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番外編(と言いつつ番号順)
62 ショーン(1)
しおりを挟むグレイリヒト・シュトーレン side
得意げに調合をして見せる恋人は、その完成された側からポーションがみるみる減っているのに気付かない。可愛い。
可愛らしい彼を眺めながら下の方へ視線をずらす。小ぶりな尻にぴったりとフィットした制服が憎らしい。すらりと長い脚は、意外と硬いことを良く知っている。肌は柔らかいため吸い付くような触り心地なのに、しっとりとした肉付き。
うっかりその先を考えてしまって、俺は反省する。いけない、薬学に集中しなければ。
「ロローツィア、ポーションが減っているが、大丈夫か?」
「えっ?あっ、もう!」
ロローツィアは慌てて【守護】をかけてポーションを保護したが、もう内容は半分以上無くなっていた。ロローツィアの魔力を好む精霊が、ぐびぐび飲んでしまったのだろう。
「あら、ロローツィアちゃん、大丈夫?」
そこに声をかけてきたのは、アレキウスの婚約者となったマリーベル姫。アレキウスの側にいたいと留学してきた姫は、ロローツィアを気に入り良く一緒にいる。
「あはは……マリーベル姫、なんとか……少しは残ったから大丈夫、かな」
「……わたしの、こっそり入れる?」
「ううんっ!大丈夫大丈夫!そんなことしたら、マリーベル姫の分が少なくなっちゃうし」
「そんなのどうってことないもの。わたしよりロローツィアちゃん、ヤドヴィック先生に目つけられているから、心配だもの」
「はは……」
マリーベル姫がこそこそと囁く。それはその通りで、薬学とロローツィアとの相性――――というより、精霊の相性――――が、良くない。調合室は、精霊にとって遊ぶもので溢れているし、ロローツィアの魔力の込められたものは、精霊たちのご褒美になっている。つまり、提出物が無くなってしまうのだ。
「またか、ロローツィア・マカロン。何故こうも問題を起こすのだ……」
「すみません……っ」
「俺も零しました、先生」
「シュトーレンもか……仲良く居残りだ」
「はいっ」
「まぁ……」
マリーベル姫殿下はほんのり頬を染めて俺たちを見ていた。
「マリーベル?私たちに居残りをしている時間は無いからね?」
「もうっ、アレキウスさまったら……羨ましいだなんて、ちょっぴり思っただけですもの」
「放課後は王宮に行かなければ。君と一緒だから私は頑張れるんだぞ」
「…………アレキウスさまぁ……」
甘い甘い雰囲気の王子カップルを見送りながら、俺はロローツィアに寄り添った。居残り上等だ。
残念ながらマリーベル姫の想像しているより淡々と作業を進めるロローツィアが、俺には眩しい。今度こそ精霊に飲まれないよう、完成してすぐに魔術を使う彼の神秘的な姿は、何度見ても慣れることはない。
「俺の恋人は、なんて美しいのだろう」
「……もう、グレ、い……っ」
ロローツィアの柔らかい耳を含むようにして喰むと、ぽぽぽっと頬を赤らめていた。いちごのような頬が可愛い。そちらも食べてしまおうと口を近づけたところで、ドンドンドンドンッ!と激しい足音がした。
「ロロ~っ!聞いてくれよ!おれのセフレの彼氏の親が突然来てさあ……っ!」
「黙れゲス野郎」
ショーンだった。話の入り口だけでわかる、なんて下劣な話をロローツィアの可憐な耳に入れようとしているのか。
ショーンの素行は、性行為を覚えてから著しく低下した。いかんせん問題なのは、その親であるクランベリー侯爵も『若い時には遊んでおけ』という方針で、止めないのだ。
「セフレ……?」
「セックスフレンドだっ!セックスもする友達ってこと!」
「どういうこと?えっ、ショーンさまって」
ロローツィアの顔に疑問符が浮かんでいる。だめだ、こんな教育に悪い男が出てきては、ロローツィアの教育に悪すぎる。神様、どうかこいつを遮断してくれ。
「いや、ロロはグレイのもんじゃん?さすがに婚約しちゃったから、手出さないって決めたんだよ。だからまぁ他のやつに相手してもらってたんだけど、そいつ彼氏いるとか聞いてねぇし!」
「……ロローツィアを諦めたのは褒めてやるが、お前、適当過ぎないか?そこはよく確認してから、」
「だあってぇ、早く欲求不満解消したかったしよ!おれに『ボクでよければ……』とか言うやつに、フツー彼氏がいるとか思わねぇだろ!?」
俺とショーンが言い争っている間、ロローツィアはポカンとしていた。“セフレ”という刺激の強い単語に戸惑い、思考がどこかへ飛んでいってしまっている。
アルファにとっては、それほど驚きのない言葉となりつつある、“セフレ”。
己のアルファとしての力を示す指標の如く、セフレの数や容姿について自慢げに話すアルファのいかに多いことか。仲の良い両親を見て育った俺としては、くだらない、受け入れられない価値観ではあるが、ショーンとしては違うらしい。
「そんでセフレの彼氏の親が、『息子の嫁を誑かす間男め!』なんて言って乗り込んできたんだ。おれが侯爵令息だっつったら『慰謝料を払え』ってよ!?訳わかんネェだろ!?」
「……」
ショーンがロローツィアを口説こうとした時、ちゃんと情操教育の教師を呼んだはずなのだが。
もうすでに彼は、手遅れだったのか。それとも、学ぶ気が無かったのか。
「しょ、ショーン様。そのう、そのせふれ、という彼は、ショーン様の恋人、ということでしょうか……?」
「んん?違うぞ。ただ単に趣味の合うともだち、ってかいいやつって感じだ!」
そうあっけらかんと話すショーンに、ロローツィアは多大なショックを受けていた。よろめきそうになる身体を受け止める。なんてことを話すんだ、ショーンのやつ……!
「ショーン。それは、俺が聞く。ロローツィアには、辞めてくれ」
「ええ……?でも、お前、おれのために話聞いてくれる……のか?」
「ロローツィアのためならな」
微妙な顔をしたショーンに無理やり納得させた。これ以上ロローツィアの耳に変な話を入れたくない、俺のためでもあった。
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