僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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番外編(と言いつつ番号順)

70 マリーベル・スザク(5)

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(マリーベル・スザクside)



「今日も可愛かったわぁ……」


 わたしは城を後にするロローツィアちゃんの後ろ姿を眺めて、呟いた。

 ドレスを着たロローツィアちゃんも超絶可愛かったけれど、そうでなくてもロローツィアちゃんは可愛い。動き一つひとつが小動物みたいで、思わずつんつん突きたくなってしまう可愛さなの。

 わたしの容姿はなかなかの美少女。でも中身は反対で誰かさんのせいで、疑い深いし、なかなか信用できない、厄介なもの。

 そんなわたしでも、ロローツィアちゃんは……すうっと、信用してしまう。聖者様ということもあるけれど、それだけじゃない。透明感、かしら。ロローツィアちゃんと話していると、静かな湖面と対話しているような、不思議な気持ちになる。

 ダンテとは大違いよ。ダンテは、一番信用してはいけない男。それなのに定期的に引っかかる女が続出する、罪な男。

 一時期は絶望したわ。ダンテに魅力があることは間違いないもの。え、好きだったんじゃないかって?まさか!


 巷には『お姫様と護衛騎士の恋』なんてものがよく美しく描かれているけれど、現実にそんなことある訳ないじゃないの。そんな若造に、国王が、大事な娘を預けるのかって話。

 ダンテの前はものすごくいかついベテラン騎士だった。もちろん既婚者。その前もそう。ダンテの顔は童顔寄りだから若く見えても、やっぱりベテランになってからわたし付きになった。その時にはすでに既婚者だったから、恋に落ちる要素は一つもなかった。


 男は中身よね。だけど容姿も捨てられない。ダンテのせいで、そういう魅力に溢れる男性は、一人では満足できない性なんじゃないかって嫌悪感を抱いたの。わたしが魅力を感じる男性を求めるのなら、誰かと愛する男を共有しなければならないのかと、途方に暮れた。

 実際にパパが持ってくる縁談は、そういう男性はいなかった。まぁ、つまり、魅力的ではなかったの。わたしにとってはね?

 スザク王国が小国でも、技術力は高いのだからと、突っぱねてきて良かった。それから、わたしがパパに溺愛されているのも幸運だったわね。


 大国であるアクアリング王国から、超絶優良物件の縁談が来たんだもの。


 アレキウス様の肖像画を見て、すぐに決めたわ。釣り書きの端には、『ナルシストだが一途でロマンチストな自分も好きそう』という、ダンテのメモがくっ付いていた。これまでの縁談と比べれば、最上級の褒め言葉だった。

(『釣った魚に餌をやらないタイプ』『他人に気前はいいが実はケチ』『隠し子が2、3人いる』『女性を殴っていそうな顔』……恐ろしいことに、ダンテがそうメモをした相手を詳しく調べさせると、結構当たっているのよ。なんなのよもう)

 そうして会った、アレキウス様。美しさと凛々しさの共存した素晴らしいお方な上、わたしを最大限考慮してくださるの。つい最近、婚約を解消することになったらしいから、その元婚約者さんに感謝しなくてはね。素敵な方を手放してくれてありがとうって。

 わたし、決めたの。この方を、全身全霊で愛するわ。

 その判断は正しかった。アレキウス様は、今やわたしを大事にしてくれる、素敵な王子様。わたし、本当に彼を選んで良かった。












 想定内というべきか、仕方ないと言うべきか。

 アレキウス様とトントン拍子に婚約が決まった弊害で、わたしはレディたちから嫉妬を買っていた。

 狙われたわたしのために、ロローツィアちゃんは囮を買って出てくれた。そのせいで、大変なことになってしまって。ロローツィアちゃんは『僕が代わりで良かった』と笑ったけれど、わたしは一瞬で泣きそうになったわ。だって、ロローツィアちゃんだって怖かった上に恥ずかしかったはずなのに、そんな気持ちを出さず、わたしを慮ってくれて。

 わたし、ロローツィアちゃん推すわ。大好き。わたしがアルファなら、ロローツィアちゃんを攫ってしまいたいくらい、大好き。

 グレイリヒト様はたしかに、ロローツィアちゃんを守るに相応しいお方だけれど……でもね?

 緊急だったからって、騎士達の目の前でロローツィアちゃんを全裸に剥くなんて!!正気を疑うわ。ええ、落ち着いて考えてもそれは正しい処置で、他の方法を探す余地なんて無いって、分かっていても、それはそれ、よ。女は正論じゃ生きていけないのよ!!


「今度はロローツィアちゃんとパジャマパーティーをしたいわ。女の子のネグリジェを着せたら、いけるかしら?」

「どうでしょう。各方面から嫌がられると思いますが」

「なによ各方面って」

「シュトーレン辺境伯令息からと、アレキウス殿下からは嫉妬で。聖者様からは二度と女装をしたく無いという意味で」

「ええっ!?あんなに可愛いのに……!」

「ご本人は不満そうでしたからね」


 ダンテは訳知り顔で言った。あんたがロローツィアちゃんの何を知っているのかと問い詰めたいところだけど、そう言うにはこの男の人生経験が豊富すぎた。


「オメガではありますが、お可愛らしい容姿にコンプレックスを抱いていらっしゃるご様子。反面、『強い』『男らしい』といった言葉に弱くていらっしゃるので、上手くつけばころりと陥落すると思われます」


 ころりって……。別にわたしは、陥落させる気はないのよ。ただ、おともだちとしてもっとたくさん話したいだけなんだから。


「『頼れるのはロローツィアちゃんだけなの……、紳士的で優しいあなたにしか、相談できない』ハイ、これが殺し文句です」

「ダンテ、あなたって本当にろくでもないわね。グレイリヒト様に殺されるわよ」

「ははっ、まだ、若造には負けません」

「別に相談したい訳じゃなくて、お話ししたいだけなのに……」

「ですが、姫様と夜通し話す理由が必要でしょう」



 ぐぬぬ。
 わたしは結局、ダンテから教わった台詞を使い、ロローツィアちゃんを見事釣り上げた。本当に恐ろしい男だわ、ダンテってば。

 でも、ロローツィアちゃん。ひねくれたダンテなんかと違って、まっすぐな貴方が大好きよ。















***



 ーーーーーーーーーーー後日。


「わっ、謝礼ってこんなに!?」

「スザクの有名な菓子……ドラヤキ、ヨウカン、クズキリか」

「わああああっ!嬉しい!スザクで有名なの!?」


 マリーベル姫から、囮作戦の謝礼というかプレゼントが届いたのだが、予期せぬ喜び。日本のお菓子だ!
 スザクってもしかして日本っぽいのかな。すごくすごく、興味が湧いてきた。

 ドラヤキを抱えて飛び跳ねる。食べてみてまた飛び上がり、無くなってしまってしょぼんと落ち込んだ。


「もう……無い……」

「?まだあるだろう。在庫が」

「一日一つだけ!あとは聖ポケットに保管しておくんだ!だから今日の分はもう無くて……ああ……」

「食べたら無くなるぞ……そうしたら俺が買ってくる。ほら、大丈夫だから」

「グレイ……なんて優しいの……ありがとう。一緒に買いに行こ」


 グレイに慰めてもらい、僕の気分は簡単に浮上する。うんうん、一緒に旅行、素敵だ。

 スザク王国に想いを馳せながら、大量の贈り物を仕分けしていく。お菓子の他にも、緑茶もあったし、もこもこの可愛らしい寝巻き(マリーベル姫とお揃いらしい。着ぐるみに近いから、脱げなさそうでいいかも)に、僕とグレイでお揃いの、渋くて格好良い着流しが二着も(『気に入ったらぜひスザクの商人を紹介するからたくさん買ってね』という販売促進付き)。

 サクラルビーを模した髪飾りも、見事な作りで素晴らしかった。その箱の底には新しいヒモヒモぱんつが、カラバリ豊富に添えられていた。えっと、有難いけど、なぜまた追加されたのか。

 もちろんバレないよう、ささっと聖ポケットに突っ込んだよね。目録もくろくなんていう、ご親切にも丁寧な物品リストが付いていたなんて、知らなくて。


 ……まさか後日、毎日穿かされることになるなんて、想像もせず。

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