僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

文字の大きさ
75 / 76
番外編(と言いつつ番号順)

74 新婚(2)

しおりを挟む


「ユーリス、冗談は顔だけにしろ。ロローツィアが本気にする」

「えー?ボクは本当のことにしてもらっても構わないけどー?ってか、顔はフツーに綺麗でしょぉ?失礼だなっ!」


 一瞬で、先ほどまで感じていた、困るくらいの幸福感が引いていく。どゆこと、愛人?で、なんで、僕のグレイの腕にしがみついて、身体を押し付けているの?

 グレイも迷惑そうに引き離そうとしているのだけど、いつか見た侵入蛸スパイオクトのようにくねくねとして、なかなか剥がせないでいるみたい。


「ユーリスは、俺の恩師の息子さんだ。たまに飯を一緒に食べるくらいの仲であって、……どうしたユーリス、お前飲み過ぎなんじゃないか」

「ええー!?ボクとリヒトは一緒にお風呂入ったり、ご飯食べさせあう仲でしょ~?ほら、あ~ん……」


 ユーリスさんは、とっても色っぽく流し目をしながら、近くにあったブドウを一粒、摘んでみせた。ううっ、僕には出せない艶やかな色香に、嫉妬だ……。

 イライラしていたのもあって、僕は簡単に挑発に乗る。グレイに差し出されたブドウは僕が噛み付くように食べてやって、遮るように間に立った。


「僕だって、グレイと一緒にお風呂に入ったことあります!あ~んしたことも、されたこともありますから!」

「ふぅぅんっ?でもさぁ、新婦ちゃんは見るからに……マグロでしょ?ボクみたいに熟練の方がさぁ、リヒトを楽しませられると思うんだよねぇ。ね、リヒト」


 まぐろ……?なんだって?おさかな?


「リヒト、新婦ちゃんに飽きたらボクを呼んでよ。絶対ハマると思うんだよねぇ。ね!決まり!」


 なにそれ、勝手にそんなこと決めないで!


「ぼ、僕だって、僕だって、」


 僕がぐっと下唇を噛んだ時、グレイの手がふんわりと触れる。そしておもむろに口付けると、舌を差し入れてきたのだ。
 びっくりして、もう唇を噛んでいる場合じゃない!ここ、人前!宴会の!真っ最中だよ!


「ロローツィア、噛むな。傷付いてしまう」

「はふっ、ん……っ、ふ、ふぁ……」


 くちゅくちゅと噛んだ跡をなぞるように優しく喰まれて、気がつけばしっかり深いキスになっていた。腰を掴まれているので仰反るしかなくて、みんなが見てるよと言いたくても塞がれてしまっている。

 ユーリスさんが何か言っているのに、全然耳に入らない。ああ、くらくらしてきた……。


「もうっ!いつまでチュッチュしてるのさ!リヒト!分かったから、もうやめてよぉおおお!」


 僕が息を荒げて身体を離した時、ユーリスさんは泣いていた。それはもう、号泣と表現してもいいくらいに。


「ボクの方が!ずっとずっとリヒトを好きでいたのにっ!どうしてポッと出の奴と結婚なんかしているんだよ!」

「お前、そんなこと一言も言ってないだろう……、知らん」

「わぁぁああ!人でなし!!」


 ユーリスさんは泣き叫んで、バタバタと出ていった。嵐のような人だ……。

 僕はグレイに支えてもらいながら立ち直ると、グレイをジト目で見つめる。


「長年、グレイの側にユーリスさんがいたってこと?グレイを好きな人が、近くにいたってこと、だよね?」

「近くでは、ない。恩師が連れてきた時だけだし、普段のユーリスはああではなかっ……」

「……中座させていただきますっ!」


 グレイの手から逃れると、僕は控え室へ駆け込み、鍵をかけた。
 なんだか無性にイライラする。すごく、嫌な気持ちだ。

 頭では理解しているんだ。グレイはにぶチンなだけ。ユーリスさんからの好意に気付かなかったのは、グレイが悪い訳じゃない。

 それに、あれだけ格好良い人なのだからモテるのも必然。ユーリスさんだけではなく、たくさんの人たちを魅了してきたと思うもの。いちいちヤキモチ妬いていたら焦げて身が持たない。

 ……でも、ユーリスさんはきっと、これからも近くにいる。恩師の息子さんなら、無碍には出来ないのだろう。グレイは、『普段はああじゃない』と擁護していた。


「ううっ、なんでなんでなんで……っ」


 理解と感情はバラバラだ。かあっ、と苛立ちで頭が熱くて、今グレイに会ったのならひどいことを言ってしまいそうで、怖い。僕ってば温厚で穏やかなタイプなのに、こうも振り回されてしまうなんて。

 コンコン、とノック音がする。


「……俺だ。開けてくれないか」

「…………ごめんね。今は……会えない」

「少しだけでも」

「少しだけ、一人にしてくれる?」


 そう言うと、ぱた、ぱた、とグレイが遠ざかっていく気配がした。そうさせたのは自分なのに、寂しくて、自己嫌悪に陥る。



 しばらくするとまた、ノック音がした。今度は、グレイではなかった。


「ロローツィアちゃん。ごめんね、わたしで。少しだけ、いいかしら?」

「お義母さま……」


 泣き腫らした顔で扉を開けると、お義母さまは『なんてこと!』と慌てていた。すぐさま冷やしたタオルを持って来てくれて、優しい。素敵なお義母さまだ。

 自分の感情の整理もつかない僕に、ゆったりと話しかけてくれる。


「さっきはグレイリヒトが、ごめんなさい。あの子、本当にロローツィアちゃん以外、基本的にどうでもいいのよ」

「……えっ?」

「でもそれではいけないと教育されたから、なんとか取り繕っているだけ。本質的には無感情で無執着の、お人形さんみたいな息子だったの」

「そうなんですか……?」


 とっても困ったのよ、とお義母さんは頬に手を当てて、微笑んだ。


「言ったことは素直に取り組むし、期待した以上の成果を出すけれど、それだけ。自分からしたい!っていう意欲が無くて、わたしたちはオロオロしたものよ。婚約者を決めなかったのも、それが原因。きっと受け入れるだろうけど、淡々とした結婚生活になりそうでね。わたしたちも恋愛結婚だったし、グレイリヒトには恋をしてもらいたかったの」

「こい……」

「そうよ。だから、ロローツィアちゃんと出会って、恋をして、変わったあの子がとっても誇らしいわ。全部、ロローツィアちゃんのおかげなの。ユーリス?あの人のことは忘れてちょうだい。もう二度と会わせないようにしておくわ」

「えっ!そ、それは……」


 いいのかな。グレイの、おともだちだったんじゃないかな。僕のヤキモチで、おともだちを無くさせてしまうのは、あんまりに申し訳ない。


「僕は、グレイの交友関係に口を出したくはないんです。ただ、ちょっと……嫌だなって、思っているだけで……」

「あら。じゃあそれを、グレイリヒトに伝えましょう?思っているだけじゃ、グレイリヒトも分からないもの。ね?きっとあの子は、ユーリスを切り捨てると思うわ」

「…………はい………」








 “あなたのおともだちが、嫌です”。

 それを言う勇気は、なかなか、出なかった。

 それでも宴は関係なしに続く。移動をして、お披露目をして、乾杯をして、また移動。夜はお父様とお母様、それから5人の弟たちと騒いで笑ってスコンと寝て。

 いよいよ宴の最終日。進行に隙間が出来て、しどろもどろになりながらも、僕はようやくグレイに話しかけることが出来た。


「グレイ、あのね……ユーリスさんのことなんだけど……」

「奴とは縁を切らせてもらうことにした」

「僕、嫌だなって……え?」


 あ、あれ?何か今、時空がねじれたのかな?

 驚きに目を見張ると、グレイはとても不愉快そうな表情を露わにしていた。






しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...