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番外編(と言いつつ番号順)
63 ショーン(2)
しおりを挟むグレイリヒト・シュトーレン side
ショーンの自室へと招かれる。腹を決めたからには、どれだけ下世話な話が飛び出してきても受け止めてやる覚悟だった。
「下町のカワイーオメガちゃんでよ、そーゆーことをする相手は他にもいるって言うから、てっきりサバサバしてると思ってお願いしたわけ。おれも軽率に抱いたのは悪かったかもしれねぇけど、そういうもんだろ?男って」
「……」
「そしたら急に彼氏の親父とやらが乗り込んできてよ。『オレの息子の嫁になにしてるんだ!』って。もう何回も関係したのによ?今更ってやつだ」
「……」
ズズズ、とお茶を飲む。饒舌なショーンは俺の眉間に気づくことなく、ぺらぺらと話し続ける。
「そいつ『ボクのために争うのはやめて!』とか言ってよ。いや違ぇし。その場でおしまいだな、って言ったら泣かれるし、その彼氏の親には『嫁を泣かしたな!』って殴りかかられるし、反撃したけどよ」
「……それで、お前はどうしたいんだ?」
「慰謝料って、おれ、払う必要ないよな?大丈夫、だよな?」
その返答に、俺はため息をついた。コイツ、なんて短絡的なんだろう。
「まず、なぜ、お前は客として娼館に行かず、そいつを?」
えー、と気乗りしない返事をしたショーンを凝視すると、やがて降参したように話し出した。
「いや、さぁ。まあまあ可愛い子だったし、おれみたいなのとセックス出来るのはご褒美だとか言われたら、いい気分になるだろ」
「…………」
「別に金に困ってはねぇけどさぁ……金を払ってまでって感じだし……」
「ショーン。世の中には美人局という犯罪がある」
「ふうん?なんだそれ」
ショーンに教えてやった。人の彼氏・彼女に手を出した!と怖い人がやってきて金をせびる手法があるということ。ただし、ショーンはその怖い人を倒してしまったため、成立しなかったこと。
そのオメガに元から彼氏がいたかどうかは分からない。ショーンが金持ちだと踏んで“そういう専門の男”を彼氏として設定することもある。
今回『彼氏の親』という人間が出てきたのは、『彼氏』にしては年上過ぎて不自然だからではないだろうか。
そう見解を述べると、ショーンはポカンとした挙句、怒り出した。
「それなら!おれ、騙されたんじゃねぇか!クソッ!ちょーっと雰囲気ロロに似てるから妥協したのに騙されもしたなんて、おれ可哀想すぎるだろ!」
「……おい」
「あーマジでロロはやっぱすげー可愛いよな。はぁーなんでお前の婚約者なんだ……。いや、諦めたよ、口説きはしねーけどさぁ」
「殴ってもいいか?」
その後、俺とショーンで数時間、鍛錬場で格闘した。ショーンの性欲はそれで多少スッキリしたらしい。
***
その頃、ロローツィアは……。
セフレという言葉について考え込んでいた。
セックスをする友だち。友だち?
それって、恋人……じゃない、ということ?
僕はどんな関係性なのだろうと一生懸命想像したが、経験があるのはグレイとの情事だけ。愛しいって溢れてくるような目で、手で、全身をくまなく愛でられて、僕はいつもいっぱいいっぱいになってしまう。何度も体を重ねたのに相変わらずドキドキするし、それどころか、どんどん好きになっていく。
それを、友だち……に?
ショーン様は、その『セフレ』のことを好き、なのかな。でもそのセフレさんはショーン様を好きではない……?いいやでも、僕はグレイのことをどんどん好きになっている現状、セフレさんもショーン様に抱かれる側なら、ショーン様を好きになっているかも。えっ、もしかしてショーン様が抱かれる側……?
ぷしゅうと頭から煙が出そうになって、ぼへっとため息を吐いた。さっぱり分からない。ショーン様の破天荒さは、僕では理解できないんだ、そうだ、理解しようとするのを辞めてしまおうっと。
「ロローッ!来てくれて、嬉しいっ!ありがとう!」
友人となった何人かの男性オメガと、お茶会に来ていた。
皆、誰かしらの婚約者であったり、夫がいる。オメガがあまり社会に出されないのは、そのパートナーに束縛されているからで、細々とこういった会で交流を図っているらしい。
アレキウス様のツテでここを紹介されたのだけど、本当に来れて良かった。ここには、同じ悩みを持つ仲間が、たくさんいるから。
「それで、そのおともだちには、“セフレ”がいるんだって……?」
そう小声で聞き返してくれたのは、ここ最近話をする、ユーストス・ババロア伯爵令息。くりっとした丸いおめめとくるくるのカーリィヘアが可愛い、2歳年上の既婚者である。
最近びっくりしたこととして、セフレという言葉を知ったことをお話したかったのだけど、みんなの反応を見る限り、結構知られている単語らしい。
「そうみたい。僕、びっくりしちゃって。その、“セフレ”って言う言葉にもびっくりしたし、そういうものを持つのは、もっと大人になった人だと思っていたから……」
「えっ?ロローは大人になったら、セフレを持つ予定だった?ってこと?」
きょとんと首を傾げるユーストスに、僕は慌てて否定する。違う違う、それは違う!
「ちっ、違うよ!そうじゃなくて、うーん。もっと歳を重ねた大人なら、そういうことがあったかもしれないけれど、まさか僕たちみたいな歳で、そういう関係の人が出来ているなんて、夢にも思わなくて」
「あっ、そうかぁ。おともだちが大人っぽくて、びっくりしたんだね?」
「うーん……」
絶妙に噛み合わないのが、ユーストスの難点というか良い面というか。僕の言葉の足りなさを自覚するから、もっと語彙を増やしたいな。僕は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化したけれど、ユーストスはポン!と手を打つくらい納得したらしい。
「でもね、ロロー。アルファは色々と経験を積んだ方が良いアルファになるんだから、許容しないと。ボクたちオメガは、初モノの方が喜ばれるけど、アルファは違うから」
「な、なんだって?」
「つまり!アルファが色々と経験を積むのに、口を出しちゃいけない!ってこと!」
えっと……あの……エエ……?
戸惑っているのは、僕だけだった。話に聞き耳をそば立てていた他の子も、次々とやってきては僕へ熱弁し出す。
「アルファはオメガを抱く時、理性を失いやすいんです」
「予め予習しておかないと、ボクたちは怪我をしちゃう」
「だから、口出し厳禁なの」
そうなんだ……。もしグレイにセフレが居たら、嫌だけどなぁ。短期間の閨教育係でも嫌なくらいの僕は、心が狭いのかもしれない。
「ロローのアルファはグレイリヒト様でしょ?確か、美貌で有名な……」
「えっ、有名人なんだ……でも納得……」
「やっぱり、すごく格好良いの?ボクは噂でしか知らないけど」
「う、うん。……えへへ」
グレイの格好良さは日々更新され、手に負えないくらいだ。無自覚の時もあれば分かっててやっている時もあって、どちらも心臓に悪い。僕が聖者でなければ、色気の過剰摂取で早死にしてしまうところだ。
思い出して顔の熱くなってしまった僕を、ユーストスはニヤニヤしながら見ていた。
「ねぇ、教えてよ!グレイリヒト様、ベッドの中ではどうなの?優しい?それともSっ気がある?好きなプレイは?」
「ええっ!?みんな、そんな話もしてるの……?」
「うん!みんなそういう話、大好物なんだよ!それで新しいプレイを知れれば、パートナーと試すことも出来るしね!情報交換ってやつだよ」
僕は衝撃を受けた。“セフレ”衝撃に並ぶインパクトだった。そんな、パートナーとの情事の内容まで……!?
考えてみた。それを僕が話したなら、みんな、グレイのえっちな想像をしてしまうじゃないか。それは、嫌だ。頭の中は自由だとしても、心の狭い僕は、許せない。
僕は外面の微笑みを浮かべて、ユーストスに言った。
「誰にでも、心に留めておきたいことって、あるよね。僕にとってグレイの全ては、それなんだ」
「ええーっ!話してくれないの!?ケチ!」
「ふふ、ごめんね。絶対に嫌だ」
あっ、うっかり本音出ちゃった。
ぶすくれたユーストスは、その後、白けた様子でお茶会をお開きにした。険悪な雰囲気になってしまったけれど、いいもん。僕とグレイの秘め事は、秘め事のままにしておきたいもの。
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