝は、本来儚い命。この時期にある訳もないのに、グレイは無理を言って保存魔術のかけられた高価なものを、贈ってくれたらしい。お金持ちは、全く……。

 見事に房の付いた小枝は、そのままで芸術品。結晶化させれば神聖属性特有の透き通った輝きを放ち、それはもう、湖の底で眠らせるのには惜しいけれど……。


「将来、“聖者の道標みちしるべ”として残るのなら、このくらい派手でちょうど良いだろう」

「…………そう、なの……?」

「冒険者が拾い上げようと潜るかもしれないが」

「そうだね……、でも、普通の人は触れないんでしょう?大丈夫な気がする」

「ああ。長く残ることだろう」


 僕の結晶化には特性があった。グレイは『畏れ多い』ような気持ちになって触れられず、エカテリーナ嬢は火傷をし、物体として触れようとした人は弾かれる。触れられる人は神様に選ばれているのかもしれないね。

 だから、湖の底に眠らせても大丈夫。

 最後の浄化地へと入っていく。ここでも、浄化してしまったらワープ出来なくなるから、サクラルビーを沈めないとね!




 僕はすっかり忘れていた。オーランドが治療費を稼ぐために、他国で最も危険な地域、つまり浄化予定地で傭兵をしていることを。




しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...