僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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番外編(と言いつつ番号順)

67 マリーベル・スザク(2)

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 作戦当日となった。


 夜会に出席したマリーベル姫の帰り。品行方正なマリーベル姫は、他の人たちよりも少し早く帰る設定だ。僕たちはこっそりと潜入し、衣装を変えて、囮の馬車へと乗り込む。本物のマリーベル姫は、少し時間をずらして帰るみたい。

 まるで淑女のようにしずしずと馬車に乗ってしまえば、あとはツンと上品に乗っているだけでいい。


「これで、あとは襲われるのを待つだけだな」

「うん。早く終わらないかな、この仕事」

「そうだな。ロローツィア、疲れただろう」

「うっ……精神的ダメージがね……ははは……」


 果たして、男を女と間違えて襲ってくるのか。それが狙いではあるけれど、少々ポンコツすぎやしないかと心配してしまう。


「しかし、ドレスを着ていても美しい。ロローツィア。新しい君を見つけたような気持ちだ」

「あ、ありがとう……その、グレイも、よく似合ってる。格好良い」

「困ったな……この姿では、触れられない」


 そうだよね。今の僕はマリーベル(偽)なのだから、近衛騎士と浮気しているように見られてしまうかもしれない。
 お互い少し距離を置いて座っているけれど、本当は触れ合いたかった。我慢しなくちゃ。


「ロローツィア、良く似合っている。そう言われるのは嫌かもしれないが、男女を超越した可憐さだと思う」

「そんな……大袈裟な」


 すうっ、とグレイの目元が細まる。ドレスを透かして内側まで眺められているような心地がして、なんだかカッカと暑くなって視線をずらした矢先、馬車がガタン!と大きく揺れた。


『敵襲!』


 御者さんの声だ!


「ひゃっ」


 次の瞬間、グレイに覆い被さられていた。馬車が止まり、小窓のガラスが割れて欠片が降ってきた。

 馬車の外では事前に配備されていた騎士さんたちが、次々と敵を薙ぎ倒している。けれど無駄に数が多くて、馬車まで辿り着かれてしまったみたい。
 思い切って馬車を捨てる。グレイは僕を庇いながら、剣を振って敵を近付けさせない。


「いたぞ!姫を狙え!」


 そんな怒号が聞こえても、全く動揺していないのは、きっとグレイの腕の中にいるから。逞しい胸に包まれれば、きっとスヤスヤ眠ることさえ出来てしまう。

 襲撃者たちが縄や袋を持っているあたり、目的は誘拐のようだ。命までは狙ってないみたい。


 やっぱり騎士さんたち、それからグレイの力は凄かった。

 馬車を守らなくていいと判断した騎士さんたちの動きは格段に良くなったし、グレイの近くに味方は寄らない作戦だったのか、グレイも戦いやすそうだ。


 襲撃者は徐々に数を減らし、捕縛されていった。そして最後の一人を捕まえて、周囲をもう一度見回って、全て制圧したことを確認したら、あとは王宮に帰るだけ。


 だったのだけど。


「ん?」

「どうした、ロローツィア!」

「なんか、もぞって……あれ?」


 背中に何か入っちゃったような、違和感。
 咄嗟にそこを抑えたけれど、何も無い。ここらへんは森のように木がたくさん生えているから、なにか毛虫でも落ちてきたのかもしれない。と思い当たって、ゾッとした。


「グレイ、何か僕についてない?毛虫とか」


 くるりと後ろを振り返った時、グレイが息を呑んだ。何?不安に駆られて肩越しに振り向くと、グレイに掴み掛かられていた。


「きゃあっ!?」


 変な声が出ちゃったと同時に、ビリビリビリッ!とドレスが破れる。なんてことをするんだとグレイを見れば、何かと格闘していた。小さい、手のひら大のタコ……?どうしてこんなところに?


「“侵入蛸スパイオクト”が姫の服の中にいるっ!俺が対処するから援護しろ!」


 グレイが言葉を放つより前に、モゴッと口に何か飛び込んできた。ぬるぬるしたピンポン玉だ。そいつはタコのように複数の触手で僕の口を塞ぎ、何かとろりとした粘液を飲ませようとしている。


「~~~っ!?」

「ロローツィア、飲むな!発情させられるぞ!」


 ぎゃあっ!でも、でも、鼻まで押さえられてしまって、飲まざるを得ない……っ!ごくん、と嚥下すると、鼻を押さえていたタコは満足したように退いていく。この子たち、操作されてる……!?

 ドレスの中がもぞもぞと動き出し、たくさんのそれが一斉に身体中を這い回りだした。悲鳴を上げようにも上げられず、気持ち悪さに失神しそう。

 口を塞がれているから、ぎゃーぎゃーと心の中が騒ぐ。気持ち悪いよぉっ……!!
 
 グレイは僕を地面へ押し倒し、ドレスを紙切れのように剥いで、タコを引き剥がしては騎士さんたちの方へ投げる。タコは僕の穴という穴を塞ごうとしているのか、口、耳、それから下履きの中まで入り込む一歩手前。

 ぶわっと粘液を放出される。ぬるぬるでまみれた肌の上を、滑るようにタコが移動し、くっつくのだけど、妙に乳首やおへその下などの、僕の弱いところに集中する。気持ち良いのが気持ち悪い。


「ん、ン……、んんっ!ーーーーッ!」


 ある意味、口を塞がれていて良かったかもしれない。変な声が出そう。腰が跳ねて、あ、お尻に入り、そう……っ!


 グレイは一切の躊躇も情け容赦もなく、僕のぷりっとしたお尻の割れ目に手を突っ込み、タコをぐにゅんっ!と引っ張り上げた。

 何か術が掛けられているのか、執拗に僕だけを狙うタコ。騎士さんたちから何匹かタコが逃れて、再び僕へ忍び寄り、絡みつこうとするのも防がないといけなくて、結局ほぼ全ての服を剥ぎ取られてから、最後の一匹が放り投げられた。


「ロローツィア、すまない……っ」

「オエッ……ん、んぁっ、うっ、うっ、……」


 大丈夫、とは言いにくい。すぐにマントで包まれたし、騎士さんたちもこちらを見ないよう気を遣ってくれていたけれど、体液を飲んでしまったことで、発情状態になってしまっていた。でも、少し残った理性で、周りの状況を把握しようと試みている。


「ぁ、グレイ、ぐれぃ……っ」

「すぐに帰ろう、大丈夫だからな」


 タコとの格闘中にウィッグも外れてしまったので、男だとバレてしまったのが痛い。捕縛された襲撃者たちは、僕を見て『偽物だったのか』とヒソヒソしていた。女装するだけでなく、女装をしていたとバレた時の恥ずかしさも味わうことになるとは。


「今夜見たことは忘れるように」

「は、はい……っ!」


 怯える騎士さんたちに、グレイは厳しい目を向けていた。僕の(ほぼ)裸を見られてしまったのが、気に食わないのだろう。でも、グレイが覆い被さるようにしていてくれたから、多分、あんまり見られていないと思う。うん、きっと、そう。

 そんなことより、まさか人間でないものを使うなんて、本物のマリーベル姫に使われなくて良かった。まだ僕の方が、蔓に襲われたり粘液まみれになったりしたこともあるもの。


「グレイっ……、僕たち、役割は、果たした、よね……っ?」

「ああ。間違いなく」




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