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本編
59 珈琲
しおりを挟む浄化をするに当たって、僕は魔物から逃げ、コソコソと姿を隠しながら穢れの水溜りを浄化する必要は無くなった。
というのも、グレイがバッサバッサと討伐してくれるから。
安全で、しかも格好良いグレイの背中を鑑賞しながら浄化出来るなんて、とっても効率的……!
周辺からちまちまと浄化をして、疲れたら【聖なるオアシス】で休憩をしたり、眠ったり、……ホニャララしたり。そこは、戦闘の後の昂りを抑えるためという言い訳をさせて欲しい。グレイに押し倒されるとキュンとしてしまって抵抗できないもの。
そんな平和な野営を続けていると、グレイが言った。
「そういえば、ここがどのあたりなのか知りたいのだが」
「……そうだね。近くの街、行ってみる?入れるか分からないけど」
「そんなことができるのか?」
【聖なる導き】を使えば、迷子知らずだよ!
グレイを見つけた時も、これがあったからすぐに出られたし、森の中を遭難することもない。
僕たちが森を出てみると、そこは賑やかに栄える街があった。AランクとSランク冒険者ということで、あっさり入れてくれる。やっぱり、かなり濃い穢れのある土地だからか、高位冒険者は歓迎しているんじゃなかろうか。
「まずは情報収集にギルドかな」
「そうだな。しかし、かなり治安は悪そうだ」
「気をつけないとね」
僕は平民の中では目立つ髪色をしているし、グレイは派手な美形なものだから、それぞれ綿布で隠している。ただ、目元しか出ていないのにグレイの色気が漏れ出ているのって、どういうこと?色気ってマスクすら貫通するんだね……。
僕の髪はターバンで覆っている。最近グレイに愛でられるものだからこのファンシーな桃金の髪でも愛着が湧いてきて、ちょっと勿体無いような気もするけど、目立たないため。
かなり賑やかで活気のある街。生きのいい冒険者がオラオラと肩で風を切って歩いていく。
市場のような雑多な街並みから進んでいくと、段々と賑やかさは落ち着き、小綺麗な通りへと入った。おしゃれをした町娘たちが、キャアキャアと楽しげに笑いながらお店へと入っていった。
「あ!カッフェ!」
「カッフェ」
「ねえ見て!すっごく綺麗でおしゃれなカッフェだよ!きっとこの街で一番素敵なカッフェに違いない!グレイ、入ろう!」
「……ふ。ああ、もちろん」
カッフェとは、前世でも今世でも入ったことがない。なんせ、場所代にお金が必要なお店だから。食べ物は小さくて高く、飲み物も小さくて高いけれど、それがカッフェという、手軽にワンランク上の自分になれる場所。…………と、聞いている。
貧乏から少しは脱却している僕。でもこんなところに一人で入ったところで、まごまごして、そわそわとキョドッた挙句、ササッと出てきてしまうに違いなかった。今はグレイと一緒だから、無敵なのだ。
「わぁ……」
内装も可愛らしく、それでいて男性も寛げるような落ち着きがある。お昼を過ぎ、おやつには早い微妙な時間だからか、席はぽつぽつと空いている。
注文もオシャレな表現が並びに並んでよく分からないので案の定まごついていると、グレイが僕の分もさらっと頼んでくれた。はぁ、僕の未来の旦那様、なんて格好良い……。
「ありがとう、グレイ。僕だけじゃ、絶対諦めて帰ってたところだよ」
「ロローツィアの好みは把握してある。……しかしこれほどカフェが好きなら、王都でも行けばよかったな」
「ふふっ、それならこれから、いくらでも行けるね」
グレイとカッフェを巡るというのも、凄くいい。また行く約束もして、僕の中はハッピーで満ちていく。
カッフェって本当に、そこに存在しているだけで素敵な自分になれる気がするなぁ。でも、どんなスイーツもコーヒーも、グレイには敵わない。結局グレイの側にいるから、自分を受け入れて、好きになれるのかも。
「注文が出来たようだから、取ってくる。ロローツィアは座っていろ」
「……え、僕が」
「すぐだ」
カウンターの所へ行くのすら、グレイにやってもらってしまった。なんて優しいのだろう。そして脚が長い。確かに僕が行くより、速いかもしれない。
「……あ、そうか。僕が行くと溢す可能性が高いな」
一人で納得した。精霊さんによる悪戯はグレイと一緒にいると遠慮なく仕掛けられているような気がする。精霊さん、さてはグレイを気に入ったな?
それだから、グレイは率先して行ってくれたのかもしれない。優しいなぁ。
二人分のカップを持ってこちらへくるグレイに見惚れていると、この素敵な空間にそぐわない、悲痛な甲高い声が聞こえた。
「なんでリリーと一緒なの!?どう言うこと!?ここで何をしているの!?」
「なっ、なぜここに居るんだ、ルカ、今日は仕事のはずじゃ……」
「仕事で通りかかって見つけたんだ!それより説明して、オーランド!」
「…………ごめんなさい、ルカ!だって、オーランドがルカよりあたしが可愛いって言うの!可哀想で……」
げ。
同姓同名だといいな、と思ってソロリソロリと顔を向けると、二人の男女に挟まれている、かつての幼馴染かつ婚約者の、オーランドがいた。
「……そうか。あいつ、傭兵に志願したのだったな」
「そうだったの?まさか、他国のカッフェで会うなんて……せっかくの珈琲が……」
「出るか?」
どうやらオーランドは傭兵業が上手くいっているのか、モテモテのようだった。まぁ、所作は高位令息のそれだし、顔も整っているし、魔術も使えるし……、けれど、恋愛に関しては、やっぱり悪癖があるみたい。もう関係ないけど。
「まさか元婚約者で、有責側で、もう貴族でもない人から絡んでくることはないだろうし、珈琲を飲んでからにしよう。グレイが買ってくれたもの。ありが……」
「ロローツィア!ロローツィアじゃないか!久しぶりだな!」
「げ……」
オーランドはまるで生き別れた親友に会ったように顔を輝かせ、背後に修羅場を背負って駆け寄ってくる。どんな神経をしていれば僕に話しかけられるのか分からない。無神経って、本当に神経が無いのかしら。
即座にグレイが立ちはだかり姿が見えなくなるが、顔をひょっこり出してまで、高らかに声を上げた。
「リリー、ルカ、ここにいるロローツィアはな、なんと聖者なんだぞっ!しかも、オレの幼馴染なんだ!ん?なんか綺麗になったかっ?ロローツィア」
「ええっ?聖者様?」
「聖者様って、アクアリングの……」
「お忍びなんじゃないの?」
髪を隠していたのに、何故気付いたのだろう。睫毛まで隠さないといけなかった?
ざわめくお客さんたちに、内心ため息を吐く。僕ってば功績は有名人だから、顔バレはしたくなかったのに。オーランドは、自分が修羅場から逃れるためだけに、僕のことを暴露したんだ。
「聖者様……っ?」
「え、聖者が幼馴染……!」
ルカという男のオメガらしき子と、リリーという女性の反応は、対照的だった。彼の方は愕然とし、彼女の方はぱあっと明るい顔に。
かつての自分を彷彿とさせる彼らには極力目を向けないようにして、騒ぐオーランドへ向かった。もう、せっかくのデートに水を差されて、こっちが冷水を浴びせたいところだ。
「お久しぶりです、元婚約者様。相変わらず自分勝手なんですね、君って。もう僕と君は幼馴染という縁も切ったのだから、話しかけてこないでくれますか?」
「えっ、冷た……、な、なんでだっ?今、オレはこの街で一番活躍している傭兵なんだ。将来有望な……」
「おい、オーランド。俺に気付かないか」
グレイがオーランドの胸ぐらを掴んだ。乱暴ではないのに、オーランドはピシリと動けなくなる。グレイがマスクを取って、ようやく気付いたみたい。
「………………グレイ、リヒト……辺境伯令息……?」
「そうだ。ロローツィアは俺の伴侶となる。気安く話しかけるんじゃない」
「なっ!嘘だろう!?」
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