僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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番外編(と言いつつ番号順)

69 マリーベル・スザク(4)

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 マリーベル姫(偽)を襲ったのは、アレキウス様の次の婚約者という立場を狙っていた、とある伯爵令嬢のお家だった。かつて僕に文句を言っていた、星形のそばかすのご令嬢だ。

 そのご令嬢のお父様が首謀したのは、マリーベル姫の尊厳を傷つけること。魔物使いを雇ってあられもない姿にさせて、襲撃者たちも気分を高揚させるお香のようなものを所持しており、おそらく口には出せないようなことを計画していたのだけど。

 下手すればスザク王国との戦争となるところ。もちろん伯爵家は没落。ご令嬢は直接的には関与していなかったけれど、計画は知っていて楽しみにすらしていたそうで、厳しい環境の修道院へ行くことになった。

 襲撃者たちは全員捕縛されたし、魔物使いさんは貴重だと言うことで、行政の管理のもと、ゴミ処理場のスライム使いへ転職させられたみたい。とても人気のない職場でも、人間の生活には必要不可欠だからね。


「もうっ!わたしっ!ぷんぷんですわ!ぷんぷんぷんの助ですの!わたしのロローツィアちゃんを、そんな目に遭わせたなんて、絶対に許しませんっ!」

「お、落ち着いてください。正しくは、マリーベル姫が狙われたのです。怒るのはごもっともですが、……ぷんの助って何ですか?」

「とにかく!伯爵だけじゃありません!ロローツィアちゃんのおハダカに釘付けになって侵入蛸スパイオクトを取り逃した騎士は、半年間の遠征!禁欲!これは絶対ですわ!」

「な、なんですって?」


 グレイが必死に駆除してくれたタコが数匹戻ってきていたのは、そういう訳だったのかと納得してしまう。あのぬるぬるなタコは仕留めにくそうだから仕方ない、と思っていた。


「でも、マリーベル姫。僕で、良かったですよ?僕は男だし、騎士さんたちと同じ作りの体です。まぁ、恥ずかしいは恥ずかしいですが、騎士さんたちは紳士だって分かっていますし……」

「あまい!あまいわ、ロローツィアちゃん。騎士って、本当は誰より危険なの。ただ、外面がいいってだけ。認識を改めて、気をつけなくちゃ」

「え?は、はい……?」


 マリーベル姫は、ふんすふんすと鼻息を荒くさせて、側にいた護衛騎士を呼んだ。その方はマリーベル姫の祖国であるスザク王国から連れてきた、専属の護衛騎士だった。


「紹介するわね。専属護衛騎士のダンテ、35歳。既婚者でありながら週に8回は嫁を抱く、性豪なの。嫁の体調不良の時は、第二夫人、第二夫人の体調不良の時は、第三夫人。この人のせいで、わたしは結婚に夢を持てなかったの」

「ダンテです。よろしくお願いいたします」


 爽やかな笑みを浮かべるダンテさんは、マリーベル姫のトンデモ紹介の人とは思えないほど清涼感のあるお人だった。白い歯が眩しい。35歳よりも10は下の、とある教育番組のお兄さんにしか見えない。


「私は姫様の夢を叩き潰し、現実を直視させる役割も担っておりますので。自分としては心外ですが」

「それは、また……」

「世の中には悪い男、アルファどもがたくさんいます。姫様にはそういう人間もいると知って頂きたかったのです。そして、聖者様も」

「僕……ですか?」

「あなたの裸体を、目に焼き付けている騎士がおりました。喘ぎ声、肌の火照り具合、それらをまるっと記憶してに利用して……それでも、騎士は紳士だと言えますでしょうか」

「うっ……ひ、人による、ということでしょうか」


 にこりと笑うダンテさん。及第点です、とでも言いたげなお顔。大人、怖い。
 そして、僕の付き添い兼護衛として一緒に来たグレイも、話を聞いて壁側に立ちながらもピキピキと殺意を漏らしている。あれ、大丈夫かな。騎士さんたちが。

 ダンテさんはグレイをちらりと見ながらも、さらりと続ける。


「ですから、そういう意味ではシュトーレン辺境伯令息もまだ甘いですね。私なら、どの妻の裸体でも、見られたなら許しません。記憶忘却の薬を盛ります」

「ひえ……」

「ね?とんでもないでしょう?騎士って本当に紳士でもなんでもないのよ」


 ちなみに、記憶忘却の薬は副作用が強い。その一定期間の記憶全てが無くなってしまうので、自分の歳を一歳間違えるほどだ。何の躊躇いもなく他人に飲ませようとするダンテさんって……。

 そっかぁ、マリーベル姫は箱入りのお姫様だと思っていたけれど、意外なところから厳しい世界を教育されていたんだね。


「マリーベル姫は夢を見れなかったのですね。てっきりアレキウス様に一目惚れされたのかと」

「あっ、でも、アレキウス様は違うのよ!本当にあの方って、素晴らしいの。ダンテとは違ってスレていないし、わたしを大切に大切にしてくださるし、毎日違うお花を贈ってくださるし……夢を見せてくれるの」

「姫様。男は30も過ぎればみんなスレますし、花は花屋にお任せに違いありません。ですが、会った時に大切にするフリをするのなら、まだマシな方だと言えるでしょう」


 そう冷静に言うダンテさんを、マリーベル姫は毛虫でも見るかのような顔をして見ていた。分かる、分かるよ。なんて現実的な護衛騎士なんだ……。

 僕は反省した。姫様の護衛騎士と言えば、生涯独身を貫く清廉で忠実なシモベ……という偏見を持っていたことに。


「分かる?この人、自分は三人も妻がいる安全圏から、わたしの未来の旦那様を好き勝手に値踏みをして、アレコレうるさいの!何度も恋の芽を摘まれて、やっと合格が出たのがアレキウス様!悔しいけど、本当に素敵な方なのよね……」


 そううっとりとなにかを思い浮かべている様子のマリーベル姫へ、ダンテさんは生ぬるい声で淡々と茶々を入れた。


「これでも姫様の二倍以上の人生経験がありますからね。なんせ姫様はちょっと小指が触れただけで『運命かも!』と騒ぎだすんですから、強めに目を覚させないといけませんでした。強いて言えばアレキウス殿下は少し夢みがちな部分がありますから、姫様は合わせてあげた方がよろしいかと……」

「本当にうるさいわね!」

「お褒めいただきありがとうございます」


 ……とっても仲の良い主従らしい。

 僕もマリーベル姫と同じで、人を見る目があるとは言えないから……グレイと出会って恋人になれたのは、奇跡かもしれない。

 後ろで待っていてくれるグレイを横目で見て、胸がほかほかと温まった。



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